日本酒が苦手な方がチャレンジする場合、お薦めの順番がある!

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~蔵元の息子で日本酒が苦手というツライ過去からの逆転!~

<大学の寮でイッキ飲みの洗礼!大の日本酒嫌いに!>  正直に告白します。実は私は、若い頃日本酒が苦手でした。いえ、すみません。まだ正直じゃなかったです。はっきり言ってしまうと、日本酒がこの世でもっとも嫌いな飲み物でした。「はじめに」で紹介したAもBもCも、思い当たるフシがあります。特にCは、まさにドンピシャ。私は昭和56年に東京の某大学に入学し、その大学の寮に入ったのですが、そこがかなりバンカラな寮でした。さらに当時は、イッキブームの真っただ中!寮のシキタリとして、先輩から酒を注がれたら正座で受け、「イッキしなくていいよ」と先輩が言わないかぎり、必ずイッキ飲みしなければなりません。寮ですからツブレるまで逃げ道はありません。しかも試験の前日とかにかぎって、先輩が一升瓶片手に部屋にやってくるのです。それはほぼ必ず、日本酒の安酒でした。そして、地方出身者だけが入る寮でしたから、たいてい先輩に「おまえはどこの生まれだ?」と聞かれます。「高知県です。」と答えると、「なに~っ!?じゃ飲めるだろ!」と、さらにガンガン飲まされ、元々お酒に弱かった私はトイレにこもって吐きまくり、翌日の試験は欠席するというような日々でした。こうして私は、日本酒がこの世でもっとも嫌いな飲み物になったのです。<初めて美味しいと思えた「吟醸酒」との出会い> 自分がこの世でもっとも嫌いな飲み物を、他人に薦めることなどできません。大学卒業後は実家の酒蔵に戻ることを拒み、勝手に東京で、まったく酒類と関係のない異業種の会社に就職しました。そこで5年間営業を担当していたのですが、後半になると漫画「夏子の酒」がブームになり、ちまたにも「吟醸酒」というフルーティな日本酒が登場するようになります。燗や常温ではなく冷やして、ぐい呑みやコップではなくワイングラスでいただく、その華やかな香りの飲み物に出会い、「日本酒にも美味しいものがあるんだ!」と、私は生まれて初めて気づいたのです。さらに実家の酒蔵が、私が生まれた頃からその「吟醸酒」を造って販売している、業界の先駆けであったことを知ります。そして、「和」の世界の素晴らしさにも惹かれはじめたこともあり、実家の高知の酒蔵に帰るという決断をするのです。平成2年のことでした。<高知に帰り、まさかの再びの洗礼!今度こそ逃げ道なし!> しかしここで、またしても日本酒から手痛い洗礼を受けることになるとは、夢にも思っていませんでした。そこで若造の私を待っていたのは、土佐の高知のシキタリ、献杯・返杯の洗礼だったのです。都会では吟醸酒ブームが続いていたとはいえ、田舎の高知県では、吟醸酒などほとんど売られておらず、飲まれていたのは昔ながらの普通酒か、せいぜいで本醸造酒でした。しかも宴席ではそれらを1年中熱燗で、さらに土佐の高知ならではの酒文化として、献杯・返杯を繰り返して酌み交わすのです。自分の杯を相手に渡してお酒を注ぐのが献杯、その杯を飲み干して相手に返してお酒を注ぎ返すのが返杯。土佐の宴席では、あちこち移動しながら、延々とこれを繰り返すのです。50人の宴席なら、ほぼ50人と献杯・返杯を酌み交わすわけですから、短時間でアッという間にベロベロになります。当時の私はまだ、吟醸酒以外は苦手で、燗酒は特に苦手でしたから、かなりツライものがありました。酔いツブレて家に帰り、玄関で倒れて寝ていたことなど、数え切れないほどです。しかも、酒蔵の跡取りですから、宴席からの逃げ道はありません。結局、大学の寮の時と同じ・・・否、今回は大学と違って卒業はありません(引退するまで?)から、完全に逃げ道のない状況に追い込まれます。一時は、すべてを捨てて「夜逃げ」するかと、真剣に悩んだほどです。<お酒の神様が微笑む?好きになる順番があることに気づく!> しかし、このツライ状態を3年ほど耐え忍ぶ中で、いろいろ気づきはじめました。お酒の神様が可哀そうに思って、やっと微笑んでくださったのかもしれません。まず最初に気づいたのは、生酒の美味しさでした。これは、よく冷やして、夏の酢の物と合わせていただくと、美味しいことに気づきました。そこから、吟醸酒に続いて生酒も好きになります。お次は、純米酒。こちらは鮮度抜群の鰹のタタキと合わせると、鰹もお酒も美味しさが倍増することに気づき、大好きになります。続いては、生原酒。アルコール度数が高めのため苦手だったのですが、冷やしたものを冬の鍋物と合わせてハフハフしながらいただくと、鍋物の美味しさがグッと増すことに気づいて、好きになります。お次は、遂に宿敵であった本醸造酒や普通酒の燗酒。これは、比較的低めの温度、40°C程度のぬる燗にして、魚の一夜干しを炙ったものに合わせてチビチビやると、「くうぅ〜〜っ!」と声が漏れてしまうほど美味しいことに気づいたのです。それ以来、宴席での燗酒の献杯・返杯があまり苦痛ではなくなっていきます。
 その後も、古酒や長期熟成酒は常温のままで、醤(ジャン)の効いた濃厚な味わいの四川中華料理と合わせた時、これまでとはまったく違う、その異次元の美味しさに目覚めます。さらに山廃(やまはい)・生酛(きもと)という昔の造り方のマニアックな日本酒は、ぬる燗にして秋の鮮度抜群のサンマの塩焼きの内臓の苦味と合わせた時、感動するほど美味しいことに気づきます。しかも、その時までサンマの内臓も山廃・生酛も、どちらも嫌いだったのですから、感動もひとしおでした。この時に、日本酒と料理のマッチングの本当の底力を、身をもって体感したのです。
 ちなみに最後まで残ったのは、私の場合は樽酒でした。せっかくそのままで美味しい日本酒を、なぜわざわざ樽に入れて木の風味を付け、マズくして商品化するのか、まったく理解できなかったくらい大嫌いだったのです。そんな樽酒の場合は、常温のままでキノコ料理と合わせていただいた時、衝撃が走るほど美味しかったことを、今でも鮮明に覚えています。様々なキノコを煮込んだ料理だったのですが、その木の子(キノコ)の風味と、樽酒の木の風味が融合することで、まるで森林浴でもしているかのような心地良さに包まれたのです。以来、樽酒は私にとって、キノコ料理をいただく時には欠かせないパートナーとなっています。こうして、日本酒がこの世でもっとも嫌いな飲み物であった私が、遂にすべてのタイプの日本酒を好きになることができたのです。ただし、あまりにマズいとしか言えない安酒や、当然ですが劣化が激しいものなどは今でもダメですが・・・。
 この私の例のように、人間の味覚はかなり保守的ではありますが、体験を重ねることによって味覚を進化させることができるのです。生まれたばかりの赤ん坊の味覚は、甘いものだけを受け付けるのだそうですが、成長するにつれて辛いものの美味しさや、酸っぱい、苦いなどの味も美味しいと思えるようになっていくのも、体験を重ねることによる味覚の進化であると言えるでしょう。日本酒が苦手な人が、初めて日本酒にチャレンジする場合も、実はこれと同様です。いきなり燗酒や山廃・生酛などに挑戦してしまうと、「やっぱり日本酒はダメ!」ということになりかねません。チャレンジの際には順番があるのです。やはり、まずは吟醸酒がお薦めですが、ちょっと値段が高いのがハードルになります。しかし大丈夫です。近年は、比較的お求めやすい価格の純米酒や本醸造酒などで、フルーティなタイプの日本酒も発売されていますので、そちらから入るのがお薦めでしょう。お近くの酒屋さんや、日本酒の品ぞろえが豊富な居酒屋さんなどで、「吟醸酒みたいに香りがフルーティで飲みやすい純米酒か本醸造酒はありますか?」と尋ねれば、やさしく教えてくれるはずです。以下のサイトに掲載されている「日本名門酒会」加盟の酒販店なら、全国47都道府県に存在していますし、初心者にもやさしい店ばかりですので、最もお薦めといえるでしょう。

