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【門前編】ヤヤコシイ日本酒基礎知識を30分×2で簡単に獲得!<前編>

First part of the gate

【門前編】ヤヤコシイ日本酒基礎知識を30分×2で簡単に獲得!<前編>

<1>酒類とは?●日本酒はムツカシクない!

日本人にとって、日本酒くらい身近にありながら誤解されている食品はないと思います。一番の誤解は「日本酒は何だかムツカシイ!」というもの。ホントは日本酒は難しくなんかないんです。そして本来はもっと日本人の生活に密着した楽しい飲み物なんです。とは言っても、基礎的な知識や専門的な言葉を少しくらいは知らないと、全くチンプンカンプンでは本当に楽しむことは難しいでしょう。ここでは、本来専門的であまり面白くない、しかし知っておいた方が良い日本酒基礎知識を、出来る限りカンタンに、出来る限りオモシロクをモットーに、今回の前編30分程度と次回の後編30分程度の2回に渡って説明いたしますので、どうかガマンしておつきあい下さい。既にある程度の知識を持ってらっしゃる方でも、きっと新しい発見があると思いますので、復習の意味でも、是非ご覧ください。

まず最初に、「酒類」とは何でしょう?アルコールを含んだ飲料のことですが、正式には「酒類とは、アルコール分1度以上の飲料」のことです。ですからアルコール分1度未満のものは、酒類ではないということになります。

<2>酒類の分類(製法による)●お酒には造り方によって3つの種類がある

さて、酒類は製法によって次の3つに分けられます。

(1)醸造酒(じょうぞうしゅ)(2)蒸留酒(じょうりゅうしゅ)(3)混成酒(こんせいしゅ)

まず「醸造酒とは、糖質を酵母菌(こうぼきん)の働きによってアルコール発酵(はっこう)させて造ったもの」です。何やら難しい言葉が並んでいますが、もっとカンタンな言葉で説明しますと次のようになります。

とにかくお酒(酒類全般)は全て、まずは糖分がないと出来ないのです。この糖分が大好きな「酵母(こうぼ)」という大変小さい微生物が、あちこちに潜んでおり、空気中にもおりますが、これが糖分が多いところで繁殖するのです。この酵母が糖分を食べて、アルコールと炭酸ガスを排泄すると考えて下さい。「酵母が糖を食べて出たウンチがアルコールだ!」と言ったらちょっとモンダイかもしれませんが・・・とにかく、これが「発酵(はっこう)」です。

●醸造酒

ワインの例がカンタンですね。ワインの原料はブドウです。ブドウは糖分の固まりみたいなモノですから、ブドウを潰して壺か何かにその汁を入れて放っておきます。するとブドウの皮にも酵母は付着していますし、空気中にもおりますから、その汁の中に酵母が入って糖分を食べる訳ですね。そしてアルコールと炭酸ガスを排泄しますから、ブクブク泡を出しながら、だんだんアルコール分が高い液体に変わっていくというわけです。これがワイン造りの原理です。カンタンでしょう?

では日本酒の場合はどうでしょう?日本酒の原料は米です。米の成分には最初からは糖分はないんです。米の主な成分はでんぷんです。皆さんがご飯を食べる時、しばらく飲み込まずに噛んでいるとだんだん甘くなってくるのをご存じでしょう。これは、人間の唾液の中には糖化酵素があって、でんぷんを糖に変える働きを持っているんです。だから甘くなるんですね。これを飲み込まずに壺か何かにペッと吐き出して置いておくと、空気中の酵母がやってきて、その中の糖を食べてアルコールと炭酸ガスに変える。ブクブク泡が出てきて酒になるわけです。これが「口噛み(くちかみ)の酒」といって、日本酒の発祥はこうだったと言われています。日本酒造りの原理はこういうことです。ただし、唾液を使うのはさすがに汚いので、「麹菌(こうじきん)」というカビも糖化酵素を出しますから、今はこれを使っています。詳しくは後ほど説明しますが。しかし、人気女優さんの「口噛みの酒」なんてのがあったら、喜んで買うマニアがたくさんいるんでしょうな・・・!

