【門前編】小阪裕司先生の「顧客の数だけ、見ればいい」解説<中編> 今回は、前回の続きで、小阪裕司先生の最新の著書、「顧客の数だけ、見ればいい~明日の不安から解放される、たった一つの経営指標~」(小阪裕司著 PHP研究所 2024年10月31日発行 本体1,650円)解説の、「中編」をお届けしたいと思います。 【客を捨てれば、「顧客」は増える】
顧客を増やすためにはまず、「あなたにとっての顧客とは誰か」を定義する必要があると小阪先生は語り、それは、いわば「あなただけの顧客を生む」ということだといいます。そしてそのためにはまず、すべきことは「客を捨てる」ことだというのです。「客を捨てる」とは、「すべてのお客さんを対象にはしない」ということ、すべてのお客さんに評価されようとか、好かれようとは考えないということだと語っています。たとえば、「落ち着いた大人のお客さん」に来ていただきたいという場合、それ以外のお客さんにあまり指示されなかったとしても、そこは追わないということだと。そういう意味で、自分たちが「ここ」と思ったお客さん以外は捨てているということですと語るのです。ちなみにこれは、ニッチを狙っていくのではなく、「特定多数」、「特定」の「多数」を対象にするのだというのです。そして、この「特定多数」を対象にする考え方は、「50代男性」のように「ターゲット」を設定するというものでもなく、顧客の「ペルソナ」を設定するという手法でもなく、「仮定」ではなく「実在する」顧客を思い描くのだといいいます。その顧客を「典型的・象徴的な顧客」としてしっかり見つめ、そういう顧客の「数」を増やそうと考えるのだと。だからこそ、施策はより具体的になり、それが次々と顧客の心をつかんでいくのだというのです。つまり、「実在する人」から得られる、強いリアリティを持った顧客像が大切だということですと、小阪先生は語るのです。
では、どうやって顧客を探せばいいのかというと、実はこの問いにこそカギがあり、「顧客」を生むためには、「顧客」は探さないのだといいます。「顧客数」を見てビジネスを営む人たちは、市場調査も行わず、立地にもこだわらないのだと。なぜなら、このビジネスでは顧客は「生み出す」ものだからなのだというのです。商圏人口約800人の過疎地の食品スーパー・エスマートの鈴木さんは、かつては売上が減り続け、廃業を考えるまでに至っていたものが、「顧客の数」の世界に入ってから数年で業績はV字回復を果たし、売上は毎年過去最高を更新し続け、顧客は増え続けているのだといいます。エスマートは、どこかから顧客を探して連れてきたわけではなく、あくまで顧客を「生み出した」のだと。では、どこにその「顧客」はいたのかというと、もちろん、この店の周りにいたのだというのです。鈴木さんは、「お客さんに喜んでもらうこと」を目的に据え、この店を「昨日よりも今日、今日よりも明日、1センチでも楽しい店にしていく」ことをモットーとしているのだといいます。店で行うことの判断基準も、「それがお客さんにとって親切かどうか」であり、お客さんにとってのエスマートでの支出を、「食費」ではなく「娯楽・レジャー費」と感じてもらいたいと思っているのだというのです。このような「目的」に向かって行う様々なことが、この店を形作っており、それに触れたお客さんが次々と「顧客」になっていくのだといいます。同店の真髄は、この「目的」を具現化し、「顧客」を生み、「顧客の数」を増やし続けられるところにあるのだと、小阪先生は語るのです。
【「付加価値に全振り」で顧客を生み出す】
小阪先生は、「顧客」とは誰なのか、なぜどうやって生まれるのかを、「『顧客』は、あなたが提供した価値に、相手が共鳴した瞬間に生まれる」というひと言で表現しています。さらに、あなたの顧客は、あなたが提供するモノやサービス、さらにはあなたの会社やお店に「価値」を感じてくれる人だと言い換えてもいいでしょうとも語っています。だからこそ、顧客を増やすためには、自分たちの提供する「価値とは何か」を考えなくてはならないのだというのです。「価値」を売ること、それに共鳴してもらうこと、それが「顧客」を生み出す最大のポイントだといいます。そもそも「価値」とは、「V=P/C」<V=Value(価値)P=Performance(パフォーマンス)C=Cost(コスト)>という式で表されるのだそうです。