【門前編】家飲み、居酒屋、飲食店多様化から土佐酒の未来を展望する!

First part of the gate

今回は、前回の「経済学の観点から日本酒の成長戦略を探る!」にても取り上げた1冊、「お酒はこれからどうなるか~新規参入者の挑戦から消費の多様化まで~」(都留康 著 平凡社新書 2022年8月10日発行 本体900円+税)という、比較的読みやすい新書本の後半部分から、家飲み、居酒屋、飲食店多様化についてをピックアップさせていただきました。まずは、それらの内容から抜粋してご紹介させていただき、そこから土佐酒の未来を展望し、私、竹村の考えなどもご紹介させていただきたいと思います。 【家飲み~晩酌という独自の文化~】 まず著者は、特別な理由もなく、毎日のように夕食時にお酒を飲むという「晩酌」文化は、日本独自ではないかと語っています。欧米などの海外では、ホームパーティや「特別な日」以外に、1人または家族と夕食時に頻繁に家飲みする文化は存在しないようだというのです。そして、日本の家飲みと外飲みの支出額は、総務省「家計調査」から、新型コロナの直撃を受けた2020年以前の家飲み(酒類購入額)の年平均金額は43,825円で、外飲み(飲酒代)の年平均値は17,717円であったといいます。つまり、家飲みは外飲みと比べて、もともと2.47倍も多く、さらに2020年には緊急事態宣言の発出に伴う飲食店の休業などにより、さらにその比率は4.92倍に拡大したのだというのです。 そして、家飲みの具体的な状況については、大手食品メーカーのマルハニチロ株式会社によるアンケート調査(2014年実施)があるとして、著者はこれを紹介しています。全国の5,221人の調査対象者(20~59歳の男女)のうち、週に1回以上お酒を飲む1,855人から有効回答1,000人を選び、「外飲み」、(家族または1人での)「自宅飲み」、(自宅や友人・知人宅での)「友人・知人との家飲み」など、お酒を飲む場所と頻度などが、このアンケート調査には示されています。週に1日以上お酒を飲む人の「外飲み」が20.9%なのに対して、「自宅飲み」が88.9%と圧倒的に多く、しかも「自宅飲み」の頻度は、「ほぼ毎日」が30.6%を占め、週に2~3日以上まで含めると、67%にも達しているのだそう。さらに自宅で飲む場合の相手は、「1人で」が55.1%で最も多く、次に「配偶者」が42%で続くのだとか。やはり日本では、外飲みより家飲みがはるかに多く、しかもその場所は自宅であり、そして1人または配偶者との晩酌がごく普通だということなのです。さらに、そこに特別な理由はないと思われ、こうした状況が海外との決定的な違いであると、著者は語っています。 続いて著者は、フランス人のピエール・ブリザール(前AFP通信東京支局長)の分類によれば、世界の飲食文化は「ワイン文化」と「ウイスキー文化」とに分かれるのだといいます。前者は食事をしながらアルコールを楽しむ文化であり、後者は食事の前後にアルコールを嗜む文化であるというのです。「ワイン文化」圏は、欧州南西部のラテン系諸国であるフランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなどであり、「ウイスキー文化」圏は、英国、北欧諸国、米国などだと紹介しています。そして著者は、ブリザールは日本通だが、おそらく「ワイン文化」基準が強すぎて、日本を「ウイスキー文化」に分類しているのだといいます。しかし、社会学者の飽戸(あくと)弘(東京大学名誉教授)によれば、「食べながら飲む」という意味において、日本は「ワイン文化」だといい、著者も同意見だと語るのです。飽戸らは、食生活と酒文化の国際比較を行っており、調査時点は1990年で、調査対象は東京、ニューヨーク、パリの3都市だそうで、各都市で1,000サンプルに対して面接調査を行ったのだとか。その調査における「夕食の外食頻度」からは、以下のことが分かると著者は語っています。週に1~2回以上の頻度で外食するのはNYで50%を超え、東京もパリも週1~2回以上外食するのは2割程度だといい、逆にいえば、東京とパリの8割はほぼ家庭で夕食を摂るというのです。次に「飲酒頻度」の比較から見ると、外食頻度とは対照的に、NYが低く、東京とパリが同程度に高いことが分かるのだそう。