このようにワイン、日本酒、ビール(後で説明します。)等のように、糖分を酵母が食べてアルコール発酵させただけのモノを「醸造酒」と言うのです。つまり「醸造」したそのままのお酒ですね。まずはこの醸造酒が基本です。醸造酒がないと、あとの2つの「蒸留酒」も「混成酒」も存在しないのです。

●蒸留酒・混成酒

では二番目の蒸留酒とはどんなお酒でしょう。「蒸留酒とは、醸造酒を蒸留させたもの」です。実はアルコールの成分というのは、水よりも低い温度で蒸発します。注射の時、腕にアルコール消毒をするとスーッとするでしょう。これはアルコールが蒸発するからスーッとするのです。ですから醸造酒の温度をだんだん上げていけば、アルコールの成分から先に蒸発していく訳です。この蒸発する成分は、上にフタがあればそこに水滴になって付着しますね。風呂屋の天井みたいなもんです。このアルコールの水滴を集めれば、元の醸造酒よりもアルコール度の高いお酒がとれます。これが「蒸留酒」なのです。ですから誤解を恐れずにカンタンに言ってしまうと、日本酒からできる蒸留酒が「焼酎(米焼酎)」であり、ワインからできる蒸留酒が「ブランデー」であり、ビールからできる蒸留酒が「ウイスキー」である、ということなのです。

では、最後の「混成酒」とはどんなお酒でしょう。「混成酒とは、醸造酒または蒸留酒に香料・草根・糖質などを加えたもの」です。これはもう、いろんなバリエーションが考えられますね。様々な種類があるリキュールがそうです。味醂や合成清酒なんかも混成酒ですね。とにかく世界中のあらゆる酒類は、この「醸造酒」「蒸留酒」「混成酒」のどれかに入ります。

<3>醸造酒の分類(発酵型式による) ●単発酵と複発酵

さて今度は、醸造酒のみを取り上げて細かくしてみましょう。まず醸造酒は発酵型式により、大きく2つに分けられます。「単発酵」と「複発酵」です。「単発酵とは、主成分が糖質からなる原料を酵母によって直接発酵させたもの」です。つまり前出のワインですね。もともと糖分を持っている原料からお酒を造ったら、それは「単発酵」の醸造酒である、というわけです。

次に「複発酵とは、主成分がでんぷん質からなる原料を糖化させて酵母により発酵させたもの」です。ビールや日本酒がそうですね。ビールの原料は麦ですし、日本酒の原料は米です。どちらも、もともとは糖分を持たないでんぷん質原料ですよね。ところでこの「複発酵」をさらに細かくすると、「単行複発酵(たんこうふくはっこう)」と「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」の二つになります。

●単行複発酵と並行複発酵

まず「単行複発酵とは、主成分がでんぷん質からなる原料を一旦糖化させ、その後酵母によって発酵させたもの」です。ビールがそうですね。ビールの原料は麦ですが、正確には大麦の麦芽(ばくが)です。麦芽とは麦の芽が出たヤツです。この麦芽自体が糖化酵素を出し、でんぷんを糖化して糖に変えます。その甘い汁を麦汁と言い、それに酵母を加えて糖分をアルコールに変え、発酵させてビールの出来上がりです。ちなみにビールの原料のホップは発酵には関係なく、苦味などの味わいのアクセントのために加えられています。

次に「並行複発酵とは、主成分がでんぷん質からなる原料で、同一もろみの中で糖化と発酵が並行的に行われるもの」です。これが日本酒独特の大変高度な発酵方法です。ビールはまず糖化を行ってから発酵させますが、日本酒は糖化と発酵が同時に行われるのです。麹菌の出す糖化酵素によるでんぷんの糖化と、その糖を酵母が食べてアルコールに変える発酵が同時並行的に行われるのです。ちなみに「もろみ」というのは酒と酒粕(さけかす)がまだ分離されていない、ドロドロの粥状のものです。このもろみの中で糖化と発酵が並行して行われるため、並行複発酵と言うわけですね。

