【門前編】「共鳴価値」「集団的知性」による価値創造と日本名門酒会!<後編>

First part of the gate

【門前編】「共鳴価値」「集団的知性」による価値創造と日本名門酒会!<後編> 今回は、令和6年9月3日(火)に開催された、「モノづくり日本会議」主催の「『共鳴価値』『集団的知性』による価値創造~サプライチェーン全体でいかに価値創造・市場創造を成し遂げるか~」セミナーについて、前回の続きの「後編」をご紹介させていただきましょう。このセミナーは、小阪裕司先生から依頼を受けたもので、日本名門酒会本部・株式会社岡永さんの飯田社長さん(卸)と、メーカーの私(製)と、日本名門酒会加盟酒販店である(株)朝日山千葉悦三商店さんの千葉社長さん(販)と、小阪先生と4人で講演を担当させていただきました。 【無関心な人をいかに動機づけるか?】 小阪先生の基調講演と飯田社長さんの講演の後は、休憩タイムをはさんで、私(竹村)の講演でした。タイトルは「メーカーは、あらゆるネタをソソる価値に変換して、サプライチェーンに伝え続けよう!」というもの。まずツカミとして、以前にもご紹介させていただいた、「『日本酒?ウィスキーですか?』の衝撃!」というトピックからお話させていただきました。あらためてかいつまんでお伝えしますと、昨年東京の某有名ホテルで開催された大懇親会にて、ホテルの若い女性スタッフに「日本酒はありますか?」と訊ねたところ、「日本酒?ウィスキーですか?」という衝撃的な返事が返ってきたのです。その女性は、もちろんアルバイトかもしれませんが、衝撃的なのはその女性にとっては「日本酒」という言葉が何を意味するか分からなかったという事実です。もしかしたら私たち業界全体が、根本的に考え方をあらためなければならないのかもしれません。これまで私たちは、「日本酒はくさい」「日本酒はオヤジの飲み物」というような、マイナスイメージの払拭に尽力してきましたが、これは「嫌い」を「好き」に変換しようとする戦略であり、実は「嫌い」を「好き」に変換させることは比較的容易なのです。ところが、「日本酒」という言葉の意味すら分からない人というのは、別に日本酒が「嫌い」なわけではない、しかし「好き」でもない。ならばどう思っているかといえば、何とも思っていない…つまり「無関心」ということなのです。この「無関心」な人の増加が、日本酒の減少が止まらない根本原因だとするならば、私たち業界人は皆、根本的に考え方をあらためなければならない、ということになるわけです。 ならば、無関心な人をいかに動機づけるか?ということになるのですが、ここで小阪先生の言葉を挙げさせていただきました。それは、「モノにフォーカス→ヒトにフォーカス」という言葉で、つまり私たちは、日本酒という「モノ」ばかりにフォーカスしてき過ぎたということです。これからの時代、ますます日本酒という「モノ」自体に無関心な人が増加するということは、「モノ」にフォーカスした伝え方ではまったく響かないということでしょう。「モノ」へのこだわりや様々なストーリーをそのまま伝えるのではなく、それらを「ヒト」にフォーカスした言葉に変換して伝えなければならない、ということなのです。さらに、無関心な人をいかに動機づけるか?の2つ目の小阪先生の言葉は、「『売る』→お客様に『買いたい!』と思ってもらう!」です。あらためるべき考え方は、自分が感じる価値をそのまま伝えてモノを「売ろう」とするということで、商売やビジネスをその本質から捉え直せば、「ヒト」にフォーカスすべきであり、「自分自身が感じる価値」ではなく、「お客様が感じる価値」という視点に切り替えなければならないのです。さらに、お客様に「売る」ではなく、お客様に「買いたい」と思ってもらうということです。つまり、タイトルの「あらゆるネタをソソる価値に変換する」とは、伝えるべき「モノ」の価値を、自分視点ではなくお客様視点で捉え直して伝え、お客様に「売ろう」とするのではなく、お客様に「買いたい」という気持ちが起こるように働きかけるということなのです。 【「あらゆるネタをソソる価値に変換して伝え続ける」の意味】 さて、「日本名門酒会」は業界唯一の「価値創造型サプライチェーン」であり、名門酒会本部も、日本酒のあらゆるネタをソソる価値に変換して伝える企画を、大量に準備しています。例えば、その代表的な活動である「立春朝搾り」は、令和6年は全国35都道府県43ヶ所の蔵元で実施され、約27万本(720ml)を出荷するという大人気イベントとなっています。これは、全国の蔵元(メーカー)・名門酒会本部(大卸)・支部(地方卸)・加盟店(小売店)が一丸となって、「立春朝搾り」を造り、製品化し、神事をし、出荷し、お客様に届けるというイベントです。もともと立春に日本酒を飲む習慣など無かったはずですが、なぜ売れたのかといえば、つまり、旧来1年の始まりであった立春の日に「無病息災」等の神事を行ってその日のうちに届く縁起の良い酒という、お客様視点の価値に変換して伝え、お客様に「買いたい!」という気持ちが起こるように一丸となって働きかけたからだということなのです。 