【門前編】「魚ビジネス」から日本酒を考える!<後編>

First part of the gate

【門前編】「魚ビジネス」から日本酒を考える!<後編> 前回に引き続き今回も、ドラマ「ファーストペンギン!」(2022年10月~日本テレビ系列)の監修者でもある、ながさき一生氏の著書「魚ビジネス」(ながさき一生著クロスメディア・パブリッシング 2023年4月21日発行 1580円+税)を取り上げたいと思います。この書籍は、魚に関係するビジネス全般について、食べることが好きな人から専門家まで、楽しく読めるように書かれた書籍です。しかし読めば読むほど、魚ビジネスと日本酒ビジネスはよく似ており、学ぶべき点が多々あることに気づきました。また当然魚は、日本酒にとって最高に相性の良いパートナーでもあります。そこで今回は、「魚ビジネス」の内容などをご紹介しながら、日本酒についても言及していく、「『魚ビジネス』から日本酒を考える!」の後編をお届けしたいと思います。 【豊洲市場から学ぶ水産流通の世界…そして日本酒!】 本書の第6章は、「豊洲市場から学ぶ水産流通の世界」というタイトルで、著者はまず豊洲市場の概要や歴史についてなどを紹介しています。また著者は、昨今、市場を通らない市場外流通が増え、生産者からインターネットを通じて直接魚が販売されるケースも増えているのだといいます。特に、産地からの直販は、中間コストが抑えられることもあり、いわゆる「中抜き」を進めようという人もいるのだそうです。では、今後、魚市場はいらなくなるのかというと、結論から言えば、「否」ということになると著者は断言しています。その理由について、著者は次のように語るのです。現代社会には情報が溢れかえっており、インターネットの発達によって莫大な情報にアクセスできるようにはなりましたが、かえって不便になった側面もあるのだと。それは、本当に必要な情報を探して、たどり着くまでに時間を要することだといいます。このため、インターネットの世界では、情報を選んで集めて整理する「キュレーション」が進んだのだというのです。ポータルサイトやまとめサイトがその典型例で、キュレーションは情報量が増えると必要となってくるのだといいます。一方で魚の流通はどうかというと、市場は、世界各地の莫大な種類の商品を選んで集めて整理し、求める人のところに商品を提供するという役目を担っており、これは「キュレーション」そのものなのだと。魚市場では、流通の過程の中で、卸が魚を集め、仲卸がその魚を選んで、求める人々に提供するという仕組みで、キュレーションを実現しているのだというのです。そして、この魚市場のキュレーションの中で特に重要となるのが、「目利き」だといいます。卸が自らの地域に合った魚を目利きして集め、その魚を仲卸がさらに目利きをして、お客ごとに求める魚を提供するというのが、市場の持つ機能の本質なのだと著者は語っています。「魚を選ぶ」ということは言葉では簡単ですが、高度な知識や見る目、細かな気遣いを必要とし、「目利き」力は、まさにこの高度な能力のことをいい、これこそが市場がなくならない理由だと、著者は語るのです。魚は日々変わるものであり、それを日々見て選んでくれる人がいるからこそ、私たちは美味しい魚を日々食べることができるのだと。「中抜き」というものが確かに流行った時期がありましたが、しかし、その後プロの目線による「目利き」の重要性が見直されることになったのだといいます。これからも、魚ビジネスにおける魚市場の重要性は、特に「目利き」という点において続いていくことでしょうと、著者はこの章を締め括っています。 さて、日本酒も、魚同様に莫大な種類の商品がありますから、選んで集めて整理し、求めるところに商品を提供するという、キュレーションが必要とされる業界であるといえます。また、このキュレーションの中で重要となるのが、「目利き」ならぬ「唎酒」能力であるともいえるでしょう。そして、このキュレーションの視点こそ、あらためて日本酒流通の世界で、今後最も必要とされる視点なのではないでしょうか。日本酒は、魚以上に莫大な種類の商品があり、情報量も莫大です。にも関わらず、未だに「中抜き」が流行っているのは何故なのかというと、酒類卸にも小売酒販店にも、このキュレーションの視点がまだまだ足りないからなのではないでしょうか。ただ単純に仕入れた商品を流通させるだけの存在ならば、「中抜き」されてもしょうがないといえます。