【門前編】小阪裕司先生の「顧客の数だけ、見ればいい」解説<後編> 今回は、前々回と前回の続きで、小阪裕司先生の最新の著書、「顧客の数だけ、見ればいい~明日の不安から解放される、たった一つの経営指標~」(小阪裕司著PHP研究所2024年10月31日発行本体1,650円)解説の、「後編」をお届けしたいと思います。 【新規獲得よりも、離脱防止のほうが効く】 顧客の数を増やす、そのために小阪先生が挙げるもう一つのキーワードが、「非効率」だといいます。顧客数を増やすためには二つの方法があり、それが「新しく顧客を増やす」と、「離脱する顧客を減らす」なのだと。そしてこのうち、「離脱する顧客を減らす」にあたり、「非効率」は極めて大きな役割を果たすのだというのです。もし、あなたの会社に1,000人のお客さんがいて、たとえば1年間の離脱率が50%であったとするなら、毎年500人のお客さんを獲得しなくては、売上は減り続ける一方です。もし、離脱率を30%にすることができれば、新規に獲得すべきお客さんは300人で済みます。1人の新規客を得るためのコストが1万円だと仮定すると、➀離脱率50%=500人の新規客獲得500人×1万円=500万円➁離脱率30%=300人の新規客獲得300人×1万円=300万円……このように、新規客獲得コストは約6割になるのだといいます。コスト以上に重要なのは、➀だと500人の顧客しか残らないのに対し、➁では700人の顧客が残るということです。そして、活動を継続すればするほど、顧客は増えていくことになるのだというのです。もちろん、顧客を維持するためにも「顧客維持コスト」がかかります。しかし一般的に新規客獲得コストは、顧客維持コストの5倍かかるとされ、経営の大きな圧迫要因なのだといいます。また、維持された顧客は、顧客でいる年数が長ければ長いほど離脱せず、企業への収益寄与度が高くなっていくことが分かっているのだそう。つまり、「離脱防止」こそが要なのだというのです。 これまでにも事例に挙がっていた、仙台市の「ホンダカーズ仙台北」は、一般的なカーディーラーが600坪くらいのところ、3,000坪を超える面積なのだといいます。「さぞや多くのクルマを展示しているのだろう」と思うかもしれませんが、逆にショールームにはなんと、1台の車も置いていないのだそう。では、何のために広大な敷地を用意しているのかというと、その大きな理由の一つは駐車場なのだというのです。狭い駐車場や混雑している駐車場は大きなストレスになり、入るのを躊躇してしまう人がいるため、そんなお客さんにも安心して来店してもらえるよう、余裕のある広さの駐車場を用意したのだといいます。店舗の実力を表す数値に「1坪当たり売上」がありますが、その観点からいえば、売上にもならない駐車場の面積を広げることは非効率の極みです。にもかかわらず、同社の顧客数は右肩上がりで、それに比例して売上も右肩上がりを続けているのだといいます。一見、非効率に見えても「顧客の数を増やす」という面での非効率はあえて実行する。これが顧客数経営のポイントだと、小阪先生は語るのです。 【AIの弱点。そして小さな企業の「勝ち筋」】 昨今は「マーケティングオートメーション」などの仕組みが導入されたことで、顧客対応を自動化する企業が増えているのだといいます。通販の世界では既にAI導入はかなり進んでおり、アメリカでは人間のオペレーターよりAIのオペレーターが対応した時のほうがコンバージョンレートが高いなどという検証結果もあるのだそうです。しかしそれでも、デジタルやAIの対応では埋めきれないものがあるのだと。そこに「非効率」な人の介在したコミュニケーションが、AIとはまったく別種の価値を生む余地がある、ということですと小阪先生は語っています。実際、ここまでご紹介してきた例の多くは「非効率」の極みなのだと。「顧客にレターや手書きのメッセージを送り続ける卸会社」(浜田紙業)。「運転が苦手な人のためだけに駐車場を広げるカーディーラー」(ホンダカーズ仙台北)。「同じところを何往復もして夜行列車を走らせる鉄道会社」(えちごトキめき鉄道)。「自己紹介シートを持ち歩く医療機器の営業」。しかし、彼らは確実に顧客の心をつかみ、離脱を防いているのだというのです。 もちろん、「非効率などナンセンス。うちは便利さで顧客を獲得する」という選択肢もありですが、その道は「いばらの道」でもあるのだといいます。