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- 【門前編】日本の原風景がここにある!土佐の高知の風土・食文化・酒文化
First part of the gate
今回は、「酒道黒金流」誕生の地である土佐の高知について、なかでも「酒道黒金流」のベースとなっている土佐の高知の風土・食文化・酒文化の特徴などについて、お話しさせていただきます。その前に、まずはいきなりマイナス面、社会経済指標からご紹介いたしましょう。
<あらゆる社会経済的指標が万年最下位クラスの高知県>平成2年、高知県は全国で初めて(平和時)、死亡率が出生率を上回る、いわゆる人口自然減に入りました。そして、令和2年(2020)の平成27年(2015)に対する人口減少率は、高知県が全国47都道府県中で3位、高齢化率は全国で2位(2019)という状態です。さらに、高知県の一人当たり県民所得(225万2千円)は47都道府県で45位(2014年)。加えて、新幹線もない、地下鉄もない、道路改良率は全国ワースト1位(2018年都道府県道改良率)、テーマパークもない、地下街もない、温泉街もない、もちろんお金もない・・・ようするに「なんちゃあない」(「なんにもない」の土佐弁)のです。つまり、あらゆる社会経済的指標が全国47都道府県中、万年最下位クラスなのが高知県なのです。さらにその上、(一財)日本総合研究所が2年ごとに発表する「都道府県幸福度ランキング」の2020年版では、何と高知県は最下位となっており、全国で最も幸福度が低い県ということになっているのです。・・・では高知県は、現実にそれほど幸福度が低い県なのでしょうか?
<鮮度抜群の山・川・海の幸に日本一恵まれた高知県>ひるがえって、(株)リクルートが毎年発表する「じゃらん宿泊旅行調査」によれば、「テーマ別都道府県ランキング」の「地元ならではのおいしい食べ物が多かった」部門において、高知県は過去13年間(2007~2019)で1位を7回、2位を4回獲得し、47都道府県でトップの成績をおさめているのです。その最大の理由は、山・川・海の幸に日本一と言えるほど恵まれた県だからであると言えるでしょう。
国土交通省が毎年発表する「全国河川水質ランキング」では、高知県の仁淀川(によどがわ)がほぼ毎年全国第1位を獲得し、日本一水のきれいな「奇跡の清流」と呼ばれるようになっています。平成24年に放送されたNHKスペシャル「仁淀川~青の神秘~」という番組以来、その「仁淀ブルー」と呼ばれるあまりに神秘的な美しさの青に、全国に驚きと感動が広がっているのです。実は高知県は、その他にも「日本最後の清流」として名高い四万十川や、物部川や吉野川や奈半利川など、美しい清流に大変恵まれています。なぜこれほど多くの清流に恵まれているのかというと、それはまず「森林面積比率」が84%で日本一だという点、さらに「年間降水量」が毎年1位2位を争っている(令和2年2位:3,092.5mm)という点にあるでしょう。ちなみに高知県は「年間日照時間」も毎年上位(令和元年9位:2,134.7時間)におりますから、降る時はドバッと雨が降り、晴れる時はカラッと晴れる県であるといえます。森林が多いということは平地が少ないということで川は急流になり、さらに降水量が多いわけですから、当然その川は水がきれいということになるわけです。そこに日照時間も多いとなると、川には多くの生物が育ち、豊かな川の幸に恵まれるということになります。森林面積比率が日本一ですから、川の幸同様に豊かな山の幸にも恵まれるということになるのです。
そして高知県は、太平洋に向かって両腕を広げたような形をしており、長い海岸線にも恵まれています。土佐清水市の足摺岬は日本列島で最初に黒潮がぶつかる地と言われています。さらに、大月町柏島の周辺海域には、「これ、日本の海?」と驚くほど美しいエメラルドグリーンに輝く透明度の高い海と、造礁サンゴや藻場が広がっています。世界中からダイバーたちが集まり「ダイバーの聖地」とも言われるほどです。生息する魚種は日本で見られる魚の約3分の1にあたる1,000種を超え、その種類の豊富さは日本一であると言われています。そしてさらに、一番の都会(?)である高知市のど真ん中から、車で30分ほども走れば、「ド」がつくほどの山の中、川の中、海の中に到着することができます。つまり、日本一豊富と言える山の幸、川の幸、海の幸が、すべて鮮度抜群の状態で食することができるということなのです。言い換えると、これほど鮮度抜群の山川海の幸のすべてに恵まれた県は他にはないということになるわけです。