つまりこれらから、2つのことがいえると著者はいいます。第1に、NYでは夕食の外食頻度が高い割に飲酒頻度はむしろ低く、これは外食の多くが、家事時間の節約のためのカジュアルなものであって、お酒を飲むほどフォーマルなものではないことを示唆するのだと。第2に、東京とパリでは、「家庭で食べながら飲む」人が多く、その意味で、日本もフランスと同様に「ワイン文化」圏の飲食スタイルに近いといえるのだそうです。ただし、日本とフランスの違いは、パリでは月に2~3回以上も友人や知人を家に招いての夕食を摂るのが6割弱も存在し、これに対し東京では1割未満なのだとか。つまり、日本は家族だけの家飲みが多いのだと語るのです。 【日本では珍しい「外飲み」好きの高知】 さて、ここからは総務省「家計調査」から、全国平均と高知市の、家飲みと外飲みの比較を見てみましょう。なお、コロナ禍では外飲みが激減するのは当然ですので、コロナ禍以前の2019年の「家計調査(2人以上の世帯):品目別都道府県庁所在地及び政令指定都市ランキング」を参考にさせていただきました。まず酒類消費支出金額(「家飲み」にあたる)を見ると、「全酒類」の全国平均支出金額は40,721円ですが、高知市においては45,357円と全国平均を若干上回り、ランキングでは12位(52都市中)となっています。次にこのうちの「清酒」に限定して見ると、全国平均支出金額は5,419円ですが、高知市は3,831円で、何とランキングでは44位と、下から9番目なのです。では高知市ではどの酒類が上位かというと、まず「発泡酒・およびビール風酒類」がダントツの1位で14,580円(全国平均8,814円)、「チューハイ・カクテル」が7位で4,704円(全国平均3,548円)となっています。つまり高知市での家飲みにおいては、日本酒はあまり飲まれず、圧倒的に発泡酒(およびビール風酒類)であり、他はチューハイやカクテルだということなのです。日本酒を酌み交わす酒豪県のイメージが強い高知が、なぜこのような衝撃的な結果となったのかというと、それは土佐人の「外飲み」好きが大きな要因であるといえるでしょう。同ランキングの「外食」における「飲酒代」(「外飲み」にあたる)を見ると、高知市がダントツの1位で37,691円(全国平均19,892円)となっているのです。その酒類別の内分けは定かではないですが、土佐人の風習(返杯・献杯やお座敷遊びなどで日本酒を酌み交わす)からすれば、日本酒がそれなりに多い割合を占めると考えられるでしょう。ちなみに、2019年の「家飲み」の全国平均金額は40,721円で、「外飲み」の平均金額は19,892円ですので、一般的には「外飲み」より「家飲み」の方が2.05倍多いということになります。これが高知市では、「家飲み」が45,357円、「外飲み」が37,691円ですので、「家飲み」の比率は「外飲み」とあまり変わらないレベルの1.2倍となっているのです。つまり、日本では大変珍しい「外飲み」好きが多いのが、土佐の高知ならではの特徴であるといえるでしょう。 ここからは私の推論ですが、元々は土佐の高知も「家飲み」が多かったと考えています。土佐では宴席のことを昔から「おきゃく」と呼んでいますが、これは自宅にたくさんのお客さんを招き、大宴会を開催して酌み交わしまくるという風習が語源なのです。襖を開けはなして広い宴席会場を設け、大皿に豪快に山川海の幸を盛り付けた「皿鉢料理」をズラリと並べ、老いも若きも男も女も、子供や見ず知らずの人までも招き、到着した人から勝手に座って自由に飲みはじめるのです。そして、自分の杯を相手に渡して土佐酒を注ぎ(献杯)、その相手が飲み干した杯を返して土佐酒を注ぐ(返杯)という、献杯・返杯が延々と繰り返され、たとえば30人いたら30人と席を移動しながら酌み交わしまくります。さらに盛り上がれば、「はし拳」「可杯」「菊の花」といった、負けた方が酒を一気飲みするという「土佐のお座敷遊び」も始まるのです。このような自宅での「おきゃく」は、かつては県内各地どこでも、当たり前のように行われていた風景でした。それが、地域の人口減少や高齢化や核家族化などにより、かつての行事や祭りが廃れ、地元の密なつきあいも減り、地域コミュニティは崩壊同然となっていき、この家飲みの「おきゃく」文化は、衰退していったと考えられます。