「P」の「パフォーマンス」とは、商品やサービスの機能や性能などを表しており、「お客さんが受け取るもの」と言い換えてもいいのだといいます。そして「C」の「コスト」は、お金や時間など、「お客さんが支払うもの」を表しているのだと。さて、「価値あるもの」とは、お客さんにとってこの「V」の値が大きいことを意味します。この値を大きくするには、「P」の値を大きくする、または「C」の値を小さくすればよいことが、この公式から分かるのだというのです。ただし、「C」の値を小さくする方向でビジネスを営むことは、小阪先生はお勧めしないのだといいます。「C」を追求するためにはどうしても規模の経済の論理が必要になり、大きな会社が有利なため、中小企業でやれることには限度があるからなのだと。一方、「P」の値を大きくすることは中小企業でも可能であり、やり方も無限にあるのだと語るのです。その「P」の値を大きくしていくことで、「V」の値、すなわちお客さんにとっての「価値」を上げていくこと……これを昔からよく使われている言葉で言い換えれば、「付加価値を高める」となるのだといいます。そして、「コスト」ではなく、「パフォーマンス」を追求することで付加価値を提供していくことを、小阪先生らの間では、「付加価値に全振りする」という表現を使うのだそう。特に中小企業やスモールビジネスにおいては、限りある経営資源を付加価値に全振りすることが、この時代には重要であるというのです。
ただし、「付加価値」という言葉は、誤解を招きやすいと小阪先生は指摘します。まず、忘れてはならないのは、価値というのはあくまで、「お客さんが感じるもの」だということだと。つまり、こちらが「価値」だと思って何かを提供しても、それをお客さんが「価値」だと感じてくれなければ、それは付加価値にはなり得ないのだというのです。付加価値についての最大の誤解は、「付加価値を高めるためには、何か新しいことを付け加えなくてはならない」という点なのだと。「付加」という言葉に、加えるというニュアンスがあるからかもしれませんが、しかし付加価値は、新しいものを開発しなくても、何も付け加えなくても、高めることはできるのだといいます。たとえば、新潟県の「えちごトキめき鉄道」は、在来線であり全長は2路線合わせても100キロ弱という短い路線であるため、同じところを往復したりしながら、「夜行列車」を走らせているのだそうで、実用価値はゼロにもかかわらず、これが大人気になっているのだそうです。かつては日本の各地を走っていた夜行列車ですが、今ではほとんど存在していませんから、高齢者には懐かしく、若い人には新鮮な存在に感じられるからなのでしょう。この夜行列車を走らせるにあたり、新しいものは何も加えてはいませんが、それでも「昭和の座席夜行体験」が十分に「付加価値」となるのだといいます。新しいものを付け加えなくても、お客さんがそれを「価値」だと認識してくれれば、そこに付加価値は生まれる……その典型的な一例が、「えちごトキめき鉄道」の夜行列車なのだというのです。そして小阪先生は、新しいことを始めなくても、付加価値はいくらでも創出できるのだと語っています。
【価値は意外なところにある】
そして小阪先生は、価値はよく眠ったままになっており、「解放」されるのを待っているのだといいます。それは、自分たち自身の中に眠っている「人となり」であったりする場合もあれば、商品やサービスの中にも眠っているのだというのです。たとえば、雪がよく降る地域のあるお店では、雪かき専用スコップに「イライラしない雪かきあります」と訴求してみたところ、例年の10倍以上売れたのだといいます。雪かきの一番のストレスは、雪をかいた後、さじ部分に雪がくっついてなかなか離れずイライラすることなのだとか。ところがこのスコッブは、さじ部分が穴あきなので雪離れが良いのだそうです。このように、商品の訴求を変えるだけで売上が数倍になるようなことは往々にしてありますが、これも別に商品自体が変わったわけではなく、あくまでその商品の持つ価値を解放しただけなのだといいます。こういう事例を聞いて、「すごい売るテクニックですね!」などと言う方がいますが、少し解釈がずれているのだというのです。ここで起こっていることの本質は「価値の解放」であり、あくまでも、その商品やサービス、会社やお店がそもそも持っていて、眠ったままになっている価値を解放しただけなのだと、小阪先生は指摘するのです。