<土佐の高知の豊かな食文化>つまり、土佐の高知の美味しいものは、鰹だけではないということです。春の山の幸はイタドリ(山菜の一種)、川の幸は川エビ、海の幸はドロメ(カタクチイワシの稚魚の生)、夏の山の幸はリュウキュウ(ハス芋の茎)、川の幸は鮎、海の幸は初鰹、秋の山の幸は柚子、川の幸はツガニ(モクズガニ)、海の幸は鯖、冬の山の幸は葉ニンニク(ニンニクの葉)、川の幸は川ノリ(スジアオノリ、アオサノリ)、海の幸はウツボ・・・という具合に、高知県民なら誰でも比較的簡単に、他県の人は知らない物だらけの、これら12種類の山川海の旬の食材を挙げることができるというのが、何よりの証拠でしょう。しかも、ある限られた地域でしか食されない珍しいものや、ある時期にしか食すことのできない希少なものなども、アチラこちらに多数存在しており、土佐の高知の地域性と季節性の豊かさを表しています。さらに、園芸王国と言われる通り、絶品高糖度トマトや茄子やピーマンなどの野菜、茗荷や生姜や山椒などの薬味も豊富で、文旦や小夏などの柑橘類、新高梨やメロンなどの果物、山菜やキノコ類などの山の幸も豊富です。また高知県は、お茶の隠れた名産地でもあります。一日干しなどの干物も豊富ですし、本鰹を使った鰹節や、宗田鰹を使った宗田節などもあり、昔ながらの豊かな出汁文化も残っています。畜産物も、近年「幻の牛肉」と呼ばれ絶賛されているヘルシーな「土佐あかうし」(土佐褐毛牛)や、絶品「四万十米豚」、さらに「地鶏王国土佐」(日本鶏の高知県原産品種は8種類で日本一!)の新品種「土佐ジロー」や「土佐はちきん地鶏」などなど、自慢しはじめたらキリがないほどなのです。
その上、他県にはない大変ユニークな食文化も存在しています。それは「酢みかん」文化です。柚子、ブシュカン、直七(なおしち)などの、そのまま食べるミカンではなく、搾りかけて使うこれらの香酸柑橘類のことを、土佐の高知では総称して「酢みかん」と呼びます。また、酢飯に柚子酢などの柑橘類の酢を使った野菜寿司「土佐田舎寿司」や、様々な種類の「土佐寿司」も、県内各地に多数現存しています。季節や食材によって、このように様々な「酢みかん」を使い分け、さらに寿司酢にまで使うという大変豊かな食文化は、他のどこにも存在していないのです。
結果として、伝統的な土佐料理の特徴は、「豊富な素材の鮮度を活かしたシンプルな料理法の食文化」ということになります。あまり凝った料理ではなく、ただ切っただけ、ただ和えただけ、ただ焼いただけ、ただ煮ただけ・・・というように、豊富な素材の抜群の鮮度を損なわない料理法が中心となるのです。また、温暖な気候でもあるため食材が痛みやすいこともあり、「酢(柑橘類の酢も含む)を多用する食文化」でもあります。高知県出身の漫画家でクイズ王としても名高い故・はらたいらさんが、「土佐料理はお酢責め!」と語っているほどです。かつては醸造酢の使用量も高知県が日本一だったようで、その上に柑橘類の酢も多用しますから、確かに「お酢責め」と言えるのかもしれません。「鰹のタタキ」もポン酢を使いますから酢の物と言えますし、土佐人はどんな刺身にも「酢みかん」をよく搾りかけます。日本料理の世界で「土佐酢」という言葉が使われていることも、土佐の高知が「酢を多用する食文化」であることからきているのかもしれません。・・・さて、ここまでの内容をまとめるなら、土佐の高知は日本一と言えるほど、春夏秋冬・山川海の鮮度抜群の食材を使った美味しい食に恵まれた県であると言えるのではないでしょうか。
<日本一旨い辛口酒・・・土佐酒>そして、山川海の豊富な食材の鮮度を活かした料理や、醸造酢や「酢みかん」を使った料理などには、土佐酒が相性バッチリなのです。土佐酒の全体的な特徴を一言で表現すれば、「キレの良い辛口で、綺麗な酸があり、雑味が少ない」ということになります。料理の素材そのものの鮮度の良さを、辛口酒が出汁のように下から支え、美味しさを一層引き立ててくれ、料理と酒を交互にやると、キレが良いため箸も杯も止まらなくなるのです。また、綺麗な酸があり雑味の少ない酒質が、醸造酢や「酢みかん」を使った料理と、抜群の相性を示すのです。近年、様々な審査会やコンテスト等で上位入賞しやすいことから、グルコース濃度の高い甘い酒が日本中に蔓延していますが、土佐の高知はそんなトレンドとは真逆の、グルコース濃度の低い日本一の辛口県(※データ上で明らか)となっています。しかも、コンテストには極めて不利な辛口でありながら、国内外の様々な品評会において、素晴らしい成績をおさめているのです。「全国新酒鑑評会」の最高位金賞受賞率は、9年間(2011年~2019年)の通算成績で全国第4位です。また、海外の日本酒コンテストで最も長い歴史を誇る「全米日本酒歓評会」においては、2018年にはゴールド受賞率日本一を獲得し、2019年には入賞率日本一を獲得しています。つまり土佐酒は、料理の美味しさを引き立てる「日本一旨い辛口酒」であると断言してもよいでしょう。