その結果、もともと大勢でワイワイと酌み交わすことが大好きであった土佐人は、「その場」を「外飲み」に求めたのであろうと、私は考えています。もちろん、このかつての「家飲みおきゃく」文化を新たなカタチで復活させたいという思いもありますが、現在のこの独特の土佐の「外飲みおきゃく」文化は、日本においては大きなウリになるのだとも考えられるのではないでしょうか。 【居酒屋~世界にもまれな飲食空間~】 NHK・BS1の人気番組「COOLJAPAN~発掘!かっこいいニッポン」の、2020年8月9日放送「外国人が母国に持ち帰りたいニッポンの食トップ10」のランキングのトップ5は、5位から順に「焼き鳥」「から揚げ」「お弁当」「回転寿司」、そして1位は「居酒屋」であったと著者は語っています。そして、司会者の鴻上尚史によれば、著書の中でその理由を次のように述べているのだといいます。海外では、食事はレストラン、お酒を飲むのはバーと、明確に分かれている。またレストランでは、オードブルからメインまでを最初に一括して注文するのが普通である。これに対して、日本の居酒屋は食事とお酒が混然一体となっており、食べたいとき、飲みたいときに随時注文できる。この点が外国人にはとても新鮮なのだというのです。そして著者は、英国におけるパブの成り立ちについて説明し、その後の英国のパブは、労働者がビールを飲みながら、憂さ晴らしや議論や交渉をする公共の場所となり、現在は単なる酒場なのだと紹介しています。そこでは、料理は出るが、フィッシュ・アンド・チップスのような軽食に限られ、もっぱらビールを楽しむ場所であることに変わりはないといいます。なおスペインにはバルがあり、ここではビールやワインとタパス(英国パブよりはバラエティのある小皿料理)などが楽しめるが、バルの位置づけはあくまでもレストランでのディナーの前のお酒とおつまみを提供する場所であると、著者は語るのです。 続いて著者は、日本の居酒屋の成り立ちなどを説明しています。まず、日本では、酒を提供する営業行為は奈良時代にさかのぼるのだと語っています。平安時代の初期に編纂された「続日本紀(しょくにほんぎ)」によれば、奈良時代の761年に、酒肆(しゅし:酒場のこと)に関する記載があるのだというのです。そして、現代のような飲食が一体化した「居酒屋」が登場したのは、江戸時代後期だといいます。まず「居酒」とは、酒屋(酒販店)で量り売りされた日本酒を店内で飲むという意味で、この言葉が現れたのは元禄期(1688~1704)のことであり、例外はあるが基本的には料理の提供はまだなかったのだそう。これに対して、料理の提供を主体とするものは「煮売茶屋」と呼ばれ、そこでは煮物、汁物、鍋物などが供されたのだとか。この「煮売茶屋」で酒も提供するようになった業態が「煮売居酒屋」、または略して「居酒屋」であったのだというのです。世界トップの100万都市として知られた江戸には、文化8年(1811年)に1,808軒もの居酒屋があったようで、客層も、荷商人、駕籠かき、車引き、武家奉公人、下級武士などと多様であったのだそうです。 次に著者は、明治維新頃に創業し、現在も続く老舗居酒屋の開業年を挙げています。安政3年(1856年)「鍵屋」(根岸)、明治17年(1884年)「柿島屋」(町田)、明治38年(1905年)「みますや」(神田)などが代表例で、これらの老舗は江戸時代後期の居酒屋の雰囲気を今に伝えているといいます。明治期以降もこうした正統派の居酒屋は、場末の飯屋を兼ねたような居酒屋とともに、栄えはしても廃れはしなかったと著者は語るのです。しかしその一方で、明治時代には居酒屋の世界でも外部からの重要な変化が生じたのだそう。それは、文明開化に伴う飲食の洋風化で、第1の大きな変化はビヤホールの誕生であり、日本初のビヤホールは明治32年(1899年)にオープンした「恵比寿ビヤホール」(新橋)だといいます。そして著者は、これにより日本酒と料理を出す居酒屋とは異なる、ビールと料理のビヤホールという新たな業態が生まれたと語っています。さらに第2の変化は洋食の確立と普及で、その結果、ビヤホールやカフェではビールと洋食が定番のメニューとなっていき、東京には続々とビヤホールが開店し、さらにブームは地方都市にも広がっていったのだそうです。