【門前編】小阪裕司先生の「顧客の数だけ、見ればいい」解説<前編>

First part of the gate

【門前編】小阪裕司先生の「顧客の数だけ、見ればいい」解説<前編> 今回は、前回ご紹介したセミナーにて基調講演を担当された小阪裕司先生の最新の著書、「顧客の数だけ、見ればいい~明日の不安から解放される、たった一つの経営指標~」(小阪裕司著 PHP研究所 2024年10月31日発行 本体1,650円)をご紹介させていただきたいと思います。前回の続編的な内容といえるでしょうか。今回は、その「前編」です。 【あなたがこれから解放される「5つの不安」】 まず、本書の第1章にて小阪先生は、様々な具体的事例を挙げて、経営者が抱える「5つの不安」を紹介し、それらからの解放について語っています。 ①「明日の売上」からの解放 「売上」ほど不安定なものはないと小阪先生は語ります。今現在は順調でも、いつ何時、売上が「消滅」してしまうかは、誰にも分からないのだと。そうなると、我々にできることは一つだけで、それは「何が起きても脆くならない経営にシフトしておく」ことなのだといいます。そして、その基盤になるもの、それこそが「顧客の数」なのだというのです。コロナ禍により売上が「消滅」してしまった、大阪のバー「キース」の山本さんは、「予約のみのおつまみなどのテイクアウト」、「高級ウイスキー試飲チケット販売」、「近隣顧客への宅配サービス」等々、様々な施策を行ったのだといいます。そして、他の多くの飲食店のテイクアウトが思ったように売れない中、「キース」には爆発的に注文が入ったのだというのです。山本さんがなぜ、明日の売上を心配しなくてよくなったのかといえば、「十分な顧客がいるので、いざとなっても売上を作ることができる」からなのだと、小阪先生は語ります。もちろん、それができるのは日ごろから顧客数を増やすことを意識し、SNSなどで積極的に顧客とコミュニケーションを図っていたからこそなのだと。売上だけを指標にしていたら、いつまで経っても時代に振り回されるのに対して、「顧客」を指標にすれば、どんな時代になっても乗り切れるという自信も手に入れることができるのだと、小阪先生は語るのです。 ②「前年比」からの解放 「売上前年比アップ」を目標にしてしまうと、「無茶な押し込み販売」、「利益度外視のセール」、「来期の売上の前倒し」……そんな誘惑に抗うことはできるでしょうかと、小阪先生は指摘します。こうした施策は短期的に売上が上がっても、長期的に見ればむしろマイナスになる可能性のほうが高いものなのだと。では、「利益」を目指すのはというと、これも問題があるのだといいます。利益とは、「売上-コスト=利益」で導き出されますから、利益を上げたければ「売上を増やす」とともに「比例費を減らす」「固定費を減らす」など、様々な方法があり、そして難しいのが、売上とコストは常に二律背反になりがちだということだと語るのです。そして、その整合性を取るために、様々な経営指標(KPI)が設定されますが、カギが多すぎて、どのカギがどのカギ穴に合うのか分からない、といった状態に陥ってしまっているのだといいます。しかし、たった一つだけ、確実に二律背反にならない要素があるのだと小阪先生は指摘します。それが「顧客数」なのだと。仙台市の「ホンダカーズ仙台北」は、「顧客の数を増やしていくこと」に注力することに、発想を大きく変えたのだといいます。具体的には、新車販売よりも「メンテナンス」に力を入れるようにし、これなら新車が売れなくても「顧客」は増えていくのだと。すべての施策を「いかに多く新車を売るか」から「いかに顧客を増やすか」にシフトし、そのために店舗も、「いかに多くの車を陳列するか」でなく、「いかに居心地の良い空間を作るか」にチェンジ、販売店を2ヶ所に集約するとともに、面積を確保するためにあえて郊外に移転、隣接した土地も取得し、カフェを作って人を呼び込むこともしたのだというのです。その結果、新車が売れようが売れまいが、安定的に売上を上げることができるようになり、売上のほうも結果的に前年比111.8%を実現したのだというのです。これは、あくまで「顧客のためになることを考えていたら、結果的に前年比アップしていた」ということであり、「前年比アップを目指している」わけではありません。