しかし、酒類卸も小売酒販店も、このキュレーションがしっかりできていれば、その重要性は必ずや見直されるはずなのです。膨大な数の日本酒の商品と、膨大な量の日本酒に関する情報を、しっかりと選んで集めて整理して、求める人のところに求める商品や情報を、本当に提供できているといえる酒類卸や小売酒販店は、まだまだ少ないのが現実であるといえるでしょう。唎酒にしても、単純に自身の唎酒能力を鼓舞するためや、自分の好みの酒を売り付けるためというのではなく、1本1本の日本酒の個性を見きわめ、その個性を活かせる相性の良い料理を探し出すなど、その日本酒の香味に合った様々な提案ができてこそ、「目利き」といえるレベルの唎酒能力であるといえるのです。つまり、そのレベルの唎酒能力を持ち、キュレーションがしっかりできる酒類卸や小売酒販店となれば、必ずや今後も生き残ることができ、そしてそんな酒類卸や小売酒販店が増えていけば、必ずや日本酒業界は復活を遂げることになるといえるでしょう。 【魚屋から学ぶ小売店の世界…そして日本酒!】 本書の第7章は、「魚屋から学ぶ小売店の世界」というタイトルで、著者はまず「繁盛している魚屋は何が違うのか」について解説しています。そして、昨今の魚離れの状況の中、業績好調を維持し続けている魚屋、「角上魚類」が紹介されています。ちなみに「角上魚類」は、関東や信越地区を中心に22店舗を展開する魚屋で、店舗によっては年末ともなれば午前3時前から行列ができる人気店で、テレビでも度々取り上げられ、その日に揚がった新鮮な魚介が安い値段で売られている様子が伝えられているのだといいます。このように、「角上魚類」が繁盛している理由は、売上が芳しくないとされる一般的なスーパーの魚売り場と比較をすると一目瞭然なのだと、著者は語っています。そしてそのポイントを、以下の3つに分けて紹介しているのです。

➀対面コーナーが充実している:第一に「角上魚類」は、店員がお客と相対しながら販売をする売り場である、対面コーナーが充実しているのだといいます。そこでは、日々違う魚が、基本的に丸魚の状態で置かれており、魚に詳しい店員とコミュニケーションを取りながら買い物ができるのだといいます。分からないことを聞いたり、おすすめの魚や食べ方の提案を受けたりすることもでき、日々違う魚が入荷する点も楽しく、嬉しいところなのだというのです。一方で、一般的なスーパーでは、魚がパック詰めされ、ただ置かれているだけで、これでは魚の知識が相応にないとどうやって食べて良いかが分かりませんし、また、様々な魚の中から今日は何を買うべきなのかが分からないのだと著者は語っています。


②店員の数が多い:第二に「角上魚類」には、もうそれは異常なくらい店員が多くいるのだそう。ショッピングセンター内にある赤羽店を例に挙げれば、八百屋などと共にテナントとして入居しており、そのためスーパーと同じような売り場で、広さも一般的なスーパーと変わらないのだといいます。にも関わらず、見える範囲だけでも店員が常時20名程いるのだそうです。そして店員の多くは、対面コーナー奥の調理スペースで注文を受けた魚を捌いているのだとか。一方で、一般的なスーパーの場合は、店員が少なく、売り場から見える範囲で3名~6名程というお店がほとんどで、これでは、多くのお客からの捌く要望には答えられませんし、様々な魚を置くことが難しくなるのだと、著者は語るのです。


③郊外出店が多い:第三に「角上魚類」は、郊外出店が多いのも特徴的なのだそう。関東では、東京23区内の店舗は赤羽店と南千住店の2店舗のみで、あとは、都内だと小平店や日野店など郊外の店舗であり、都道府県別では埼玉県が最も多く、7店舗を出店していますが、どこも東京のベッドタウンなのだといいます。「角上魚類」は、関東圏に進出しながらも、地価があまり高くないところにのみ出店していることが分かるのだというのです。


