ナチュラル派のあなたには、日本の自然や風土と日本酒の関係についてをご紹介いたしましょう。マニアックな日本酒ファンの方々は、日本酒の伝統の匠の技の部分ばかりに目が向いてしまいがちですが、実は日本の自然や風土も、日本酒にとっては大変大きな要素になります。まず日本酒の原料が、なぜ米になったのかといえば、それは日本の国の自然や風土が、稲作に大変向いていたからでしょう。そして、なぜ麹を使う醸造方法が生まれたのかといえば、日本の国は高温多湿で、カビの発生しやすい自然や風土であったからでしょう。さらに、意外に忘れられがちですが、日本酒の原料の約80%は水なのです。これも、日本の国が良質な水に大変恵まれていたという自然や風土のお陰です。これらの根本を抜きにして、伝統の匠の技も何もあったものではないのです。そして、私は特に「水」を重視したいと考えます。ワインはブドウから造られ、日本酒は米から造られますが、ワインは基本的に水を加えずブドウだけで造られ、日本酒は「仕込水」という水を使わなければ造ることができません。前記の通り全体の約80%が水である日本酒において、水の役割は大変重要なのです。また、日本酒の香味や個性や美味しさを決める要因は、「水」と「米」「技」「風土」であるといわれますが、その「米」は水田で作られる水稲ですから水が重要ですし、「技」において最も重要であるとされる麹は、米に黄麹菌というカビの一種を繁殖させたものですから空気中の水分が重要になります。湿度の高い日本の「風土」がカビの食文化を育んできたともいえます。このように考えると、「米」も「技」も「風土」も「水」がポイントになってくる訳ですから、日本酒にとって最も重要な要素は「水」であるといってもよいのではないでしょうか。現在日本全国に約1,500社ほどの日本酒蔵元が存在していますが、その地酒の根本的な味わいの個性を生み出しているものは、その地域ならではの水であるともいえるでしょう。
また、伝統的な和食、日本料理も実は「水」が大変重要です。世界の料理を一言で表すなら、フランス料理は「ソースの料理」、中華料理は「火の料理」、そして日本料理は「水の料理」であると言えるでしょう。日本料理の基本となる出汁も、実は鰹節や昆布の成分などごくごくわずかで、大半が水です。豆腐なども水で味わいが決まると言われますし、醤油や味醂や酢なども、原料の大半は水なのです。さらに、日本文化の根底に流れているものも、「水の文化」であるとも言えます。かつてNHK大河ドラマとなった「軍師官兵衛」の主役は黒田官兵衛(黒田如水)ですが、彼の言葉であると言われているものに「水五則」(水五訓)があります。文献などにより若干文章に違いはありますが、およそ以下の通りです。
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一つ、自ら活動して他を動かしむるは水なり。
- 一つ、常に己の進路を求めて止まざるは水なり。
- 一つ、障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり。
- 一つ、自ら潔うして他の汚濁を洗い、清濁併せ容るるの量あるは水なり。
- 一つ、洋々として大海を充たし、発しては霧となり、雨雪と変じ、霰と化す。凍っては玲瓏たる鏡となり、しかも其の性を失わざるは水なり。
長くなってしまいますので詳しい説明は省略しますが、日本の明治維新や敗戦からの奇跡の復興などを見ますと、まさに障害に遭ってその勢力を百倍していると言えますし、仏教を取り入れたり西洋文化を取り入れたりしながらも、「その性を失わざる」、つまり本性の部分は失っていないのが日本文化であるとも言えるでしょう。このように「水五則」の内容をじっくり味わえば味わうほど、まさに日本のあらゆる文化の根底に脈々と流れている源流のようなものであると感じられるのではないでしょうか。つまりこのような「水の文化」が、我々の生活にも、日本料理にも、そして日本酒にも、その根底に流れていると言えるでしょう。
このような、日本の自然や風土と日本酒の関係や、「水の酒」「水の料理」「水の文化」を知った上で、全国各地に存在する日本酒の酒蔵を訪ねてみましょう。ただし、一般の見学を受け付けていない蔵元もありますし、見学可の蔵元もたいていは要予約ですから、必ず連絡し、予約してから訪ねるようにしましょう。そしてその際、単に酒造りを見学するだけでなく、是非その蔵元の仕込水の物語を聞いてみましょう。ほとんどの蔵元は、近くを流れる川の水系の湧水を使用しています。そして見学後は、その仕込水の源となる川を訪ねてみましょう。ちなみに司牡丹酒造の場合は、日本一水の美しい川、奇跡の清流とも言われている「仁淀川(によどがわ)」の水系の湧水を使用しています。「仁淀ブルー」と呼ばれるそのあまりに美しいブルーは、NHKスペシャル「仁淀川~青の神秘~」という番組にもなっています。また、最近は地元で契約栽培をしている蔵元や、米づくりをしている蔵元も増えてきています。そんな米づくりの物語を聞かせてもらった上で、その水田を見学させてもらうというのも、きっと記憶に残る素晴らしい体験になることでしょう。ちなみに司牡丹酒造の場合は、20年以上前から、地元の佐川町と四万十町にて、「永田農法」という農法を指導し、酒米を契約栽培しています。
日本の全国各地の日本酒蔵元を訪ね、酒蔵見学のみならず、仕込水の物語や米づくりの物語を聞き、仕込水の源となる川や酒米づくりの水田を見学することで、その蔵元と地域の自然や風土との関係が、より立体的に浮かび上がってくることでしょう。さらにその地域の食と共に、その地域の風土を具現化したようなその蔵元の日本酒を堪能すれば、ナチュラル派のあなたにとっては、きっと忘れられない思い出となることでしょう。そんな中で、あなたの幸せの発見回数は格段に増えていきます。そして「今この瞬間の幸せ」に気づく力が養われ、あなたの人生は幸せに導かれていくことになるのです。