<とにかく明るく、人なつっこい土佐人>県民性、土佐人の特徴にも触れておきましょう。土佐の男は「いごっそう」、女は「はちきん」とよく言われます。「いごっそう」とは、一説に「異骨相」と表記し、「土佐人は何か違うと思ったら、骨まで異なっていた!」という意味だとか(所説あり)。頑固な気骨者ながら、明るくて憎めない快男児というような意味でしょう。一方「はちきん」は、これまた明るく男勝りで、負けん気の強さやきっぷの良さを持つ女性のことです。1人で一般男性4人分のパワーを持つことから、「八金」(2金×4=8金)という意味だとか(所説あり)。もちろん、このような明るい県民性の都道府県は他にもあるでしょうが、土佐の高知は輪をかけて、輝く太陽のようにカラリと明るく人なつっこく、人を楽しませることが大好きな県民性であると言えるのです。その最も分かりやすい事例を挙げておきましょう。高知市の観光名所「ひろめ市場」に行った観光客が、隣に座っているオジサン(あるいはオバサン)から、「おまん、どっから来たぜよ?」と話しかけられ、「コレ食うたことないろう?」「コレ飲んでみいや!」と料理や酒をシェアしてもらったという話は、本当に枚挙にいとまがないほどよく聞く話なのです。残念ながらコロナ禍の状況では、難しいでしょうが。ちなみに、様々な国に住まれた経験のある映画監督の安藤桃子さんも、この人の明るさ、人なつっこさに惚れ込んで高知に移住されたのだそうです。
また、少し視点を変えて見てみましょう。高知県は、自営業率日本一(平成22年国勢調査の就業者における自営業種の割合)と言われています。企業が少なく県民所得が全国最下位レベルだからという理由もありますが、視点を変えれば「“好き”を仕事にできる土地」であるともいえるでしょう。実際、近年は他県からのUターンやIターン組で、高知で自営店を開業する方々も増え、お互いを支え合うネットワークも構築されはじめています。ちなみに高知県は、人口10万人あたりの漫画家輩出率日本一であり、1988年には「まんが王国」を宣言しています。また、子供たちはどうでしょう。土佐の高知では、「川ガキ」という言葉が今でも一般的に使われているくらいですから、自然相手の遊びが現在でも生活に密着して存在しています。ちなみに「川ガキ」とは、川で元気に遊ぶ子供たちのことです。
そして、歴史的視点で見れば、土佐の高知は「偉人輩出県」と言えます。様々な分野で、歴史上の偉人たちを数多く輩出しているのです。坂本龍馬を筆頭とする維新の志士たち、板垣退助を筆頭とする自由民権運動の闘士たち。歴代総理大臣としては、「政治を国民道徳の最高とせよ」の政治観を貫いた「ライオン宰相」濱口雄幸、戦後日本復興の立役者「ワンマン宰相」吉田茂の2人の偉大な宰相も高知県出身です。世が乱れ不安が蔓延した幕末に大政奉還を成し遂げ、坂本龍馬が希望を灯しました。藩閥政治に対する不安が蔓延した時代に自由民権を掲げ、板垣退助が希望を灯しました。戦争の時代と言われ世の中に不安が蔓延した激動の昭和初期に平和協調を掲げ、濱口雄幸が希望を灯しました。敗戦の大混乱の中で不安が蔓延した戦後を復興に導き、吉田茂が希望を灯しました。世の中が乱れ不安が蔓延したとき、先陣をきって希望を灯すのが、どうやら天から授けられた土佐人の遺伝子的使命であるようです。彼らがいなければ、その後の日本の繁栄もなかったといえるのではないでしょうか。
<独特の「おきゃく」文化をベースとした楽しい宴>土佐人は、五穀豊穣を祝う神祭(じんさい)や冠婚葬祭など、とにかく何でも理由をつけて宴会をすることが大好きです。かつては、自宅の座敷のフスマをはずして広間にし、「皿鉢(さわち)料理」をズラリと並べて大宴会を開催し、老いも若きも、子供や通りすがりの人でさえ誰でも招き入れ、目上か目下かは関係なく無礼講で、3日3晩飲み明かす地域などもあったようです。このようにお客さんを招いて宴会をすることから、土佐の高知では宴会のことを「おきゃく」と呼ぶようになったようです。ちなみに皿鉢料理とは、山川海の幸をふんだんに大皿に盛り合わせた料理で、刺身を盛りつけた「生(なま)」、煮物や揚物や蒲鉾、果物や甘味まで何でも盛り合わせた「組物(くみもの)」、そして「寿司」という3皿が通常1組となります。お銚子と杯を手に持ってあちこち移動し、無礼講で杯をやり取りして酌み交わす「献杯」「返杯」を繰り返す風習が、土佐の高知には今でも残っていますから、どこの席に移動してもつまんで食べられるという皿鉢料理は非常に都合がいいわけです。