これらのことを踏まえて、「角上魚類」を経営的に分析してみると、対面コーナーにせよ、店員の数にせよ、あえて人件費をかけるやり方をしていることに気がつくのだといいます。そして、土地代など、そのほかの経費は抑えているのだと。人件費抑制が叫ばれる昨今、一般的なスーパーの店員数が少ないのもその流れでしょうが、しかし「角上魚類」はその逆を突いて売上をのばしているのだというのです。では、なぜ人件費をかけると売上が伸びるのでしょうか。ここで著者は、「魚屋は昔の方が効率的だった?」という点を指摘しています。スーパーが現れる前の時代は、全国の商店街には魚屋があり、その頃は魚が売れていたのだといいます。この商店街の魚屋と「角上魚類」には共通点があり、それは対面販売を行っている点だというのです。商店街の魚屋は対面販売が基本で、やってきたお客に「今日は何がおすすめか」「どのように食べると美味しいか」などの話をしていたのだといいます。今風の言葉で表現するなら、「お魚コンシェルジュ」の役割を果たしていたのだと。しかし、スーパーが台頭してくると街から魚屋が消え、「お魚コンシェルジュ」がいなくなり、この頃から魚の消費が減って魚離れが進んでいったのだというのです。そして著者は、実は、この「お魚コンシェルジュ」は、鮮魚の流通にとって非常に大事な役割を果たしていたのだと語るのです。魚の生産方法は、今も天然から魚を漁獲する方法が半分以上であり、そうすると、毎日入荷状況が変わってくるのだといいます。今日安く仕入れられた魚が明日高くなるかもしれませんし、普段見ない魚が入荷してくることもあるでしょうと。さらに、魚は種類が豊富で、主に食べられている魚種だけで30種類は超え、時々食べるものも含めると500種類を超えており、さらには加工品も様々なため、魚全般の知識は莫大なものとなるのだと著者は語るのです。多種多様なものが日々違う状況で入荷するという、このことこそが、魚という生鮮食品の最たる特徴であり、このような扱いの難しい食材は、置いておくだけでは売れないのだといいます。私たちは普段、電球のような分かりやすい商品なら特に考えずに買いますが、パソコンのような複雑な商品の場合は調べたり、店員に聞いたりして買うのが普通であり、魚の場合は、お店に置いてあるものが激しく変わるため、調べて知識をつけるよりもその場で店員に聞いた方が早いのだと。このような状況だからこそ、「お魚コンシェルジュ」の立ち位置は重要で、今でも「魚は対面販売が一番売れる」と言われる所以なのだと著者は語っています。つまり、魚は本来、臨機応変な対応をした方が売れる商材だということで、これには、マニュアルでもシステムでもなく、人が対応するしかないのだと。そして、臨機応変な対応が可能になれば、魚は売れるようになるといいます。これが、「人件費をかけると魚屋の売上が伸びる」理由なのだというのです。魚屋の効率的な経営で削るべきは人件費ではなく、土地代をはじめとした人件費以外の部分なのだと、著者は語るのです。 さて、ここまでの「魚」という言葉を「日本酒」に変え、「魚屋」という言葉を「酒屋」に変えても、そのまま意味が通じることでしょう。それどころか、ここにはこれからの時代に酒屋が生き残るためのヒントが満載であるといえるのです。日本酒も、魚と同様に種類が極めて多く、消費者にとって分からないことだらけであり、ただ置かれているだけでは売れない商材です。つまり、「対面コーナーを充実させる」べき商材なのだといえます。また、魚ほどではないにしても、日本酒も多種多様なものが日々違う状況で入荷してきます。春には「薄にごり」の「霞酒」、夏には「夏生酒」、秋には「ひやおろし」、冬には「しぼりたて生原酒」という季節商品が入荷し、さらに「燗酒」向きの商品や「冷酒」向きの商品なども入荷しますし、「樽酒」や「にごり酒」や「スパークリング清酒」などもあるという具合です。さらに日本酒の蔵元は、減ったとはいえ主に流通しているだけでも500蔵以上は存在しており、それぞれが様々な銘柄や季節商品を発売しています。つまり、お客に「今日は何がおすすめか」「どのように飲むと美味しくいただけるか」という、「日本酒コンシェルジュ」の役割を、酒屋が果たす必要があるということなのです。日本酒も、置いてあるものが激しく変わるわけですから、お客にとっては調べて知識をつけるよりもその場で店員に聞いた方が早いのだといえます。だからこそ「日本酒コンシェルジュ」の立ち位置は重要で、「日本酒は対面販売が一番売れる」といえるのです。日本酒を対面販売のような臨機応変な対応で販売するには、マニュアルでもシステムでもなく、人が対応するしかないのです。そして、臨機応変な対応が可能になれば、日本酒は売れるようになりますから、「店員の数が多い」ことが重要、つまり「人件費をかけると酒屋の売上が伸びる」ということになるわけです。さらに、酒屋の効率的な経営で削るべきは人件費ではなく、土地代をはじめとした人件費以外の部分であり、そのためには「郊外出店」などが有効なのだといえるのです。 【居酒屋から学ぶ飲食店の世界…そして日本酒!】 本書の第8章は「居酒屋から学ぶ飲食店の世界」というタイトルで、居酒屋を主な題材として、飲食店の世界を解説しています。