●醸造酒の分類

以上の醸造酒の分類を図示すると次の通りになります。

<4>日本酒の種類 ●原材料の違い

ここまでいろいろな酒類の話しをしてきましたが、酒類の中における日本酒の位置が、なんとなくはお解りいただけたかと思います。さて、いよいよ本題の日本酒の話しです。日本酒には、かつては級別というものがあって、ほとんどの場合、二級酒・一級酒・特級酒というランクのみで語られていました。ところがもう現在は、この級別制度は廃止(平成4年に廃止)されています。ではどうやって日本酒を選んだらいいのか、級別以外に日本酒にはどんな種類があるのか、ここが一般の方には解りにくいところだろうと思います。純米酒、本醸造酒、吟醸酒など、言葉だけは聞いたことがあるけれど、一体それがどんな酒なのかがよく解らないというのが、普通の方の正直なところなのではないでしょうか。これから、そこのところを出来る限りカンタンに解り易く説明したいと思います。

●純米酒

まず、どんなものでもかまいませんので、ご自宅にある日本酒のラベルをよく見て下さい。どこかに必ず「原材料」の表示があるはずです。日本酒の種類の区別のポイントは、まずはこの原材料表示を見ることです。何と書いてありましたか。もし「米・米麹(こめこうじ)」と書いてあれば、大抵の場合その酒は「純米酒(じゅんまいしゅ)」だと思って下さい。お米(と水)だけで造られたお酒のことですね。おそらくラベルのどこかに、「純米酒」という文字が書かれていると思います。ちなみに「米麹」とは、お米にカビの一種である麹菌を生やしたものです。この麹菌が糖化酵素を出してお米のでんぷん質を糖分に変えるのでしたよね。覚えていますか?一般的に純米酒は、米に由来する穀物様の艶のある穏やかな香りを持ち、コクのある旨味が特徴です。

●本醸造酒とアルコール添加酒

あるいは原材料に、もし「米・米麹・醸造アルコール」と書いてあれば、その酒は次の二つのどちらかです。すなわち、「本醸造酒(ほんじょうぞうしゅ)」か「アルコール添加酒」です。この違いは「醸造アルコール」の添加量で決まります。ちなみに「醸造アルコール」とは、とりあえず「アルコール」だと思って下さい。まあ焼酎みたいなもんです。詳しくは次回説明します。この醸造アルコールの添加量が少ない場合は「本醸造酒」に、多い場合は「アルコール添加酒」になります。もう少し詳しく言えば、「醸造アルコールの使用量(アルコール分95度換算)が日本酒を造るのに使用する白米重量の10%以内であれば、その日本酒は本醸造酒である」と言えます。と言うことは「アルコール添加酒」のアルコール添加量の下限は、「使用する白米重量の10%を超える量である」となります。では「アルコール添加酒」のアルコール添加量の上限はどうでしょう。これには、「1製造場あたり、使用白米1トンにつき280l以内(アルコール分100度換算)」という決まりがあります。しかし実際にそこまで添加すると薄っ辛くてオイシクありませんので、通常はそこまで添加はしませんが。一般的に本醸造酒は、控え目でシンプルな香りを持ち、優しい旨味と軽やかな喉ごしが特徴であり、アルコール添加酒は本醸造酒よりも旨味が少なく、スッキリとしたタイプであることが一般的です。

醸造アルコールの添加量が、ラベル等に表示されているわけではありませんので、「本醸造酒」と「アルコール添加酒」の区別をつけるのは難しいと思われるかもしれませんが、本醸造酒の場合は大抵ラベルのどこかに「本醸造酒」と書いてありますので、その場合は「あ、本醸造と書いてあるということは、醸造アルコールの添加量が少ないんだな」と思ってください。