コンビニエンスストアは、この50年で驚くほど便利になりましたし、アマゾンの便利さの進化も驚くほどです。つまり、「便利さで勝負するということは、こうしたモンスター企業と勝負すること」だということですと、小阪先生は指摘するのです。既に市場で一定の成功を収めているITサービスの会社では、年間の技術開発投資に数億円、数十億円投じていることは珍しくないのだと。便利さで勝負しようというのは、まさに「そうした世界であなたも戦うのですか?」という話なのだと語っています。しかし小阪先生は、ITやAIを用いた便利な機能は、中小企業でもどんどん使うべきと考えているのだというのです。便利なツールはどんどん使うべきなのですが、より重要なのはそれを使って何をするか、であり、「それが顧客を増やすことにつながるか」の視点で考えるべきなのだと。また、便利なツールを使ってできた「余力」をどう使うか、という視点も重要なのだといいます。ある通販会社では、深夜のネット注文に対応するための人員を減らすため、ロボティック・プロセス・オートメーションのシステムを導入したのだそうですが、そこで浮いた人員を、顧客に手紙を出すなどの、顧客とのつながりを強化する活動に充てることにしたのだというのです。小阪先生は、こういうことこそが、「中小企業の勝ち筋」だと思うと語っています。「モンスター企業と戦いますか?」の問いかけも、それは「勝ち目がない」ということを言っているのではなく、自社・自店はどこで価値を生むか、どういう価値で顧客を増やすか、ということを問いかけているのだと。そして、それは多くの場合「非効率」がカギとなるのだというのです。 【顧客を圧倒的に惹きつける「3つの非効率」】 福島県いわき市にある「渡辺文具店・パピルス」では、毎年「ペンへの名入れキャンペーン」をやっているのですが、ある年からその受付をネットや電話、FAXなどではなく、「店頭のみ」にしたのだといいます。極めて非効率で、お客さんにも不便に思えますが、しかし店主は「直接店に来てもらうことでペンそのものへのアドバイスもできるし、名入れの書体も相談できる。お客さんにとってはその方が親切なのではないか」と考えたのだというのです。結果、前年比で2倍の売上になったのだといいます。顧客を惹きつける3つの非効率、その1はこの「リアルにこだわる」だと小阪先生は語っています。顧客は、その会社や店とコミュニケーションを取ることに喜びを感じるため、顧客にとっては「来店しなくてはいけない」という非効率は、むしろ来店する絶好の機会になるのだと。リアルにこだわることは非効率ではありますが、リアルでしか提供できない体験価値、その面白さを提供できるということだというのです。 愛媛県松山市の「パイオニア石油」は、「セルフのガソリンスタンドなのに、お客さんから感謝の手紙が続々舞い込む」というユニークな企業なのだといいます。セルフのガソリンスタンドでも従業員はいますので、洗車や点検などのセールスの声がけを通常は行うのですが、同社の社長は「お客さんはセールスをされたくない」と考えているため、それをさせず、一方店員には「五感を使って、必要だと思った時には声をかけよう」と伝えているのだそうです。ある時、お客さんの車のタイヤの空気圧がどうもおかしいことに気づいたスタッフが、点検をお勧めしたところ、1本のタイヤに釘が刺さっていたのだといいます。高速道路に乗る直前だったそうで、危ないところでした。数日後、そのお客さんから感謝の手紙が届き、「近くに行った時には必ず寄ります」と書かれていたのだとか。まさに「顧客」が誕生した瞬間です。スタッフの対応をシステム化・マニュアル化した方が効率的だと考える人がほとんどでしょうが、「パイオニア石油」はあえて「必要だと思った時に声をかければいい」として、スタッフの「五感」に任せた……それがこうした感動を生み出したのだといいます。小阪先生は、この「五感を使ったサービス」のようなものを、「技芸」と呼んでいるのだそうで、顧客を惹きつける3つの非効率、その2は「技芸を使う」だと語るのです。また、かつては当たり前のように思われていた「親切、親身、丁寧」な仕事は、近年どの業界でも急激に減っていることから、今や立派な「技芸」となり得るのだとも語っています。 石川県の「スガイ書店」は、創業100周年に「感謝祭」を開催し、縁日や塗り絵コンテストなどのイベントを行い、500人のお客さんが来店して大盛況だったのだといいます。