ここで著者は、飲食店で魚を提供する際、大事になることを一言でいえば、「魚の商品特性に合わせた提供ができるか」だといいます。魚という食材の特徴は、前出のとおり「変化が激しい」ことです。たとえば、最高のマグロと最高のアジが入荷したとしても、1日経てばその品質は変わってしまいますし、同じものが明日入荷するかは分からないのだと。このような状況で美味しい魚を提供するには、「変化にいかに対応できるようにしておくか」が重要になるのだというのです。そしてその究極は、「おまかせ」という提供方法なのだといいます。お刺身でも「おまかせ盛り」であれば、その日の入荷に合わせて、美味しい魚を選んで提供することができるのだと、著者は語るのです。 さらに著者は、「とれたて」「新鮮」を謳うお店は信用できないのだといいます。一見良さげに見えるこれらの文言ですが、「とれたて」「新鮮」は、いつまでの、どの状態までをいえるのか、定義されていませんし、魚を他の食材と比較した場合、その最たる特徴は「劣化が激しい」ということであり、さらに冷蔵庫に保管したとしても、他の食材以上に時間の経過でどんどん品質が変わっていくのだというのです。これらを考慮すると、「とれたて」「新鮮」を本当に追及するならば、とても難しいことが分かるのだといいます。そこで、飲食店にとって素材の仕入れと同じくらい大事になってくるのが、「魚を止めない」ということなのだというのです。つまり、新鮮な魚を、仕入れては出し、仕入れては出し……という魚の回転を早くすることが大事であるということで、魚のことを分かっている飲食店は、「とれたて」「新鮮」を謳うことよりも、魚の回転を早めることを重視するのだと、著者は語っています。 そして著者は、魚よりも人が大事だと強調しています。魚は日々品質が変わるものであり、天候によって漁に出られず入荷がなかったり、相場が激しく動いたり、取っておいた魚が傷んだり……が日常茶飯事なのだと。この変化に対応するのは、結局のところ「人」になるというのです。飲食店では、魚の素材が良いことも大事ですが、それ以上に魚をきちんと扱える人が切り盛りしていることが極めて重要になるのだといいます。そして、飲食店で魚を美味しく提供できる人の特徴として、「行動が早い」「臨機応変な対応ができる」「清潔な人」の3点を挙げており、このほかにも、何気ない日々の変化に気を遣っていたり、素材と向き合っていたり、研究熱心であったりする人は、魚を美味しくしやすい性格だといえるのだと語っています。魚は素材が大事……といっても、結局のところ素材は毎日品質が変わりますから、ということは、それに人がどう対応するかが味を決めるのだと著者は語るのです。 飲食店にとっての日本酒も、魚とほぼ同様であるといえます。飲食店で日本酒を提供する際大事になることは、一言でいえば「日本酒の商品特性に合わせた提供ができるか」ということになります。日本酒の場合、1日で品質が変わるというほどではないにしても、数ヶ月で品質は変化しますし、数量限定品なども多く、同じ商品が明日入荷するかどうかは分かりません。このような状況で美味しい日本酒を提供するためには、「変化にいかに対応できるようにしておくか」が重要になるのです。ならば、お刺身の「おまかせ盛り」のような、日本酒の「店長のおすすめ飲み比べセット」などの提供方法を用意しておくことが大切であるといえるでしょう。さらに、飲食店にとって日本酒の仕入れと同じくらい大事になってくるのが、「日本酒を止めない」ということになります。1升瓶の底に少し残った状態でしばらく置かれると、日本酒の劣化の進み具合が早くなるといえますから、仕入れては出し、仕入れては出し……という日本酒の回転を早くすることが大事になってくるのです。そして、飲食店では日本酒の品質が良いことも大事ですが、それ以上に、日本酒をきちんと扱える人が切り盛りしていることが極めて重要になるということなのです。 【これからの魚ビジネスの世界…そして日本酒のこれから!】 本書の第9章と終章にて著者は、これからの魚ビジネスの世界についても言及しています。現在の日本では、「大量少品種」の魚食と「少量多品種」の魚食という、魚食の二極化が進んでいるのだといいます。大量少品種とは、規格化された魚を大量に流通させて消費する画一的な魚食スタイルであり、冷凍や養殖の魚がその代表で、培養肉もいずれこちらに加わってくるでしょうと語っています。