このような、江戸時代後期からの居酒屋と、明治時代に現れたビヤホールという2つの流れの中で、昭和12年(1937年)に開業した、「ニュートーキョー数寄屋橋本店」に、著者は注目するのだといいます。この店の最大の特徴は、日本酒もビールも、和食も洋食も、どちらも提供したことで、これが可能だったのは、同店がビールメーカー直営ではなかったからだろうといい、この特徴は重要であると強調しています。なぜなら、これが和洋食を統合した第2次世界大戦後の居酒屋の原型をなすと考えるからだと、著者は語るのです。 そして著者は、近年の居酒屋も個人経営が多く(2016年「経済センサス-活動調査」の結果では個人経営が72.6%)、戦後期を過去にさかのぼるほど、個人経営の割合は圧倒的に高くなり、したがって主役はあくまでも多数の個人経営による居酒屋であると語っています。しかし、1985年に居酒屋・ビヤホールの売上高を1兆円超えの市場規模に押し上げた立役者は居酒屋チェーンだという理由から、巨大法人が経営する居酒屋チェーンを取り上げて紹介しています。この居酒屋チェーンの歴史は、1990年代初頭の、バブル崩壊の前後で2つに分かれるのだといいます。前半を代表する企業は、「旧御三家」と呼ばれた「養老の瀧」「村さ来」「つぼ八」であり、後半を代表する企業は、「新御三家」のワタミ株式会社(「和民」「ミライザカ」など)、株式会社モンテローザ(「白木屋」「魚民」など)、株式会社コロワイド(「甘太郎」「土間土間」など)だと語るのです。「養老の瀧」の誕生以降、試行錯誤で獲得された居酒屋チェーンの運営原則は、➀フランチャイズシステムによる急速な店舗展開、➁セントラルキッチンによる店舗内での調理の省力化・効率化、③マージンミックスによるトータルでの粗利益率と客単価の確保、であるといい、これにより多種多様な料理と酒類の提供とが可能となったと著者は語っています。そして、ここに戦前から試みられた和食・洋食を包括した料理と和洋酒の提供という方向のひとつの完成形態をみると、著者は特筆しています。しかし、この運営原則は、ほぼ1,000店舗程度を展開したところで頭打ちになる(または減少に転じる)という規則性がみられ、新旧交代が起きるのだといいます。しかも、大手居酒屋チェーンの多くが加盟する日本フードサービス協会のデータでは、「パブレストラン・居酒屋」の売上金額と店舗数のピークは2007年であり、2008年のリーマン・ショックも相まって、行き詰まりが生じたようにみえるというのです。ここでも新旧交代は起きており、その後の新興勢力の特徴は専門店化だといい、焼き鳥専門の「鳥貴族」、海鮮専門の「磯丸水産」、串カツ専門の「串カツ田中」などが業界を牽引するようになったと語るのです。しかし、そうした専門店化で、居酒屋チェーンが以前の勢いを取り戻すとは思えないと、著者は指摘しています。なぜなら専門店は、経営的には効率がよくても、メニューの特化が顧客の幅を狭め、一定期間内での顧客の利用頻度はおそらく高くないからだといいます。そして、ここに個人経営の特色ある居酒屋を紹介する意味があるとして、著者のなじみのお店から、特徴の異なる4つの居酒屋を、詳しく紹介しています。 著者が紹介しているのは、「よよぎあん」「となりのしんぼ」「五臓六腑」「和食日和おさけと」という4店であり、この4店を詳しく解説したうえで、今後の居酒屋にとっての課題解決のポイントなどをまとめています。まず、日本の居酒屋では、顧客の職業や社会的地位の区分は海外ほど明確ではなく、また客同士や、客と店側とのコミュニケーションが盛んで、さらに現在の居酒屋業界では大手チェーンの専門店化が進んでいるが、個人経営のお店では、専門店化の功罪が認識され、それを踏まえた経営が行われているのだというのです。経営管理の世界では、顧客からのコミュニケーションとフィードバックが重要とされ、顧客の声を集め、解決すべき課題を設定し、改善活動を行うのが基本原則で、これは手法がアナログでもデジタルでも変わらず、この原則は居酒屋業界でも成り立っているといいます。コミュニケーションが店と客との間で双方向的であり、客同士で水平的でもあるという状態から、新しいメニューや素材の仕入れのヒントが生まれるのだと、著者は語っています。 