そして、我々の業界からも、日本名門酒会の「立春朝搾り」が、事例として登場しています。「立春朝搾り」は、立春の朝に搾り上げる日本酒で、それをその日のうちに予約購入してくれたお客さんのもとに届け、立春を祝いながら、その日に飲んでもらうというもの。この酒は「搾りたて」で、一切火入れや割水をしない「生原酒」であり、抜群の鮮度の酒をその日に飲めるというところも特徴ですが、この商品の何よりの共鳴価値は、「縁起物」であることだといいます。実はこの酒は、出荷前に神主さんからお祓いを受け、無病息災、家内安全、商売繁盛などを祈願された上で、全国の参加蔵から出荷されるのです。そのため、購入者のアンケートを読むと、1人で飲む人は驚くほど少なく、つまりあくまで「縁起物」ということに共鳴して買ってくれた人が多いということでしょうと、小阪先生は語るのです。そして、ここで着目したいのは、もともと「立春の朝に搾った日本酒をその日のうちに大勢で縁起物として飲む」という習慣があったわけではないということだといいます。つまり、この取り組みはまさしくゼロから共鳴価値を生み出し、顧客を創り出したのだと。さらにもう一つ着目したいことは、それを、業界をあげて成し遂げてきたことだというのです。この取り組みは日本名門酒会本部(岡永)が中心になっているとはいえ、造るのは蔵元、届けるのはその地域の酒販店ですから、いわゆるサプライチェーンの上流から中流、下流までが一体となって取り組まなければ実現できません。初年度(1998年)は栃木の一つの蔵から始まり、次の年は3蔵、2001年には6蔵と、じわじわと取り組む蔵を増やしていき、2024年には全国43蔵から27万本が出荷されるという、大きな市場に育ったのです。共鳴価値によって顧客を生み出し、まったく新たな市場も創り出すことができるという好例といえるでしょうと、小阪先生は語っています。
こうして、様々な方法で、自分たち自身の価値や、商品・サービスが持つ価値を解放、あるいは創り出していった結果、ある特定のお客さんがその価値に共鳴し、喜んでくれたとしたなら、それがあなたの「顧客」なのだといいます。そして、ここが重要なところですが、「こういう人に顧客になってほしい」からスタートするのではなく、「こういう価値を提供したい」から始まって、その価値に共鳴してくれる人が顧客になる、という流れなのだというのです。この流れができると、何が変わるのかというと、一ついえるのは、「圧倒的に仕事のストレスが減る」、もっと明るい言葉でいえば、「仕事が愉しくなる」のだといいます。自分の価値を認めてくれる人というのは、自分と価値観が響き合う人であり、その人たちとは、気持ちよく仕事をすることができます。そしてそれが、仕事での「嬉しさ」や「やりがい」、「幸福感」を生んでいくのだというのです。あなたと共鳴する「あなただけの顧客」。そういう人たちを生み出し、気持ちよく仕事をしていくことが、結果的に「顧客の数」を増やすことになる……ビジネスには、実はそうして支えられていく世界もあるのだと、小阪先生は語っています。
【「つながり」と「自己開示」のパワー】
ここまで、あなただけの「顧客」を生む最大のカギは「価値」に共鳴してもらうことだと話してきましたが、しかしそれだけでは「顧客の数」は増えないのだといいます。それだけでは、せっかく生まれた「顧客」が、去っていってしまうことがあるからなのだというのです。「顧客の数」を増やすもう一つのカギ、それは「つながる」ことだといいます。「前編」のBtoBの事例で登場した浜田紙業が、「顧客の数」を見るビジネスをスタートさせた際、最初の半年で取り組んだことは、お客さんと「つながる」ことだったのだそうです。そのために浜田さんは、次のことを行ったのだといいます。➀商品に自己紹介レターを同梱する。➁10日後にフォローメールを送る(浜田さんのメッセージ動画付き)。③20日後にミッションレターを送る。④その後、3ヶ月に1回、ニューズレター「浜田紙業通信」を送る。⑤5回目の購入をしてくれたリピーターに取引記念日ハガキを送る。……この取り組みのいずれもが、「つながる」ことを目的としているのだそうです。「つながる」からこそ、「顧客」は「顧客」でい続けてくれる。まさに、「顧客の数」とは「つながりの数」なのだと、小阪先生は語っています。この取り組みを聞くと、「そういうツールを作って、送ったりしないといけないんだな」と思うかもしれませんが、それは誤解で、顧客とつながる方法はいくらでもあるのだというのです。たとえば、旅館みたいにお客様全員に挨拶して回ることでリピーター客を倍増させたキャンプ場の事例が紹介されています。「声をかける」のようなささやかなことですら、「顧客の数」を増やす妙策になるのだというのです。