「土佐の宴席は杯が飛び交う」といわれるほど酌み交わし合って盛り上がり、さらに宴会の後半になると、土佐のお座敷遊びが始まります。「はし拳」「可杯(べくはい)」「菊の花」といったお座敷遊びは、どれも負けた方が酒を飲まなければなりません。宴会の後半になると既にみんな限界まで飲んでいますから、負けた方が飲むという罰杯(ばっぱい)が成立するのです。これにより、「土佐の宴席は酒の山が2回ある」(酒の注文量の山が2回あるという意味)ということになるのです。ただし、本当に飲めない人にまで無理強いして飲ませるということは基本ありません。もともと女性や子供や飲めない人までも、誰でも分け隔てなく招き入れるのが土佐の「おきゃく」です。お座敷遊びで飲めない人が負けてしまった場合など、たいていは周りの方々が助けたり、勝手に誰かが代わりに飲んだりしてくれます。要は、みんなで大笑いしながら、楽しく盛り上がりたいだけなのです。
ところで、土佐の高知には独特の「なかま文化」も根付いています。「なかま」という言葉は標準語では同志というような意味ですが、土佐弁にはもう1つの意味があり、「なかまにする」という素敵な言葉があるのです。たとえば2人の兄弟に1つの玩具が与えられた場合など、「この玩具、なかまにしょうね」というふうに使います。つまり、シェア、共有、共同利用などの意味です。土佐の高知の田舎では今でも、お隣との境界の塀などを作る場合、半額ずつ出し合って共有する、つまり「なかまにする」という分かち合いの文化があるのです。この「なかま文化」はどこから来たものなのかは定かではありませんが、私は土佐の「おきゃく」文化が育んだものなのではないかと想像しています。「献杯」「返杯」も杯を「なかまにする」ということですし、「皿鉢料理」もまさに料理をシェアし「なかまにしている」わけですし、宴席であちこち移動するのも席を「なかまにしている」のですから。
<理想とする、これからの日本が進むべき道は?>ところで皆さんにとって理想とする、これからの日本が進むべき道はどのような方向であり、理想の姿とはどのようなものでしょうか。東日本大震災と原発事故以来、さらに長期化するコロナ禍中において、そのようなことを真剣に考えるようになられた方が少なくないのではないでしょうか。そしておそらくはその姿は、物質文明至上主義的なこれまでの延長線上にはないものなのではないでしょうか。澄みきった空、輝く太陽、青い海、緑の山々、美しい川、豊かで美味しい食べ物、そんな食を引き立てる旨い酒、分け隔てない楽しい宴、自然の中で元気に遊ぶ子供たち、好きなことを仕事にしている大人たち、そして分かち合いの精神と大きな志を持つ人々・・・そんな「日本の原風景」のような姿を思い浮かべた方も少なくないことでしょう。かのロバート・ケネディ大統領候補(J.F.ケネディ大統領の弟。大統領となる前に暗殺される。)も、「国民総生産は、あらゆるものを測る指標となっているにもかかわらず、その中には私達の人生を価値あるものにしているものは1つも含まれていない」と既に約半世紀も前に語っている通り、本当の幸福のために必要なものは、GNPなどの経済指標では測れないところにあるということなのではないでしょうか。そして、そんな「日本の原風景」のような姿とはもうお察しの通り、まさに土佐の高知の姿が最も近いのではないでしょうか。もし今、高知県を一言で表すようなキャッチコピーを私に考えろと言われたら、「日本の原風景がここにある。原日本人がここにいる。食が美味しい!酒が旨い!人が明るい!そして世界一宴が楽しい酒国土佐!」というものになるでしょうか。もしかしたら、日本の各地域がこぞって「高知県に学べ!」と言いはじめるような、そんな時代が来るのかもしれません。
さて、最後に一番最初の疑問に戻ってみましょう。果たして土佐の高知は、全国で最下位というほど、幸福度が低い県なのでしょうか。何を幸せと考えるかは人それぞれですから、その答えは皆さんお1人お1人が出していただけましたら幸いです。ちなみに当の土佐人たちは、「なんちゃあない」(「なんにもない」の土佐弁)高知県が幸福度最下位の県だと言われても、「なんちゃあない!」(「なんてことない!」の土佐弁)と、笑って答えるような人がきっと大半でしょうが・・・。