日本名門酒会サイト内「名門酒が買える店」参照

 尚、下の<表1>に、お薦めの順番やお薦めの飲み方などをまとめてみましたので、是非参考にしてみてください。ただし、この表はあくまで私の場合をベースとして表にまとめたものですので、味覚には好みがあり、個人差があるという点は、何とぞご了承ください。たとえば、長期熟成の個性的な日本酒を初めて飲んで美味しいと感じ、いきなり日本酒に目覚めるという方も、実際にいらっしゃいますから。

<表 1>日本酒が苦手な方がチャレンジする場合のお薦めの順番

とっつきやすさ
タイプ
具体的な日本酒の分類
どうすると美味しいと思えるか?
➀最もとっつきやすい
フルーティなタイプ
(1)華やかな香りの本醸造酒・純米酒
(2)吟醸酒・純米吟醸酒・大吟醸酒・純米大吟醸酒(※ただし比較的高価)
涼冷え(15°C程度)程度に冷やして、ワイングラスなどで。 料理と合わせる場合は、できるだけナチュラルでシンプルなものを。 (1)も(2)も同様。
➁結構とっつきやすい
爽やかでなめらかなタイプ
生酒(本醸造生酒・純米生酒)
花冷え(10°C程度)程度に冷やし て、シャンパングラスなどで、爽やかな酢の物などと合わせて。
➂まあまあとっつきやすい
コクのあるタイプ
純米酒(あまりフルーティではないタイプ) ※酒蔵によって様々な個性あり。
涼冷え(15°C程度)程度に冷やして、冷酒グラスなどで、鰹のタタキなどの鮮魚の刺身と合わせて。
④まあまあとっつきにくい
アルコール度の高いタイプ
原酒(本醸造原酒・純米原酒)
※アルコール度 17~20 度程度
涼冷え(15°C程度)程度に冷やして、冷酒グラスなどで、鍋物などと合わせて。
⑤結構とっつきにくい
お燗酒タイプ
本醸造酒・普通酒
ぬる燗(40°C程度)や上燗(45°C程度)に温め、ぐい呑みやお猪口で、魚の一夜干しの炙りなどと合わせて。
⑥最もとっつきにくい
個性的なタイプ
(1)古酒・長期熟成酒
(2)山廃・生酛
(3)樽酒
(1)常温(20°C程度)で醤(ジャン)の効いた濃厚な味わいの四川中華料理などと合わせて。
(2)ぬる燗(40°C程度)で鮮度抜群 のサンマ塩焼きの内臓などと。
(3)常温(20°C程度)やぬる燗 (40°C程度)でキノコ料理などと。
※この表は、あくまで著者の場合をベースとしたものです。味覚には好みや個人差があります。