あなたの「好き!」に、日本酒が答える!

sake_answers

~03.歴史好き・旅好きなあなたへ~

 さて、歴史好き・旅好きなあなたへ、ちょっと手前味噌ですが、まずは当社を例にご紹介させていただきましょう。実は司牡丹酒造は、現存する高知県企業の中で最古と言われており、その400年を超える長い歴史の中で、数多くの歴史上の偉人たちに愛されてきているのです。関ヶ原の戦いで勲功を得た山内一豊は、徳川家康から土佐を賜り、家臣を引き連れて土佐に入国します。その時、山内家の主席家老として佐川の地(現・高知県高岡郡佐川町)に入ったのが深尾重良で、その深尾家のお抱えの酒屋が司牡丹酒造の前身であると伝えられています。そこから司牡丹酒造の創業は、慶長8年(1603年)とされているのです。山内家の主席家老のお抱えの酒屋ですから、当然その酒は代々の藩主に献上されたはず。つまり初代藩主山内一豊から、幕末の十五代藩主山内豊信(山内容堂)まで、司牡丹のお酒(※注:当時はまだ司牡丹の酒名ではない。)を飲んでいたであろうと言える訳です。そしてさらに、司牡丹は坂本龍馬と最も縁の深い蔵と言われているのです。司牡丹酒造、竹村家の屋号は「黒金屋(くろがねや)」。一方、坂本龍馬の本家「才谷屋(さいたにや)」も、質商・諸品売買などと併せて酒造りを営んでいました。「才谷屋文書」によると、「才谷屋」と「黒金屋」との間には頻繁な交流があったことが記されており、また家系図などによれば「才谷屋」坂本家と「黒金屋」竹村家は、姻戚関係にあった可能性があるのです。さらに極めつけは、竹村本家には坂本龍馬の手紙(慶応2年3月8日、甥の高松太郎あて)も所蔵されており、代々受け継がれているのです。そして、佐川の地は維新の志士を数多く輩出していること、龍馬の脱藩の道に当たっていること等を重ね合わせれば、「才谷屋」と「黒金屋」、坂本龍馬と司牡丹の関係は、因縁浅からぬものがあるといえるでしょう。司馬遼太郎著「竜馬がゆく」の中にも登場し、司牡丹は龍馬が飲んだ酒として知られていますが、実際は龍馬の時代には司牡丹の酒名はまだ付けられていませんでした。もちろん酒名はまだでも「黒金屋」の酒自体は存在していた訳であり、前記の通りの因縁の深さから考えれば、当然龍馬もこの酒を飲んでいたことでしょう。ちなみに司牡丹の名付け親は、坂本龍馬・中岡慎太郎亡き後の陸援隊長で、明治新政府の宮内大臣となった伯爵、田中光顕(佐川出身)で、司牡丹の命名は大正8年(1919年)からです。そして、長くなりますので詳細は省きますが、高知県出身の二人の総理大臣、浜口雄幸首相も吉田茂首相も司牡丹を愛飲していました。
 では、他の日本酒の例も、いくつか挙げてみましょう。北海道の「男山」は、大阪・伊丹の本家の酒蔵からその商標や伝来の資料等の一切を譲り受け、「男山」の正統な後継蔵となっていますが、歌川国芳が描いた浮世絵には、討入後の赤穂浪士が「男山」の四斗樽を飲んでいる絵柄が描かれているそうです。次に、古くは平安時代にその名を見ることができ、太閤豊臣秀吉が催した「醍醐の花見」の献上品目録の第一番に記されている名酒は「加賀菊酒」であり、その伝統を受け継いでいる蔵は、石川県の「菊姫」と「萬歳楽」であると言えるでしょう。続いては、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」の主人公である黒田官兵衛を祖とする九州の黒田藩の武士の豪傑ぶりを歌ったものが有名な「酒は飲め飲め・・・」の「黒田節」ですが、その元歌となったのは福岡県の「萬代」を歌った歌なのだそう。ちなみにその元歌は、「酒は呑め呑め呑むならば宇美の栄屋(「萬代」小林家の屋号)に立ち寄りて早見川(「萬代」以前の酒名)という酒を桝のすみから二合半」というものだそうです。
 また、歴史好き・旅好きのあなたに、是非お薦めしたい書籍があります。「日本史がおもしろくなる日本酒の話」(上杉孝久 著 サンマーク文庫 2014年8月15日発行 680円+税)という文庫本です。この書籍の著者は、日本酒プロデューサーであり、日本地酒協同組合の専務理事も務めていらっしゃいますが、何と上杉謙信や上杉鷹山を祖とする上杉子爵家の9代目当主でもあります。著者は、カルチャースクールで「日本酒と歴史」の特別講座をシリーズで行ったことがあるそうなのですが、毎回キャンセル待ちが出るほどの人気なのだそうです。そして次のように語られています。「日本酒はそれぞれの土地の歴史に深く関わっていますので、旅をされるときに本書を読んでおくと、より一層楽しめると思います。ぜひ旅行をされるときのお供としてもご活用ください。」・・・つまり、旅をする地域の歴史を知っておくと、その旅の楽しさが倍増し、より記憶に残る奥深いものになるということです。そして、地域の歴史を知るのにうってつけなのが、その地域に古くから存在している日本酒蔵元の存在だということなのです。
 日本酒の蔵元は、長い歴史を誇る企業が多いため、歴史上の偉人たちとの因縁や関係が深い蔵元や、地域の歴史と深く関わりを持っている蔵元は、まだまだ数多く存在しているはずです。現在も入手可能で飲むことができる日本酒と、歴史上の偉人たちとの因縁や関係を知ると、彼ら偉人たちの生きた証しのようなもの、息づかいを感じられるようになります。私も歴史好きですからよく分かるのです。以前坂本龍馬の少年時代を研究したとき、当時の龍馬が鏡川で川遊びをする際、どの道を通り、どこから川に入ったかということを調べたことがあります。そんな中で、本当に活き活きと走り回る龍馬少年の息づかいを実感することができました。学問的な「日本史」にとってはどうでもいいような小さなことが、歴史上の人物を立体的に浮かび上がらせてくれ、リアルな息づかいまでも感じさせてくれることにつながるのです。そして、全国各地に古くから存在している日本酒蔵元こそ、そんな役割を果たしてくれる恰好の触媒なのだといえるでしょう。歴史好き・旅好きなあなたが、日本酒という新たな視点から歴史を見るとき、そしてそんな旅をするとき、幸せの発見回数は間違いなく格段に増えるはずです。そして「今この瞬間の幸せ」に気づく力が養われ、結果としてあなたの人生は幸せに包まれることでしょう。