●水アメ入りの酒

さて、ラベルの原材料表示に「米・米麹・醸造アルコール・糖類・酸味料」と書いている酒もあります。これは通常「増醸酒(ぞうじょうしゅ)」と言います。米だけで造られる「純米酒」と比べると、同じ量の米を使っておよそ二倍の量程度の酒ができることから名付けられました。先ほど「アルコール添加酒」のところで、醸造アルコールをあまりたくさん添加すると、薄っ辛くてオイシクないと書きましたが、ようするに、醸造アルコールをたくさん添加すると甘味が足りなくなるので「糖類」(いわゆる「水アメ」や「ブドウ糖」のことです)を、酸味が足りなくなるので「酸味料」を添加する、場合によっては旨味が足りないので旨味調味料を添加する、というわけです。ただし、日本酒として瓶に詰めて商品化される時には、「増醸酒」のまま商品化されることはあまりなく、実際は「アルコール添加酒と増醸酒の混和酒(こんわしゅ)」として混ぜて商品化されています。これらは名称がややこしいので別に覚えなくてもかまいませんが。まあ、カンタンに言ってしまうと「水アメ入りの酒」だと思って下さい。ちなみに「増醸酒」の場合、「ひと仕込みあたり、原料用アルコール・糖類・酸味料との合計が白米総重量の50%を超えない範囲」で、添加が可能です。

以上のように、日本酒はその原材料によって「純米酒」「本醸造酒」「アルコール添加酒」「増醸酒」(実際は「アルコール添加酒と増醸酒の混和酒」)の4つに大抵は分類されます。後者二つは、通常「普通酒」あるいは「一般の清酒」と呼ばれます。これに対して前者二つは「特定名称酒」と呼ばれます。「純米」や「本醸造」等の特定の名称が付けられた上質な酒である、という意味です。

●本醸造酒とアルコール添加酒の違い>

「本醸造酒」と「アルコール添加酒」は、醸造アルコールの添加量が違うだけなのに、かたや「特定名称酒」という上質酒であり、かたや「普通酒」という一般酒になるというのはどうも解せない、という方がいらっしゃるかもしれませんが、これは醸造アルコールの使用目的が全く違うのです。「純米酒」は米だけから造られた純粋な酒であり、特徴はコクと旨味にありますが、米の成分が多いため、比較的品質が劣化しやすく、またややもすると味わいが重たくなりがちです。これが醸造アルコールを少量加えると、比較的品質が劣化しにくくなり、味わいもスッキリと飲みやすい酒質になるのです。さらに、搾る前の日本酒もろみに少量の醸造アルコールを加えることにより、良い香りのする成分を酒粕の方に取られることなく、酒の方に残させる働きも持っています。さらに、醸造アルコールの少量添加は、酒の醸造を安定的にし、醸造中のもろみが腐ったりすることも防ぎます。

昔の酒造りでは、技術力に乏しく、たまにもろみを腐らせたりしたようですが、もろみに少量の焼酎を添加することで、これを防止したりもしていました。この手法を「柱焼酎(はしらしょうちゅう)」と言い、伝統的な日本酒の製造方法の一つです。ようするに「本醸造酒」の場合に添加する醸造アルコールの使用目的は「柱焼酎的」である、と言えます。かたや「アルコール添加酒」の場合に添加する醸造アルコールの使用目的は、「増量剤的」であると言えるでしょう。

●TPOで日本酒を選ぼう!

こう書いてくると、どうも酒の「良い」「悪い」を論じているように感じられるかもしれませんが、「特定名称酒」が「良い」酒で「普通酒」が「悪い」酒であると言っているわけではありません。もちろん本物志向の方達にとってはその通りでしょうが。しかし、世の中には本物志向の方ばかりがいるわけではありません。内容よりもそこそこ旨い酒を比較的低価格で飲みたいという方、安価な日本酒をたくさん飲みたいという方、酔っぱらいたいだけの理由で飲まれる方等々、いろんな方がいらっしゃいます。そういう方々にとっては、「アルコール添加酒」も「混和酒」もまた、「良い」酒なのです。ただし、ダマシはいけません。日本酒が全て米だけから造られていると思って、普通酒を飲まれている方がいたとすれば、その方にはキチンと本当のことを知らせてあげなければなりません。知った上でどの酒を選ぶか、ということが大切であると思います。日本酒の原材料による違いを知った上で、安い酒をたくさん飲みたい場合は「普通酒」を、ちょっと良い酒をスッキリと飲みたい場合は「本醸造酒」を、本物志向のコクのある旨味をじっくり味わいたい場合は「純米酒」を、というようにTPOによって使い分けるというのが最も良い答えなのではないでしょうか。