当初は100周年限定のつもりでしたが、楽しんでくれているお客さんの顔を見て、毎年開催することを決意したのだそう。祭りは年々盛り上がり、昨年の祭りには1,000人以上が集まったのだというのです。このような祭りだけで見れば、コストは持ち出しになることがほとんどでしょうが、同店では「感謝祭」を行った翌月以降の売上が顕著に上がっており、結果的に採算が取れ、顧客も確実に増やすことができたのだといいます。小阪先生はこの現象を、単なる顧客継続だけではなく、休眠顧客の掘り起こしという視点でも見ているのだといい、リアルに集う祭りがあるかどうかは、顧客のつなぎ止めや復活に大きな役割を果たすのだというのです。そして、顧客を惹きつける3つの非効率、その3は「祭りを行う」だと語っています。さらに小阪先生は、祭りには人を一体にする強力なパワーがあるため、規模や場所が重要なのではなく、「祭り」であることが重要なのだというのです。一人ひとりの顧客と「つながり」を持ち、「顧客の数」が増えてくると、そこにコミュニティが生まれますが、このコミュニティが生き生きと生き続けるために、「祭り」は不可欠なものなのだといいます。「それはなぜか」を考えるには、かくも非効率な「祭り」が、世界中で、数十年、数百年、数千年と続いてきたことに思いを馳せてみるといいでしょうと語るのです。 小阪先生は、2011年に情報学の博士号を授与されていますが、その主な研究の一つに「系」の研究があるのだといいます。「系」とは、英語では「システム」で、「系」のふるまいを研究する科学的学問分野を、「システム科学」というのだそうです。実は、世の中の出来事の全て……森が森として成り立つことも、渋滞が起こることも、コロナなどの疫病が流行ることも、もちろんビジネスも……「系」で成り立っているのだといいます。そして、「非効率」とは、本当に「非効率」なのでしょうか、と投げかけるのです。たとえば、今週行ったことが、来週に成果を生み出すかどうか、といった視点なら、それは文字通り「近視眼的」でしょう。システム科学の目で世の中を見ると、この「近視眼的」なものの見方が、とても危険であり、頻繁に間違いを犯してしまう元になっていることが分かるのだと。システム科学では、よく「人は一番距離の近い原因を探してしまう」という言い方をするのだというのです。この言葉の真意は、物事の「結果」を生み出す真の「原因」は意外と遠いところにあるのに、人はなかなかそういう目で物事を見ようとしない、というところにあるのだといいます。また、結果を生み出す原因も、現実の世界では一つではなく、多くの様々な原因が、大なり小なり影響を及ぼし合って結果が生まれてくるのだと。ですから、忘れないでいただきたいことは、今「非効率」と感じることは、先々に最も「効率的」なことなのかもしれない、ということだと語るのです。 【顧客はあなたが選んでいい~劣化する顧客、成長する顧客~】 あくまで体感ですがと前置きし、小阪先生は近年カスタマーハラスメントを起こすようなクレーマーが以前に比べて増えているような気がすると語っています。ところが、「顧客数経営」の企業の場合、カスハラやクレーマーの話が出ることは、ほとんどないのだそうです。彼らが「顧客の数」を増やす取り組みを始めて異口同音に言うのは、「クレームがなくなった」という言葉だといいます。そして、顧客数を増やすことは重要ですが、それと同時にやらなくてはならないことがあるのだと語るのです。それは、「やっかいなお客さんとは縁を切り、本当に大事な顧客にこそ力を注ぐ」ということだと。そうすることで、一時的に「お客」は減るかもしれないけれど、「顧客」は確実に増えていくのだといいます。「縁を切る」と言っても、面と向かって宣言する必要はなく、「静かに手を引く」だけで十分なのだと。では「静かに手を引く」には、何をすればいいかというと、「つながらない」ことだというのです。顧客情報ももらわないし、仕事上もらったとしても、その後何もしない……お礼のメールもニューズレターも送らないのだと。そうすると、「つながらないお客さんとは、必ず縁が切れる」と、彼らは口を揃えるのだといいます。これは、「つながる」ことの重要性が、逆説的によく分かる話なのだと、小阪先生は語るのです。そして、基本的には「価値観が響かないお客さんからは、静かに手を引く」のがよいと考えているのだといいます。