【「外飲み」好きの土佐人が選ぶ土佐の個性的飲食店】 ここからは、大勢で酌み交わすのが大好きな、「外飲み」好きの土佐人が選ぶ飲食店について言及してみましょう。酒や食に興味がなく、そこにあまりお金を使わないような若い方々などは別として、基本的に土佐人は、あまりチェーン店には行かないようです。その一番の理由は何といってもカツオでしょう。全国の都市別カツオ消費量・支出額のランキング(2020年)において、高知市のカツオ消費量は1世帯当たり4,268gとダントツ日本一で、その支出額も1世帯当たり7,362円でダントツ日本一です。この支出額は、2位の福島市の倍以上、全国平均の5.68倍です。それくらいカツオ好きが多く、そのカツオを肴に飲むことが大好きな土佐人ですから、カツオのレベルが低い店には誰も行きません。人気店などでは、冷凍物は使わず、朝獲れの鮮度抜群の生カツオをその日のうちに使いきるという店も少なくないのです。これはチェーン店では、ほぼ不可能なほど難しいため、土佐人は基本的に個人経営の飲食店を選ぶことになるのだと考えられます。さらに、高知県はカツオ以外の鮮魚などの海の幸も、川の幸や山の幸も、日本一といっていいほど種類が豊富で、かつ鮮度抜群の旬の物がすぐに入手可能です。しかしこれらも、まとまった量が集まらない食材や季節が限定される食材も多く、チェーン店には不向きなのです。たとえば、朝獲れのカツオが獲れなかった場合、人気の個人店なら「本鰹は獲れんかったけんど、今日は抜群の鮮度のスマガツオ(もしくはハガツオ)があるき、これをタタキにするぜよ!」と店主から薦められ、皆すぐに納得してそれを注文するのです。 さらに特筆すべきは、前記のとおり「外食」における「飲酒代」(外飲み)は、37,691円(全国平均19,892円)と高知市がダントツの日本一でありながら、高知県の県民所得は、1人当たり266万円で47都道府県中41位(2019年)と、全国最下層レベルだということです。これは、お金がないのに、「家飲み」より高くつく「外飲み」を選んでいるということになります。つまり、それほど大勢で酌み交わす「おきゃく」が大好きで、そんな需要に応えるレベルの高い飲食店が土佐には多いということではないでしょうか。そんな需要に応えて大人気の代表的存在が、高知市の「ひろめ市場」だといえます。ここは、最も土佐らしいフードコートであり、約70店舗の飲食店がひしめき、自由に座席を選んで、どこの店からでも食べ物や飲み物を注文できる仕組みです。そのため、県外客と地元客が同じテーブルに座ることも珍しくありません。元々見ず知らずの人も平気で自宅に招く「おきゃく」が大好きな県民性ですから、地元客が県外客に次のような感じで話しかけます。「おまん、どっから来たぜよ?」「ほうかよ、東京かよ。土佐は初めてかよ?ほいたらコレ、食べたことないろう?ウツボ、ウツボ!まあ、食べてみてちや!こじゃんと旨いき!」……といって、結構な高確率でご馳走してくれるのです。お金がなくても、お酒が入ると気分がよくなり、県外客に土佐のうまいものを教えたい気持ちが勝り、気前よく奢ってしまうのが土佐人気質であるため、「おまんどっから来たぜよ」おじさんや、「おまさんどっからきたが」おばさんが、「ひろめ市場」に限らず出没するというのが、土佐ならではの「おきゃく」文化であるといえるでしょう。ただし、当然コロナ禍においては、このような行為は禁止でしたから、現在は、この高知名物「おまんどっから来たぜよ」おじさん達の絶滅が危惧されています。 ここで、私がよく利用する高知市内の居酒屋などを挙げると、「かもん亭」、「湖月」、「ゆう喜屋」、「十刻(ととき)」…などキリがないほど、料理の美味しさはもちろん、土佐酒の品揃えも豊富な人気店がたくさんあります。さらに、高級店では「座屋(いざりや)」があり、料亭では「得月楼」と「濱長」があり、また土佐酒専門店の「土佐酒バル」もお薦めです。さらにさらに、イタリアンでも「バッフォーネ」や「ラ・プリマヴォルタ」、フレンチでも「バルーン」、「三木ドゥーブル」、「ブラッスリー一柳」など、全国レベルの腕前の人気店がズラリです。その上、高知市はレベルの高いバーも、「クラップス」、「フランソワ」、「コリンズバー」…など、数多く存在しています。