「成長を目指す」のではなく、「顧客の数を増やそう」と考えていたら、結果的に「成長しちゃった」…これこそが理想の形なのではないかと小阪先生は語るのです。 ③「忙しさ」からの解放 明日の売上が見えないと、我々はどうするかというと、一番単純な答えが「もっと働く」なのだといいます。しかし、人件費を考えたら儲からなかったり、何より自身や社員が疲弊してしまうのだと、小阪先生は指摘するのです。「以前はくたくたになるまで仕事をしていた」と語る、新潟県五泉市にある食品スーパー「エスマート」の鈴木さんは、「顧客の数」だけを見るビジネスの世界に気がつき、やり方を180度変えたのだといいます。そのやり方でビジネスを営み、しばらく経ったころ、まず朝7時30分からだった営業時間を9時からに短縮し、さらに年中無休だったところを毎週水曜定休にしたのだそうです。なぜそれができたのかというと、そのころにはすでに、「エスマート」には確実な「顧客数」があったからだといいます。同店の店内には、鈴木さんが目利きした品が並び、あちこちに読むだけで楽しいPOPが貼られ、そして行くたびに新しい情報に出合え、店内には楽しそうなおしゃべりの声や笑い声が絶えないのだというのです。結果、営業時間を減らすことで売上が減るどころか、むしろ伸びたのだといいます。小阪先生は、単なる「客」と「顧客」は違い、「客数」を増やしたかったら営業時間を延ばせばいいのですが、「顧客」を増やすためには、実は営業時間は関係ないのだと語り、一定以上の「顧客数」があれば、営業時間を増やす必要はない、むしろ減らしても問題ないのだと語るのです。 ④「常識」からの解放 東京都北区にある定食店「赤羽定食屋農のう」店長の宮地さんは、開業の際に「この町では、1,000円以上の定食は売れないよ」と何人もの人に言われたのだそうです。しかし、「別の世界」を知った宮地さんは、価格を上げるというよりも「価格帯を広げる」という意識で、1,000円を大きく超える旬の食材を使った高級ランチを用意したのだといいます。すると、ほとんどのお客さんが、価格が高い旬の新メニューを選んだのだというのです。当然のことながら、単価が上がり、売上も利益も向上したのだそう。小阪先生は、こういう「常識」は、およそ全ての業界にあるでしょうし、その全てが間違っていると言いたいわけではないのですが、「別の世界」があることもまた、早く知ってほしいと思うと語っています。 ⑤「パーパス」からの解放 「パーパス」とは、経営理念のことであり、「企業の存在意義」などと解説されることが多いようで、企業にとってパーパスは不可欠なものだということについては、小阪先生も異存はないのだといいます。しかし、中小企業の二代目、三代目の半分以上は、実は仕方なく家業を継いでいるのだそうで、そんな彼らにとって「パーパスなんて言われても……」というのが正直なところなのだというのです。そうした相談を受けた際の小阪先生の返事は毎回同じで、「最初から立派なパーパスなんて作らなくていいから、とりあえず働いて、顧客数を増やしていこう。そうしたら、あとは顧客が教えてくれる。」というものなのだといいます。自分たちがお客さんに価値ある提案をする。すると、お客さんに喜んでもらえることが増え、感謝の言葉もいただけるようになる。その感謝の言葉がもっと聞きたくなって、さらにお客さんに価値ある提案を繰り返す。そうしているうちに、「そうか、世の中ではこんなことが求められているのか」、「自分の会社は、こういうことでお客さんに喜ばれる会社になっていくのがいいのかも」……ということが見えてくる。さらに、それに応えるためには何をしたらいいかも見えてくる。そして、いつの間にかそれが「パーパス」となっている。……このような流れでパーパスは見出されるのだと、小阪先生は語るのです。 【顧客数と売上は完全比例する】 「本当に『顧客の数だけ』見ていれば、様々な不安から解放され、売上は上がり、利益も安定するのか」と聞かれたら、小阪先生はいつも、滋賀県にある化粧品販売店「ビューティーケアつかもと」の話をするのだそうです。この店が顧客数を意識的に指標にしたのは2003年のことだといいます。それまでも既存客を重視し、リピート客を「会員」として名簿を管理し、会員にはほぼ毎月DMを出していた同店でしたが、2003年からは顧客を増やす活動にシフト。DMを、それまでの商品が中心のものから顧客作りのためのものに変え、新規客お帰り後のアプローチやイベントのあり方なども変更。