たとえ一時的に売上や利益が上がっても、価値観の響かない人たちは「顧客」にはならないため、「顧客の数」を軸に考えれば、自店の顧客に集中しよう、という選択になるのだというのです。これを小阪先生は、「顧客リストを濃くする」と表現しているのだといいます。より価値観が響く人だけに顧客になってもらうことで、その人たちがより多くのお金を使ってくれるようになるのはもちろん、その満足度もさらに高まっていく傾向が生まれるのだと。顧客数を増やすためには「新規」は不可欠ではありますが、一方で「顧客リストを濃くする」という発想も、必ずどこかの段階で必要となってくるのだというのです。 さらに小阪先生は、世の中にやっかいなお客さんやクレーマーが増えているという現象を、「お客さんの劣化」という言葉でとらえているのだといいます。明確な答えを、「具体的にこうしてああして」まで教えてもらわないと動けない人が増えているということ……それを「劣化」という言葉でとらえているのだというのです。そして、こうした人が増えている理由の一つは、ITの発達により「すぐに答えが分かる」時代になったことだと指摘し、人間の脳は使わないと劣化するのだといいます。すぐに答えが得られるようになると、考えることをしなくなり、すると「考える力」は劣化し、すぐに答えが得られないと、イライラしたり爆発したりするのだと。実は人というのは、より「便利」になると「忍耐力」が弱くなるのだというのです。一方、まったく別種の、今日的な「お客さんの劣化」も起こっているのだといいます。それは、「お客さんのリテラシーの劣化」だと。ここでいうリテラシーとは、与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力、応用力のことであり、「価値あるもの」の「価値」を、感じたり、理解したりする能力が劣化しているのだというのです。そして、なぜそんなことが起こるのかといえば、「情報が足りていないから」なのだと。「この情報があふれ、簡単に手に入る時代に?」と思われるかもしれませんが、「だからこそ」なのだといいます。世界中に星の数ほどの発信者がおり、SNSなどを通じて日夜大量の情報が発信されていますが、多くは専門家ではなく、彼らは間違った情報を発信していることもあり、「情報の受け手」はしばしばそれを鵜呑みにしているのだと。一方で、いわゆる「専門家」と呼ばれる人たちの発信は不十分なのだというのです。そうして、「お客さんのリテラシーの劣化」は進んでいくのだといいます。 しかし実は、ここに道があるのだと小阪先生は語り、それは「お客さんを育てる」という発想なのだというのです。新潟の過疎地の食品スーパー「エスマート」は、この発想でまさに顧客を増やしているのだといいます。かつて同店では、ワインは3ヶ月に5本くらいしか売れなかったそうで、店主の鈴木さんも、高齢者が多い地域でもあり、ワインを飲む習慣がないのだと考えていたのだそう。そんなある日、友人たちとの飲み会で、偶然美味しいワインに出合ったのだと。ワイン初心者である鈴木さんは、難しいウンチクは語れませんが、「初心者の自分がはまっている」という情報なら発信できると思い立ち、早速このワインを仕入れ、「ワイン初心者が飲むべきワインはこれ!」と発信したところ大人気となり、1銘柄で、1ヶ月に30本以上が売れたのだというのです。その後リピーターも増え、このワインはすっかり売れ筋商品となったのだそう。すると今度は、顧客の中に「初心者」でない人が増えてきたため、「次に飲むワインはこれ」と品揃えを拡充、自らもワインに詳しくなっていったのだといいます。それにつれ、ワイン売り場も大きくなっていき、高級ワインまで品揃えされ、それらも売れるようになったのだというのです。これは、「ワイン」というジャンルにおいて、まさに「お客さんを育てて、顧客数を増やし、売上を増やした」ということですと。しかもこの取り組みが証明してくれているのは、その商品をまったく利用していなかったお客さんでも、「育てる」ことは可能であるということだといいます。同店ではこのような営みがすべてのジャンルにおいて行われており、「成長する顧客」が売上を押し上げているのだというのです。……いまや国内の全酒類における日本酒のシェアは5%を切っており、95%の人は日本酒を飲んでいないことになると嘆く業界の方もいますが、逆にいえば、「日本酒」というジャンルにおいて、95%の日本人を「育てる」チャンスが目の前に大きく広がっているとも考えられるのではないでしょうか。 