また、スナックも多数で、どこの店にも土佐酒が少なくとも1本は置いてあります。しかもこれらの店が、全て歩いて行ける範囲内というのも大きな特徴で、「土佐の飲み屋ホッピング」の楽しさは、格別であるといえるでしょう。日本の「居酒屋」文化は世界にもまれな存在で、外国人にも大人気で、さらに日本でもまれな「外飲み」好きの土佐人が選んだ個性的な飲食店がひしめく高知市は、この「土佐の飲み屋ホッピング」をベースにブランド化することも可能であると思われます。しかもそこには、土佐人気質をベースにした、客も一緒になって楽しさを創り出すという独特の土佐の「外飲みおきゃく」文化があり、これは本書における居酒屋発展のための、コミュニケーションが双方向的でありかつ水平的であるという原則を地でいっているといえます。そして、これらを総合的に勘案すれば、日本全国や海外に向けて堂々とアピールできる、大きなウリになるのではないでしょうか。 【飲食店の多様化:醸造所・蒸溜所が併設された飲食店~究極の「地産地消」~】 著者は、ビール工場を見学した後に試飲できるビールほど美味しいものはなく、それは鮮度のよさのためでもあるが、製造ラインを見学し、醸造に関する詳しい説明を聞いた後の親近感のゆえでもあるといい、これは日本酒、ワイン、ウイスキーなどの工場見学の後でも同じことがいえると語っています。他方で、試飲ができる場所は飲食店ではないので料理は出ず、サービスのアラレなどをつまむ程度だといいます。試飲する飲み物が美味しいので、ここで本格的な料理を楽しめたらどんなに素晴らしいだろうと思うのは著者だけだろうかと指摘し、この夢を実現するものこそが、醸造所・蒸溜所が併設された飲食店にほかならないと語るのです。そして、醸造所・蒸溜所が併設された飲食店の事例を挙げ、詳しく解説しています。クラフトビールメーカーでウイスキーなど多様な酒類も手がける「常陸野ブルーイング東京蒸溜所」(木内酒造株式会社)、海外販路も広げるクラフトビールメーカーの「COEDO BREWERY THE RESTAURANT」(株式会社協同商事)、全国の銘酒を発掘して世に送り出してきた「株式会社はせがわ酒店」の「東京駅酒造場」という3店です。 なぜ「併設飲食店」かというと、それは単なる工場見学や無料の試飲とは異なるからだと著者は指摘しています。料理とともに自社製品を供することで、造りに込めた独自性や地域性という、製品のストーリーをより明確に打ち出すためだというのです。この手法を「プレイス・ベースト・ブランディング」といい、地域資源の活用と体験の共有によるブランド化という意味だと語るのです。「併設飲食店」での体験は、通常の工場見学以上に深く記憶に刻み込まれ、これにより達成される差別化は、単なる製品差別化ではなく、その場での経験に根ざす差別化であるとし、きわめて魅力的で有望な差別化戦略であると結んでいます。 【高知市の飲食店街全体のブランディング!】 さてここで、「製造場併設飲食店」の事例からも、土佐の高知について考えてみたいと思います。日本の「居酒屋」文化は世界にもまれな存在で、外国人にも大人気で、さらに日本でもまれな「外飲み」好きの土佐人が選んだ個性的な飲食店がひしめく高知市は、「土佐の飲み屋ホッピング」をベースにブランド化することも可能であると思われると、先に語らせていただきました。これはつまり、高知市の飲食街全体を「プレイス・ベースト・ブランディング」することだともいえるのではないでしょうか。土佐の鮮度抜群の春夏秋冬・山川海の幸を使った、独特で豊かな食。その食の美味しさをさらに引き立てる、ハイレベルな土佐の辛口酒。見ず知らずの県外客も悦んでもてなす、底抜けに明るく大らかな県民性。それらが一堂に会す中で、料理も杯も席もシェアして、お座敷遊びまで飛び出す世界一楽しい宴。…これらは間違いなく土佐の最大の「地域資源」であり、かつ参加者にとっては深く記憶に刻み込まれる「体験の共有」なのです。つまり、これら土佐の「食・酒・人・宴」という地域資源をさらに磨き上げ、高知市の飲食店街全体をその体験共有の場としてブランド化していくことができたなら、それは単なる差別化ではない、きわめて魅力的で有望な差別化戦略である、「プレイス・ベースト・ブランディング」になるということなのです。