続いて、ある医療品関係の商社に勤める個人の方の事例が紹介されています。その方の仕事内容は、医師に医療機器を販売すること。極めて高度な専門能力が必要とされる仕事であり、その方も会社から提供された詳細な説明資料を用いて、自社の製品について医師にプレゼンを行うのですが、彼の場合そこに1枚の「自己紹介シート」が加わるのだといいます。そこには、略歴や家族構成から、趣味や学生時代に何をやっていたかまでが書かれており、面会も終わりに近づいたと思われるタイミングで、このシートを見せるのだそう。すると、医師の表情は一変し、一気に打ち解けた雰囲気になるのだそうで、これがきっかけで大きな商談につながったという事例が、数多くあるのだといいます。このことは、自己開示の力がいかに強いかを物語っていますが、もう一つ注目すべきは、自己開示は「買う側」にとって良いことでもあるのだというのです。顧客となったある医師は、「価格も大事だけど、誰から買うかも同じくらい大事だよ」と、常々語っていたのだそうです。自己開示の相手への伝え方については、ペーパーにまとめる、名刺の裏に書き込む、メルマガやSNSに誘導してそこで自己開示をする、口頭で伝える……等々、様々な方法があるのだといいます。前出の浜田紙業の場合は、ニューズレター「浜田紙業通信」が活用されているのだそう。商品や店の紹介よりも、プライベートであったことやスタッフの近況等が中心で、自己開示を重視しているのだというのです。
【「顧客の見える化」と本当に必要な顧客の数】
「来店数」「レジ通貨客数」「取引先数」を把握している会社や店はありますが、自分たちの会社や店、商品に愛着と信頼、共感を抱いてくれている「顧客」の数を把握することができる仕組みを持っているところは、極めて少ないのが現実だと小阪先生は語っています。そして、まず行うべきは、「顧客を数える仕組みを作る」ことだというのです。そして、「うちでは無理……」という人に向けて、福井県の墓石屋「宝木石材」の事例が紹介されています。一説によると、お墓の購買頻度は数百年に一度ともいわれている、そんな業界で「顧客の数を増やそう」と決めた宝木さんは、代々続いている会社でありながら顧客リストすらなかったため、まず時間があれば墓地に行き、先代が過去に建てたお墓を確認し、その住所や名前の追跡確認をしていったのだといいます。過去の顧客のリスト作りを終えた宝木石材は、さらなる「つながり」を広げ、顧客リストを増やし続けて、現在は3,000件もの顧客リストを持っているのだそうです。宝木さんのやったことは、石材店であることを生かした石挽コーヒーや石窯ピザのイベントを開いたり、お盆など墓参りが増える時期にお寺の要望にお応えしキッチンカーで出向いたり、「墓もうでワークショップ」なるものを開いたり……。中でもユニークなのは、いまや地元では有名になった「合格サイコロ」で、受験シーズンになると「5」と「9」の目しか入っていない(「ご」か「く」で「合格」の意)石でできたサイコロを、地元の受験生にプレゼントするというものだそうで、さらに同店のショールームには「合格神社」なるものもあり、多くの受験生が拝んでいったり、合格の報告に来るのだそうです。これらの取り組みにより、「顧客の数」は増え続け、その顧客らが次々とお客さんを紹介してくれるようになり、いまや対応しきれないくらいの注文が、町中から押し寄せているのだといいます。
続いて小阪先生は、あなたにとって「顧客」と呼べる人は誰かを、少しの間、目を閉じて思い浮かべてくださいと提案します。その定義は、「あなたやあなたの会社に愛着と信頼、共感を抱き、今後も継続的に関係がつながり、繰り返し利用(あるいは紹介などを)してくれる人や企業」ということになるでしょうと。顧客は1,000人いるのか、10人なのか、あるいはゼロなのか……どんな数字であれ、それを認識することが、あなたのスタートとなるのだといいます。そして、今すぐ行動を起こせば、意外と早く、顧客を得ることができるのだというのです。「前編」の事例に登場した、バー「キース」の山本さんが行動を起こしたのは、2019年のことだったといいます。