しかし、メーカーはただ待っているだけではダメなのです。どれだけ素晴らしい「価値創造型サプライチェーン」が構築されていたとしても……たとえば「日本名門酒会」でしたら、全国に日本酒蔵元だけで約100社も加盟銘柄があるのです。最も古くからの蔵元である司牡丹は、飽きられてしまう可能性もあるのですから、絶対に飽きさせない、たとえ飽きられたとしても、もう一度惚れ直させるというくらいの覚悟が必要になります。つまり、それこそが、「あらゆるネタをソソる価値に変換して伝え続ける」という言葉の意味なのです。この言葉を実践し続けているお陰で、名門酒会本部からも「司牡丹さんはネタが豊富でありがたい!」の声が、よく聞こえてきます。ちなみに、司牡丹酒造のサプライチェーンへの情報発信は、「司牡丹時報(ボタンタイムス)」(隔月刊)というアナログ情報紙がメインに使われています。毎月上旬に全国の支部(地方卸)・加盟店(小売店)、およびメーカーにも届けられる、名門酒会本部制作の「日本名門酒会・情報誌」に、チラシ等が割安で同封できますから、ここに同封させていただいているわけです。他メーカーの方々は、大半が新商品チラシ等の封入のみですが、司牡丹はあらゆるネタをソソる価値に変換して伝え続ける、隔月刊情報紙「司牡丹時報」を同封しているというわけです。A3判1枚(2ツ折り)で、主に表は竹村の「提言」、裏は「商品情報」という構成で、加盟店の皆様への情報発信を名門酒会本部だけに頼らず、本部や加盟店が「売ってくれない!」などと文句を言うヒマがあるなら、本部や加盟店に「売りたい!」と思わせる、そのための情報紙なのです。 【「あらゆるネタをソソる価値に変換して伝え続ける」の事例】 続いては、「あらゆるネタをソソる価値に変換して伝え続ける」の事例について、いろいろ紹介させていただきました。たとえば、「平成22年1月よりNHK大河ドラマ『龍馬伝』放送開始」という「ネタ」でしたら、たとえ龍馬ブームが起きたところで司牡丹を買う理由にはならないわけですから、仕掛けなければ売上には繋がりません。ですから、「司牡丹時報」にまずは「龍馬といえば司牡丹!」と掲載し、次に「なぜ司牡丹は龍馬が飲んだ酒と言われるのか?」(「竜馬がゆく」提案)と掲載したり、さらに「龍馬コーナーコンテスト」(優秀店に鰹のタタキをプレゼント!)を提案し、「優秀店」を発表したり…等々。さらにさらに、私(竹村)が龍馬コスプレで全国行脚したりと、やれることは全てやって、その結果として上々の成果が上がったということなのです。 また、他にも「あらゆるネタをソソる価値に変換して伝え続ける」の事例をいろいろ紹介させていただきましたが、成果が上がった事例だけではなく、ほとんど成果が上がらなかった事例なども紹介させていただきました。たとえば、平成24年は「植物学者牧野富太郎博士生誕150年」ということで、「司牡丹時報」<平成24年4月号>にて、「牧野博士の実家の酒蔵を引き継いだ司牡丹から『ハナトコイシテ』(特別純米酒)新発売!」と提案させていただきましたが、成果はほとんど上がりませんでした。しかし、種を蒔かなければ芽も、花も、実もないのですから、たとえ成果は上がらずとも、それは「失敗」ではないのです。ネタはいくらでもあります。なければ探して創ればいいのです。そして種を蒔いても、芽が出るのはごく一部というのは当たり前の話で、しかもたとえ成果は上がらずとも、それは決して「失敗」ではないという意味は、後々「成功」に繋がることもあるという意味でもあります。たとえば前出の「成果×」の「ハナトコイシテ」(H24)を一つのきっかけとして、平成30年に「『朝ドラに牧野富太郎を』の会」が発足し、約3年の活動で署名4万筆を集めNHKに提出することになり、さらに令和2年に友人バーテンダーの依頼で高知県初のクラフトジン「マキノジン」蒸留を快諾し、令和4年2月17日に「マキノジン」の発売が決定したのですが、そのちょっと前の2月2日に、「朝ドラに牧野富太郎が決定!」(令和5年前期「らんまん」)という報が流れたのです。これにより、それまで鳴かず飛ばずだった「ハナトコイシテ」を含め、「マキノジン」等の牧野博士関連商品が大ヒットし、コロナ禍からのV字回復に繋がったのです。周りの方々からは、「ラッキーだったね!」と言われましたが、これは果たして「ラッキー」だけのことだったのでしょうか?? その後は、最新ネタとして、日本名門酒会加盟酒販店を対象に、名門酒会本部と共に仕掛けた「司牡丹・百花展」(令和6年6月13日東京開催・7月17日大阪開催)について、紹介させていただきました。このイベントは間違いなく、「価値創造型サプライチェーン」である「日本名門酒会」だからこそ実現できたイベントであったといえるでしょう。内容は、2つのセミナーと意見交換会と、「司牡丹・大試飲会」(司牡丹主力商品全35アイテムが試飲可能)というなかなか豪華な内容で、大好評を博しました。「司牡丹大試飲会」では、全商品に「価値メッセージ」を記載したPOPを付け、さらにその「価値メッセージ」を記載した「商品リスト」も、参加者全員に配布させていただきました。たとえば、こんな感じです。