さらには、より来店客がゆったり買い物できるよう商品棚を減らして接客スペースを広く取るよう改装するなど、一貫して顧客の数を増やすためのものにしていったのだそうです。その結果、「ビューティーケアつかもとの売上と顧客数の推移」(2002~2023)は、顧客数と売上が完全に比例していることが分かるのだといいます。顧客数はほぼ右肩上がりで、当初の約1,700人が今では約3,900人と倍以上になり、そして売上自体もそれに完全に一致する形で右肩上がりになり、しかも顧客の年間購入額も上がっているので、顧客数以上に売上が上昇していることが分かるのだと。コロナ禍の際にはさすがに減少していますが、それでもたった4%の減というのは、驚くべき数字と言えます。「ビューティーケアつかもと」は、全ての施策を「顧客に喜んでもらえるか」「顧客の数が増えるか」に狙いを定めてきましたが、しかしその施策は、あっと驚くようなことでなく、最新のITを駆使するようなものでもなく、どんなお店・会社でもできるようなことばかりなのだと、小阪先生は強調します。そして、大事なことは「何をやるか」の前に、「何を指標として見るか」なのだと語るのです。 そして、ここで大前提として、「顧客」という言葉について、より具体的には、「顧客とは誰か」ということについて、小阪先生は語ります。まず、一度でも自社の商品を買ってくれた人、サービスを受けてくれた人を、小阪先生は「お客」と定義します。その後、二度三度と買ってくれた人は「リピーター」になります。小阪先生のいう「顧客」とは、その先の概念であり、リピート購入=顧客ではなく、その相手を「顧客」と呼ぶためには、もっと重要で決定的な要素があるのだといい、それは、その相手の「心の在りよう」なのだというのです。それは、主に以下の三つの「在りよう」から成り立っているのだといいます。①愛着を持っている。②信頼を寄せている。③共感を抱いている。……この三つの「心の在りよう」をまとめて「絆」といい、この「心の在りよう」を持った顧客を、小阪先生は普段「絆顧客」と呼んでいますが、本書では「顧客」という言葉に統一しているのだとか。「顧客」とは、「その店に愛着と信頼と共感を持っている」から、もし近くに別の店ができてもあえてその店で買おうとするし、口コミで広めてくれたりもする人のことを指し、言い換えると「ファン」となるでしょうと、小阪先生は語っています。そして、遠方からの顧客が8割以上を占めている飲食店の事例などを挙げ、「顧客」の存在は、場所や時間の制約をも超えるのだと語るのです。 【その時、ビジネスはごく単純な「掛け算」になる】 売上とは、一般的には「売上=客数×販売数量×単価」という式にて構成されており、この三つすべてを伸ばすことができればベストなのですが、客数と販売数量と単価は、しばしば反比例となるのだといいます。客数を増やそうと安売りセールを行うと単価は下がり、「まとめ買い」キャンペーンで販売数量を増やそうとすると単価は下がり、かつ長期的に見れば来店頻度が減り客数の増加も期待できませんし、逆に単価を上げようと高額商品ばかりを揃えると安さを求める客は減ってしまいます。「どこかを上げれば、どこかが下がる」状態なのです。しかし、ここで「客数」を「顧客数」にすると、この式にもある変化が起こるのだといいます。「顧客数↑×販売数量↑×単価↑=売上↑」……このような式が成り立つようになるのだというのです。まず、顧客数を増やすと、販売数量もまた、確実に上がっていきます。ある店や会社に愛着や信頼や共感を持った顧客は、まず、その店や会社を繰り返し利用するようになりますし、コミュニケーションを取ろうとするのだそう。すると、次第に来店頻度は増え、接触回数も増えます。そこに、いわゆる「単純接触効果」がはたらき、一層ロイヤリティが高まり、利用が増えるといい循環が起こります。それに応じて販売数量(飲食店のような業種なら来店回数)が増えていく、ということです。ちなみに、「単純接触効果」とは、ある対象に繰り返し接触することによって、その対象への警戒心が薄れていき、好感度や親近感が増すとされるものだといいます。もちろん、じっと待っていてこういう状況が生まれるわけではなく、「ビューティーケアつかもと」の場合、たとえば化粧品は基本、使い切らないと次のニーズが発生しませんが、それを待つのではなく、お手入れ方法のアドバイスやメイクのレッスンイベントなどを開くことで、来店頻度を増やす仕組みを作っているのだそう。