●精米歩合の違い

日本酒の種類の区別のもう一つのポイントは「精米歩合(せいまいぶあい)」です。精米歩合とは、玄米を磨いて残った米の割合のことです。例えば「精米歩合60%」とは、玄米の表層部の40%を糠(ぬか)として削った白米である、という意味です。普段皆さんが食べているご飯は、精米歩合で言うと90%程度です。日本酒の場合はもっとたくさん削ります。通常は精米歩合75%くらいは磨きます。米の表層部には栄養価は多いかもしれませんが、酒の醸造には不必要な成分が多いのです。あまり米を磨かないで日本酒を造ると、雑味の多い酒になりがちです。逆に米を磨けば磨くほど、きれいな飲みやすい酒になりやすいと言えます。

ここで実は追加事項があります。先ほど説明した「本醸造酒」には、原材料以外にももうひとつ「精米歩合」の決まりがあるのです。本醸造酒は精米歩合70%以下に削らなければなりません。つまり、例えば原材料が米と米麹と少量(使用白米重量の10%以内)の醸造アルコールのみだったとしても、その米の精米歩合が70%を超えていたら、「本醸造酒」と言ってはいけない、ということなのです。ではその酒はなんと呼ぶかというと、しいて言えば「醸造アルコール少量添加の酒」というしかないでしょう。正式には「普通酒」ということになります。

ちなみに「純米酒」も、かつては同様に精米歩合70%以下に削らなければ「純米酒」とは名乗れませんでしたが、平成16年より「清酒の製法品質表示基準」が改正され、「純米酒」については「精米歩合70%以下」の規定が削除されました。つまり「純米酒」については精米歩合が75%であっても「純米酒」と名乗ることができる、ということです。ただし「純米酒」も「本醸造酒」も、原材料表示の近接する場所に、精米歩合を実数で表示しなければならないという規定も同時に追加されています。

●吟醸酒

さてここで、お待たせしました。いよいよ「吟醸酒」の説明です!純米酒と本醸造酒の特定名称酒のうち、精米歩合を60%以下に磨いた米で造ったものを「吟醸酒」と言うのです。もう少し厳密に言うと精米歩合の基準だけではなく、低温で発酵させるなど、吟味して製造したもの、いわゆる「吟醸造り」によって造られないと「吟醸酒」とは言えません。

つまり、「純米酒」のうちで、精米歩合60%以下に磨いた米で造られ、さらに吟味して造られた酒を「純米吟醸酒」と言います。そして「本醸造酒」のうち、精米歩合60%以下に磨いた米で造られ、さらに吟味して造られた酒を「本醸造吟醸酒」と言います。「ほんじょうぞうぎんじょうしゅ」と言うのは舌を噛みそうなので、一般的にはこちらの方を単に「吟醸酒」と言います。「吟醸酒」も「純米吟醸酒」も、華やかな香りとサラリとした口当たりと喉ごしが特徴で、「純米吟醸酒」がやや旨味が多いのが一般的です。

さらに、「純米酒」のうち、精米歩合50%以下に磨いた米で造られ、さらに吟味して造られた酒を「純米大吟醸酒」と言い、「本醸造酒」のうち、精米歩合50%以下に磨いた米で造られ、さらに吟味して造られた酒を「本醸造大吟醸酒」と言います。「ほんじょうぞうだいぎんじょうしゅ」と言うのは、これはもう舌を噛むことは必至なので、一般的には単に「大吟醸酒」と言います。どちらも華やかな香りが特に高く、透明感のあるクセのないサラリとした味わいが特徴で、「純米大吟醸酒」の方がやや旨味が多いのが一般的です。