●「司牡丹・土佐宇宙深海酒」(純米吟醸酒):宇宙も深海も旅した酵母で仕込んだ世界初の宇宙深海酒!宇宙のように果てしない香り、深海のように深い味わい!

●「船中八策」(超辛口・純米酒):司牡丹不動の人気№1!口中でうま味が膨らみ、後口は抜群にキレる!新鮮魚介の美味しさを引き出す効果は絶大!

●「金凰司牡丹」(本醸造酒):地元高知で普通に出回る大定番のこの酒は、かの吉田類さんが「無人島に持って行きたい一本」に選んだ美味しさ!

【未来への布石!】 最後に、「未来への布石!『NPO法人土佐伝統お座敷文化を守る会』設立!」というお話をさせていただきました。このNPO法人「土佐伝統お座敷文化を守る会」(竹村昭彦理事長)の「MISSION(使命)」は、「『土佐伝統お座敷文化』の力で、飲める者も飲めない者もみんな『なかま』になれる『宴のユートピア』を土佐の高知に実現する。」です。日本酒というモノだけでは、日本酒の本当の価値が伝えきれないまま、未来にはますます衰退していくだけになってしまいます。しかし、地酒本来の価値は「地域性」であり、土佐の高知の一番のウリは、「食が美味しい!酒が旨い!人が明るい!そして世界一宴が楽しい酒国土佐!」なのです。コロナ禍を経て絶滅危惧となりつつある、この土佐の伝統的な「食」と「酒」と「人」と「宴」のそれぞれを現代化し、さらにそれらを融合化することができれば、大復活することになるでしょうし、さらに国内外からの観光客にとっても、他にはない最大の魅力となるはずなのです。そうなれば、土佐の高知がサン・セバスチャンを超える日も夢ではないということになるわけです。そして、近未来の日本名門酒会は、全国各地の日本酒というモノのみならず、地域ならではの酒文化、地域ならではの食文化、地域ならではの県民性、地域ならではの宴文化……等も含んだカタチで、より一層進化した価値創造型サプライチェーンへと変貌していくと、私は想像しています。その時、NPO法人「土佐伝統お座敷文化を守る会」の活動や実践が、きっと極めて役立つことになるはずで、ならば、未来の日本名門酒会においても、司牡丹はメイン銘柄であり続けるだろうということなのです。だいたいこんなお話をさせていただき、私の講演は終了しました。 【(株)朝日山千葉悦三商店の「価値創造」「市場創造」「共鳴価値」「集団的知性」】 続いては、日本名門酒会加盟酒販店の(株)朝日山千葉悦三商店の千葉社長さんの、30分の講演でした。千葉社長さんは、慣れない講演にちょっと緊張しながらも、まずは①価値の創造、②市場の創造、③共鳴価値、④集団的知性において、消費者との接点である当店が実践していることを発表させていただきますと、語り始めました。まず自己紹介で、埼玉県川口市で、家族3人(千葉社長さん、奥さん、息子さん)で経営されている酒屋さんで、昭和11年創業の老舗であり、息子さんは四代目になるということでした。続いて、10坪ほどのお店の外観や店内などを紹介し、特にPOPには力を入れているとして、何点かのPOPを紹介されたのです。 <蔵元さんの思いを表現したPOP例>