店舗を改装し、商品を置くスペースを削減し、かわりに座り心地のいい椅子とカウンターを整備したのも、「また行きたい」と思ってもらうための施策なのだというのです。「顧客数」を指標にしてビジネスを営む店や会社は、お客さんが行動してくれるのを「待つ」ことはしませんが、また逆に、「売り込む」こともしないのだといいます。だから顧客は安心して「ふらっと立ち寄る」ことができるのだといい、そういう活動が、結果として販売数量を押し上げていくのだと、小阪先生は語るのです。 さらにもう一つ、この現象を説明するのが「貢献実感」という概念なのだといいます。人は、ある店や企業に愛着や信頼、共感を抱くと、その店や企業に貢献したくなるため、他店より高くてもその店で買い続けたり、より高額な商品や多様な商品を買ってくれるようになるのだというのです。つまり、顧客は自分の気に入っている会社や店が発展するためならば身銭を切ってもいい、と考えているのだと。かみ砕いていえば、顧客は「あなたから買いたい」と思う人から買いたい、そしてそれは、顧客にとっての喜びだということですと、小阪先生は語っています。また、顧客数を増やすと単価も上がりますが、この現象を説明するのが「共鳴価値」という概念なのだというのです。「共鳴価値」とは、顧客と企業やお店、ブランドや商品・サービスとの間に生まれる感情的な共感を意味し、往々にして、驚きや感心、感動を伴って受け入れられる価値であり、それまで意識していなかったものの、そこに共鳴できる価値観を感じられたとき、共鳴価値が生まれるのだといいます。では、共鳴価値がなぜ単価を上げるのかというと、それは、人が会社や店、商品やサービスに対して強い共鳴価値を感じると、「高い・安い」がなくなるからだというのです。より価値の高いものを考え、生み出し、その価値にふさわしい価格をつけて提供していくと、顧客もまた、「驚きや感心、感動を伴って」それを受け入れていく……この循環が単価を上げていくのだと、小阪先生は語っています。 さらに小阪先生は、顧客数が増えると、生産性も上がるのだといいます。「生産性」の向上とは、「生産性向上=付加価値の向上、革新ビジネスの創出/効率の向上」で表されるのだそう。この式の分母は「効率の向上」で、生産性の向上が叫ばれる時、常に出てくる課題ですが、しかし、たとえば店休日を増やし総営業時間が短くなっているのに売上が上がっている「エスマート」の鈴木さんは、効率の向上を図ったわけではありません。式の分子に「付加価値の向上」とありますが、これは「提供するサービスの価値を増大させる(売上向上)」とされており、鈴木さんが実現したのは、まさにここなのだと。そして、それを支えているのは「顧客の数」であり、だから「顧客」が増えると、生産性が上がるのだというのです。さらに小阪先生は、顧客が増えると、顧客が増えるのだといいます。ある会社や商品、店に愛着と信頼、共感を抱いた人は、それを誰かに薦めたくなるのだと。そして口コミやSNSなどの様々な方法で、実際に広めようとしてくれるのだというのです。なので、顧客が増えれば増えるほど、特別な努力をしなくても新しいお客さんが常にやってくる状況になるのだといいます。そして、そのうちの何割かの人が「顧客」になっていく。これが、「顧客が増えると、顧客が増える」からくりだと語るのです。 ここで、多くの人を悩ませていた二律背反の問題がクリアされますと、小阪先生は語ります。顧客数を増やすと、販売数量が上がる。顧客数を増やすと、単価が上がる。顧客数を増やすと、顧客が増える。つまり、「顧客を増やすと、確実に売上が上がる」ということになるのですと、小阪先生は断言するのです。 【なぜ、「顧客数」こそが最強のKPIなのか?】 顧客数「だけ」を見ることのもう一つの意味、それは「明日の心配がなくなる」ということだと小阪先生は語ります。コロナ禍のように、売上は突然消え去ってしまうことがあり、原価高騰のように、利益も急速に消え去ってしまうことがありますが、しかし「顧客」は、そう簡単には消え去りはしないのだと。コロナ禍や原価高騰のような危機は、今後も何度も訪れることになるでしょうが、顧客だけは、そうそう変わらないのだといいます。