●四つの酒質ピラミッド

これらの「純米吟醸酒」「吟醸酒」「純米大吟醸酒」「大吟醸酒」のことを総称して、一般に「吟醸酒」と言うのです。おわかりいただけましたか?ここまで長々と説明してきた「日本酒の種類」の部分を、図示してみましたのでご覧下さい。原材料の価値を横軸に取り(原材料が純粋に近いほど原材料価値が高いと見なす)、精米歩合の価値を縦軸に取りました(精米歩合が低いほど精米歩合価値が高いと見なす)。私はこの図を「日本酒4つの酒質ピラミッド」と名付けています。

どうです?この図を見れば一目瞭然でしょう!え?図の中の「特別純米酒」「特別本醸造酒」の説明がないじゃないかって!?スミマセン!忘れてました。まず「特別純米酒」というのはですね、「純米酒との違いが客観的事項をもって説明表示できるもの」を言います。たとえば「➀精米歩合が60%以下、➁酒造好適米(酒造り専用の品種)の使用割合が50%以上、➂純米大吟醸または純米吟醸が混和されているもの」などです。「特別本醸造酒」も同様に考えて下さい。「本醸造酒との違いが客観的事項をもって説明表示できるもの」を言います。たとえば「➀精米歩合が60%以下、➁酒造好適米の使用割合が50%以上、➂大吟醸または吟醸が混和されているもの」などです。なお、精米歩合が60%以下なら吟醸酒と同じと思われるかもしれませんが、低温で発酵させるなどをしていなければ、吟醸酒とは言えないんでしたよね。

え?まだありました?図の「農産物検査法のウンヌン」と「粒状の精白米」と「麹米の使用割合」の説明がないじゃないかって!?あちゃー!どうも抜けまくっていてゴメンなさい。これはですね、「特定名称酒」には実はさらにまだまだ決まりがあって、まずは使用する米は農産物検査法で三等以上に格付けされた米を使わないと特定の名称が名乗れない(つまり「本醸造酒」や「純米酒」や「吟醸酒」などを名乗れない)のです。ですから、三等より下の米(いわゆる等外米)を使ったら、たとえ原材料が「米・米麹」だけであっても、その酒は「純米酒」とは名乗れない、ということなのです。この酒は「普通酒」ということになりますね。次に「粒状の精白米」とは、つまり砕米(砕けた米)や米粉は使ってはいけないということです。そして、平成16年の「清酒の製法品質表示基準」改正により、特定名称酒は使用する白米総量に対する麹米の使用割合が15%以上に限ることとされました。ですから、麹米の使用割合が10%程度であれば、たとえ原材料が「米・米麹」だけであり、さらに使用米が三等以上であったとしても、その酒は「純米酒」とは名乗れない、ということなのです。これも「普通酒」ということになるわけですね。

もう説明不足はないですよね。ようするにこの図を使えば、アナタの今飲んでいる日本酒がどの位置に入るかがワカルということなのです。例えば原材料に「米・米麹・醸造アルコール・糖類・酸味料」と書いてあれば、「普通酒」のいわゆる「混和酒」のピラミッドに入る訳ですが、この酒を一升瓶5千円で買ったとすれば、それはボッタクリである!ということですね。それだけ出せば、普通は「大吟醸酒」や「純米大吟醸酒」あたりが買えますからね。まあ、そんなものを掴まされることはまずないと思いますけど・・・。