山本さんは、極真空手の有段者であることにちなんで、「キース」の会員を「道場生」と呼ぶことにし、店内にも大きく「道場生求む」と書いた掲示物を掲げたのだというのです。リピーターも含む日々の来店客の中で、2019年の1年間で会員化できたのは約500人だったのだそう。しかし、その500人が、2020年に襲ってきたコロナ禍の中で「キース」を支えてくれたのだといいます。山本さんは「動いた」からこそ、間に合ったのだと、小阪先生は強調しています。そして、ではいったいどのくらいの顧客数が必要なのかというと、それは多ければ多いほどいい、というのはその通りですが、それが自社のキャパを超えてしまえば逆効果になりかねないのだといいます。ある程度のところで「増やす」から「維持する」ことに切り替える必要が出てくる場合もあるのだというのです。まず、事業を成り立たせるために年間どのくらいの売上が必要かを考え、現在の顧客単価を導き出したうえで、そのまま置くか、あるいは「あるべき姿」を置き、同様に現在の購入頻度を導き出したうえで、その値か「あるべき姿」を置くのだといいます。それらの数字を次の式にあてはめれば、あなたのビジネスにおいて必要となる顧客数が、導き出せるのだというのです。「目標売上÷顧客単価×購入(来店)頻度=目標とする顧客数」。
【「明日の売上が読める」という世界へ】
浜田紙業の浜田さんは、「以前は売上が読めなかった。でも今は売上が読めるようになったことが大きい。商売に不安がなくなりました。」と語っているのだそうです。「顧客の数」が増えてくると、そこに「コミュニティ」と呼ばれるものが自然発生するのだといいます。そして、結果としてコミュニティが生まれてくることで、浜田さんが言うように、「売上が読めるように」なるのだというのです。それだけでなく、コミュニティは、さらに「新しいビジネスモデルを創り出す」土台となるのだといいます。バー「キース」では、「オーセンティックバーでお酒をたしなみながらアクセサリーを選ぶ贅沢な時間を楽しんでもらう」というテーマで、2022年に2日間限定のイベントを開催したのだそうです。入場できるのは「キース」の会員もしくは同伴者か紹介の方のみで、VIP客には招待状も郵送し、当日はスパークリングワインのウエルカムドリンクでお迎えし、非日常を演出し来場者をもてなしたのだといいます。そして、何とこの2日間の売上は200万円を超え、ジュエリー業者さんも「百貨店の催事より売れる……」と驚き、山本さん本人も驚いたのだそうです。これが大きなきっかけとなって、現在は店内に常設のショーウインドウも設置し、本格的なパールなどのジュエリーを数千円から数十万円のものまで取り揃えており、「バー」を超えたビジネスモデルとなっているのだといいます。そしてこの取り組みは、バーがあまり儲からないのでジュエリー店に商売替えしようとしているということではないのだと、小阪先生は強調します。山本さんは、なぜ「キース」が様々なイベントを打つのかというと、それは自身がバーテンダーであり、バーと国産ウイスキーを愛してやまないからです、と語っているのです。「キース」の主力商品である国産ウイスキーの価格は暴騰しており、バーのビジネスモデルは不安定な状況にあり、この先もずっとそうであるだろうからだと。そんな中でもバーを守りたい、バーを続けたい……であるなら、新しいビジネスモデル――収益を生み出す仕組み――に踏み込んでいく、ということなのだというのです。では、世の中のバーはみなジュエリーを売ればいいのかというと、そういうことではなく、それを「キース」が成し得ているのは、「顧客の数」を増やし、そこにコミュニティが生まれたからこそ、だからこそ選べる選択肢なのだといいます。顧客にとって重要なことは、相手の業種が何かではなく、誰から買うかなのですと。こうして、「顧客数経営」を行っている会社・お店は軽々と業種の壁を超え、新たなビジネスモデルを生み出すのだと、小阪先生は語るのです。
さて、まさにいま、日本酒業界のビジネスモデルは、もはや「賞味期限切れ」となってしまっているのだと思います。ならば、「キース」の山本さん的にいえば、日本酒を愛してやまないからこそ、新しいビジネスモデル、新たな収益を生み出す仕組みに踏み込んでいかなければならないのだと、強く強く感じました。そして、急務である日本酒業界の新たなビジネスモデルの構築も、きっと「顧客数経営」によって成し遂げられるのだと、いま確信を持って断言したいと思います。