顧客=単なるリピーターではないがゆえに、1,000人の顧客が来年、急に1人になってしまうようなことは、まずありませんと語り、そして売上や利益が消え去ってしまった時、助けてくれるのが「顧客」なのだと断言するのです。また、「人的資本経営」という言葉が広く使われるようになり、社員の能力や経験は企業にとっての資産であるという発想は、広く受け入れられつつありますが、小阪先生に言わせれば、「顧客」もまた、企業にとって非常に大切な人的資本なのだといいます。そして、決算書には表示されませんが、顧客数こそ、企業にとって一番安定した資産なのだというのです。さらに小阪先生は、顧客数の重要性を表現する際、「フロー」と「ストック」という概念を使うのだといいます。水道から出ている水が「フロー」であり、それをバスタブに貯めたものが「ストック」だと考えてくださいと。通常時なら、水道の水はいくらでも使うことができますが、しかし、何らかの理由で水道が止まってしまったらどうなるでしょうと、小阪先生は問いかけます。一見客だけに頼るビジネスはまさに「水道の水」と同じで、水道が機能しているうちはいいのですが、水が止まってしまうと、ビジネス自体が立ちいかなくなってしまいます。だからこそ、水道の水をストックとしてバスタブに貯めておくべきだと、小阪先生は主張するのです。そして、顧客数の大きさは、あなたが持っているバスタブの大きさといえると小阪先生は語り、さらに、それは利益の源泉であるとともに、何かあった場合、あなたを救ってくれる存在でもあると語っています。 【「うちのビジネスには顧客数とか関係ない」という人へ】 「顧客数を増やすという考え方はあくまでBtoCの世界の話で、BtoBのドライな世界では通用しない」と考える人は数多くいるでしょうと小阪先生は語ります。特にメーカーは、作ったものを直接ではなく代理店や卸、小売りを使って販売することが多いため、顧客情報が取りづらいという問題もあるでしょう、と。しかしそれでも、BtoBの世界も同じなのだと強く訴えます。たとえば、石川県の紙問屋である浜田紙業は、同業者が県内にも全国にも多数あり、主な取り扱い商品が大手メーカー品で、しかもティッシュなどの紙製品であるにもかかわらず、県外の顧客も多数存在しているのだというのです。その理由は決して、「価格が安いから」ではなく、同社が2021年以降「顧客の数」を見てビジネスに取り組み始め、取引先との関係を極めて良好にしているからなのだといいます。ありがちな無理な値引き要求も、納期要求もなく、右肩上がりを続けているのだそうです。さらに、同様のことはFCチェーン店であっても起こっているのだといいます。どんなビジネスでも、買っているのは「人間」であり、だからこそ、どんなビジネスでも同じことは起きるのですと、小阪先生は力強く語るのです。 それでも、「うちには顧客数など関係ない」と語る方に小阪先生は、「それでは、いつまで経っても明日の売上を心配し続けることになりますよ。」と伝えたいのだといいます。確かに、売上の全てが直販でない限り、メーカーが全てのお客さんの情報を入手して、「顧客」にしていくのは不可能です。しかし、顧客リストは手元にないとしても、事実上、顧客にすることができたら?その人たちが一生、自社の製品を買い続けてくれたら?いわゆる「LTV(ライフタイムバリュー)」の発想でいえば、1年に1万円でも、10年で10万円、30年で30万円になるのだと語るのです。メーカーといえども、やはり買ってくれているのは顧客であり、したがって最も大事なものは「顧客の数」なのですから、この事実を視界に置かないというのはあまりにもったいないのだと、小阪先生は強く訴えるのです。 本書を読んで、あらためて日本酒を取り巻く業界は、小阪先生が指摘している「5つの不安」だらけの業界なのだと、つくづく感じました。メーカーも、酒類卸も、酒販店も、さらには飲食店も、「明日の売上」が不安で、「前年比」クリアが不安で、「忙しく」働いているのにあまり儲からないことが不安で、値上げしたら売れなくなるという「常識」が不安で、「経営理念」どころじゃないことが不安で……と感じている方々だらけなのではないでしょうか。そんな業界全体に、この小阪先生の「顧客の数」だけを見るビジネスの世界が普及していけば、そして彼らが「5つの不安」から解放される日が来るならば、長年右肩下がりを続けてきた日本酒業界が、きっと復活の日を迎えるのだと私は確信しています。