●普通酒の4つの区分についての補足

さてここで、「4つの酒質ピラミッド」をもう一度ご覧ください。横軸の「原材料価値」は、原材料が純粋に近いほど原材料価値が高いと見なし、縦軸の「精米歩合価値」は、精米歩合が低いほど精米歩合価値が高いと見なすのでしたよね?これは、「特定名称酒」については問題ないのですが、「普通酒」については、実はちょっと違ってくるのです。「普通酒」でも、縦軸の「精米歩合価値」については、精米歩合が低いほどキレイな酒になりますし、原価も高くなりますから、あまり問題はないのですが、横軸の「原材料価値」については、この図の右に行けば行くほど、つまり原材料が純粋に近いほど原材料価値が高くなるかというと、「普通酒」ではそうとも言い切れない部分があるのです。その理由は、次のような場合を想定して考えてみると、よく解ると思います。「普通酒」のカテゴリーの一番右に位置する、いわゆる「米だけを使った酒」の中で、等外米のさらに砕米を使って造った酒と、一番左に位置する「混和酒」の中で、3等以上の粒状の米を使って造った酒とでは、どちらが「原材料価値」が高いと言えるでしょうか?・・・難しいですよね?ここは、原価で考えてみましょう。後者の「混和酒」であってもそれなりに良い米(3等以上)を使ってキチンと造れば、まあ一升瓶(一升=1.8リットル)あるいは一升パックの小売価格で1,200円~1,500円くらいにはなるでしょう。ディスカウントストアで買ったとしても、まず1,000円を切ることは難しいのではないでしょうか。日本の米は高いですからね。次に前者の等外米の砕米を使って造った「米だけを使った酒」では、一升800円とか、700円を切るものまであるようです。これは、大抵は「液化仕込み」という方法で造られています。最初から酵素剤を使って米を溶かしてしまい、カンタンに大きな機械で、一人の人間だけでも大量に日本酒が造れる方法です。さらにこの方法を使えば酒粕もほとんど出ずに、ほとんど全部酒になってしまうそうですから、原価も安くなるわけなのです。つまり、「普通酒」の場合は、図の一番左の「混和酒」の方が、図の一番右の「米だけを使った酒」よりも、「原材料価値」が高い場合があり得るということなのです。

実は前出の、平成16年の「清酒の製法品質表示基準」の改正も、この「液化仕込み」の酒による消費者の誤認の問題があったからなのです。「液化仕込み」とは、酵素剤を使って米のデンプン質をあらかじめ糖化し溶かしてしまう方法なのですが、原料に米麹を使わなければ日本酒の規定には入りません。しかし、以前はその米麹の使用量についての基準がなかったのです。つまり極端な話し、ひとつかみでも米麹を入れれば日本酒と言え、場合によっては純米酒とも言えたわけです。そして原料が「米・米麹」だけの液化仕込みによる安価な「純米酒」や「米だけの酒」が氾濫しました。その酒が、伝統的な「純米酒」との誤認を消費者に招いたのです。特定の名称の付けられた高品質の「純米酒」と、ほとんど米麹を使わない「液化仕込み」による安価な「純米酒」や「米だけの酒」が誤認されては、たまったものではありません。そして平成16年より「清酒の製法品質表示基準」が改正され、「特定名称酒」は使用する白米総量に対する米麹の割合が15%以上に限られることになり、さらに誤認を防ぐため、「米だけの酒」などと表示するときには、「液化仕込み」による場合、「純米酒ではありません」と表示しなければならないことになりました。なかなか、ややこしいですね。

ちなみに司牡丹酒造では、一番安価な「土佐司牡丹」でも、「増醸酒」や「混和酒」ではなく、「アルコール添加酒」であり、もちろん粒状の米のみを使って造っていますし、造りで最も重要な麹米と酒母米には必ず三等米以上を使っています。なお、「普通酒」では、外国産米を使っても大丈夫なのですが、こちらは原材料表示に「米(国産)・米麹(国産米)」などと表示しなければならなくなっていますから、すぐに判別可能ですよね。

ところで、別に砕米や外国産米を使ったり、「液化仕込み」で仕込んだりというのが悪いと言っている訳じゃないですよ。ちょっと前にも書きましたけど。そういう日本酒でも安く酔えりゃかまわないよ、という方も結構いらっしゃるんですから。問題なのはそういうことを知らずに飲んでいる方がいたとしたら、なんかダマサレタ!という気になりはしないか、ということなのです。知っていて選ぶのと知らずに買ってしまうのとでは大違いですからね。いろいろ知った上で、さてあなたはどの日本酒を選びますか、という態度が大事だと思っています。たとえば、カニカマは偽物でしょうか?カニカマをカニカマとして販売するなら本物でしょうし、カニカマをカニとして販売するなら、それは偽物だと言うことなのです。