「司牡丹の知る人ぞ知る銘酒司牡丹の選抜販売店限定酒」

華やかな香り。柔らかな美味しさがじんわりと口の中で広がります。いろんな方に飲んでもらいたい、司牡丹の選抜販売店限定酒。「このお酒を口にされた方の前途が明るく拓けていきますように」との願いが込められた限定酒です。
一蕾(ひとつぼみ)純米吟醸酒 <私(千葉社長さん)たちの感想を表現したPOP例>

「私が毎日のように飲んでいるお酒」ほっ!とするんです。なんか落ち着く。
壱乃越州 <味わいや生産者さんの背景を表現したPOP例>

「美味しいリンゴ!?そう、まるで“ふじりんご”みたいなんす。美味~!」 それに洋梨や白桃のフレーバーがあり、ほんのりアンズがただよってきます。KAZUさんこと藤巻一臣さんがスペインでつくりあげた美味しいスパークリングワインです。 KAZU WINEサルサ・スカッシュ

そして、こんな感じのPOPをつくるには、情報の収集が不可欠だと語ります。そのためには、毎月届く日本名門酒会の情報誌や、そこに封入されている資料や、司牡丹さんの「ボタンタイムス」等を読み込むことが重要なのだといいます。特に、「一年52週の生活提案・基本シート」<「前編」の「図4」参照>は、いま何を準備して、いま何を仕掛けて、いま何を提案すべき等について、俯瞰的に眺めて理解できるため、とても大切で有り難いシートなのだというのです。これらの情報収集や「基本シート」等によって、POPやDMやニューズレターやイベント開催……等々、しっかりしたものが出来上がるのだといいます。このことを千葉社長さんは、小阪先生のいう「価値創造」なのではないかと思っていますと語るのです。 続いて千葉社長さんは、毎年2月に高知に行っていますと、話題を切り替えます。それはもちろん、司牡丹の「立春朝搾り」のためです、と。そして、高知では必ず、絶品の鰹のタタキをいただくのだといいます。ちなみに、当店にとって「立春朝搾り」の取り組みはゼロからのスタートであったため、当初は結構大変でしたが、今では大きな売上の商品(150本)になっているのだと。これは当店にとって、当店の商圏にとっては、「市場創造」といえるのだと語るのです。また、ある時お客様から、「お酒だけじゃなく、カツオも食べたい!」という声が挙がり、「司牡丹・立春朝搾り・鰹のたたきセット」を企画したところ大好評となり、いまでは年に3回、司牡丹商品と鰹のたたきセットを販売しており、人気セット商材になっているのだといいます。お次は、その他の取り組みについて、店内にて様々なテーマで、いろんな試飲会やイベント等を度々開催しており、いまではさほど集客に苦労することもなく、お客様に集まっていただけるのは、当店の活動にお客様が共鳴してくださったからで、これが「共鳴価値」だと思うと語るのです。 続いて千葉社長さんは、小阪先生が主宰する「ワクワク系マーケティング実践会」の「さいたま勉強の場」の幹事を担当しているのだといいます。この場は、写真屋やギフト店や干し芋農家等々、まったく業種の違う経営者の方々がズラリなのだとか。そんなみんなで、最近取り組んだ事例の発表や、それらに対する意見交換や、悩み事の相談等々があり、とにかく皆さん、帰る頃には目がキラキラ輝いているのだといいます。この場が、千葉社長さんたちにとっては、「集団的知性」の場になっているのだというのです。日本名門酒会でも、令和6年7月から、こうした場をつくる活動をスタートされたということで、嬉しいかぎりですと語っています。そして最後に、生産者、卸問屋、小売店、仲間らで相互に関係し合って、価値をともに創り上げていきましょうと力強く宣言し、締め括られたのです。 そして最後に小阪先生から、簡単な総括がありました。3名の方々が、それぞれの立場からともに語られた「立春朝搾り」の事例は、まさに「価値のバトン」が繋がっていく典型例であり、これこそ美しいビジネスの世界であり、そしてそれは間違いなく、あらゆる業種、あらゆる業界に「還流」していくだろうと、小阪先生は語ります。そんな「還流」の事例を山ほど目の当たりにしてきたのだと。つまりそれは、理想論でも何でもなく、まごうことなき現実であると力強く語り、総括とされます。会場には、割れんばかりの拍手が鳴り響き、「『共鳴価値』『集団的知性』による価値創造~サプライチェーン全体でいかに価値創造・市場創造を成し遂げるか~」セミナーはお開きとなったのです。講師の1人として参加させていただいた私も、あらためて大きな学びを得ることができました。小阪先生、飯田社長、千葉社長、「モノづくり日本会議」の皆さん、そしてご聴講いただきました皆さん、本当にありがとうございました。