少量多品種とは、少量ながらも様々な魚を流通させて消費する多様な魚食スタイルであり、天然の鮮魚が代表で、旬に合わせて様々な魚を楽しむ形であると語るのです。そして著者は、日々の生活の豊かさを維持するためにも、そして日本の魚を海外に売り込んでいくためにも、この「大量少品種と少量多品種のバランス」が、非常に重要になるのだと語っています。大量少品種の魚と少量多品種の魚の、両方が今求められているということなのです。しかし、技術開発や流通構築、制度制定といった動きは、もっぱら大量少品種についてされているのが現状なのだといいます。それはなぜなのかといえば、大量少品種の方が規模感を出せて儲かるからなのだとか。こうして、大量少品種を推すためには投資がどんどんされていきますが、少量多品種は昔よりも先細ってきているのだというのです。この状況が進みすぎた末に待っているのは、冷凍魚、養殖魚、培養魚肉ばかりが溢れて、いつも同じ魚しか食べられない世界なのだといいます。そんな世界を私たちは望まないでしょうと著者は強調しています。確かに大量少品種は儲かりますが、しかし、少量多品種の魚を楽しむ文化も守っていくことも同時にしなければ、日本の魚食は世界の中で存在意義を失うのだというのです。大規模に効率的に進めていく部分と、小規模でも価値を高めていく部分という、2つのバランスを図っていくことを、これからの魚ビジネスは忘れてはならないのだと、著者は語っています。 そして著者は、最後に総論として、世界のセレブに日本の魚を食べに来続けてもらうためには何が必要なのかを述べています。それは、一言で言えば「多くの人の力を集結する」、そして「みんな仲良く」ということだというのです。日本の魚がなぜこんなに魅力的なのかは、魚の横軸と縦軸で説明できるのだといいます。横軸は、様々な魚種や地域、漁法などのバリエーションを指すのだそう。つまり、マグロもあれば、マダイもあれば……といったバリエーションの豊かさが、日本の魚食を奥深くて飽きが来ない魅力的なものにしているのだというのです。そして縦軸は、流通のサプライチェーンを指すのだそう。獲る人がいて、流通させる人がいて、調理する人がいて、それで初めて目の前に料理という形で現れるのだといい、この流れの中で、全員の扱いが良くないと質の良い魚は出せないのだというのです。世界のセレブを魅了する日本の魚食は、多くの人が連携をして初めて成り立つものなのだと著者は語るのです。しかし実際の魚ビジネスの状況は、横軸では養殖推進者と漁業関係者が互いに批判し合ったり、縦軸では漁師と仲買の喧嘩が絶えなかったりしており、このような状況ではネガティブな情報が世に溢れ、魚の魅力がなくなってしまうのだといいます。今、日本の魚ビジネス全体で大事なのは、皆で一丸となることだと著者は断言しています。さらには、そこに水産以外の様々なプロの方々にも加わっていただき、オールジャパンで日本の魚の魅力を高め続けていくことが大切になってくるでしょうと締め括るのです。 日本酒にも、大手NBのパック酒を代表とする「大量少品種」の世界と、地方銘酒地酒などの「少量多品種」の世界が存在しています。つまり、大規模に効率的に進めていく部分と、小規模でも価値を高めていく部分の、2つのバランスを図っていくことが、これからの日本酒ビジネスにおいて忘れてはならないことであるといえるでしょう。そして、世界のセレブに日本酒を飲み続けてもらうために、「多くの人の力を集結する」、そして「みんな仲良く」ということが必要であるといえます。日本酒の魅力を、魚と同様に横軸と縦軸で説明すれば、横軸は様々な地域ブランドや銘柄、酒質タイプや製法や季節商品などのバリエーションであり、縦軸は国分や日本酒類販売などの大手食品問屋や、「日本名門酒会」などの地酒流通のサプライチェーンであるといえるでしょう。そして、世界のセレブを魅了する日本酒の世界も、多くの人が連携をして初めて成り立つものなのです。しかし、実際の日本酒ビジネスの状況は、大手NB銘柄と地方地酒が批判し合ったり、大手食品問屋のサプライチェーンと地酒流通のサプライチェーンが争い合ったりという状況が存在しており、このままではネガティブな情報が世に溢れ、日本酒の魅力がなくなってしまいかねません。やはり、今、日本酒ビジネス全体で大事なのは、皆で一丸となることです。まずは皆で一丸となり、さらにはそこに業界外の様々なプロの方々にも加わっていただき、オールジャパンで日本酒の魅力を高め続けていくことが大切になってくるのだといえるでしょう。