【「顧客劣化は自分たちのせい」と考えることで、行動が生まれる】 ここまで「劣化」という上から目線の言葉を使ってしまっていますが、実際には「自分たちの活動が不足しているから、お客さんのリテラシーが低くなってしまっている」という発想をした方がいいでしょうと、小阪先生は語っています。そして、ここで再び、日本名門酒会の「立春朝搾り」の取り組みが紹介されているのです。日本名門酒会が発足した1975年当時から、消費者だけではなく酒販店でも、「日本酒はもう売れない」「別の酒を売ればいい」という考え方が強くなっており、既に「日本酒離れ」という言葉が囁かれていたのだといいます。結果として日本酒の知識がない酒販店が増え、ますます売れ行きが下がる、という悪循環となり、蔵元が集まるたびにこうした現状を嘆く声が上がっていたのだと。しかし、嘆いていても始まりませんから、そこで発想を変えたのだというのです。「日本酒離れは、蔵元から卸、酒販店の全体として、消費者に価値をちゃんと伝えていない表れだ。サプライチェーン全体で改善に取り組まねばならない」と。実際、最終的に日本酒が売れるかどうかは、お客さんとの接点である酒販店に大きく左右されます。そもそも、今日のお客さんの多くは日本酒のことをよく知りません。純米吟醸とは何か、精米歩合がどうとか言われても、何のことだか分からない。日本酒の価値をいかに分かりやすい言葉に代えて伝えられるかが、売れ行きを大きく左右するのです。そして、卸売業である岡永(日本名門酒会本部)が中心となり、蔵元や酒販店とともに、サプライチェーン全体で共鳴価値を生むための活動を、あらためて始めたのだといいます。その代表的な活動が、「縁起物」という共鳴価値にフォーカスした、「立春朝搾り」だったのだというのです。そして小阪先生は、「お客さんのレベルが落ちている」「現場のレベルが落ちている」と嘆く声をあらゆるところで聞きますし、「〇〇離れ」も日本酒業界だけの悩みではないのだといいます。だとしたらそれを解決するために、今何ができるのかを考え、動き始めることが未来を開くのだと語るのです。
さらに、そう考えた時、「最近のお客さんはこんなことも知らないのか」という「お客さんの劣化」は、大きなチャンスであることが分かるのだといいます。特に最近は、「米屋」「魚屋」がなくなり、代わりにスーパーで購入する、「家具屋」「布団屋」がなくなり、代わりにホームセンターで購入する、というようになっており、いわゆる「専門店」が減少しているのだというのです。しかし、こんな時代だからこそ、「専門店にこそチャンスがある」と考えるのだといいます。小阪先生が知人に聞いた話なのだそうですが、煙草の専門店にパイプ煙草を買いに行った彼は店員さんに、「これとこれはどう違いますか?」と聞いたのだとか。すると、その店員さんはぶっきらぼうに、「さあ?全部いちいち吸ってられないんで。」と答えたのだそうです。これは嘆くべき現場の劣化ですが、見方を変えれば「チャンス」なのだといいます。なぜなら、全国で専門店が減少し、専門店の看板を掲げながら現場が劣化しているのであれば、お客さんは「本物の専門店」となかなか出合えていない、いわば「専門店難民」になっているからだと。そんなお客さんが、ひとたび「本物の専門店」に出合ったら、どうなるでしょうと小阪先生は語り、自身が10年ほど前からお世話になっている靴専門店の例を挙げるのです。小阪先生は、長年全国を出張で飛び歩く生活を送ってきたために持病ともいえる足底腱膜炎を患っており、徐々に悪化していましたが、職業病のようなものだと半ば諦めていたのだといいます。しかし、その店を訪ねた時、その問題は靴で解決することが分かったのだと。お陰さまでその後、その店で買った靴を履いている限り症状も出ず、悪化もせず、今も全国を飛び回ることができているのだというのです。つまり小阪先生は「専門店難民」だったのだと。救われた先生は同店の顧客になり、今は平和に過ごせていますが、かつての小阪先生のように、自分がそうであることを知らない人たちも、世の中にはたくさんいるのではないでしょうか、と問いかけるのです。専門店の最大の魅力は「専門知識」を用いた「技芸」だといいます。そしてそれは、「共鳴価値」につながり、「顧客の数」を増やすことにつながるものなのだと。全国の専門店には、大いに自信を持っていただき、自らをより磨いていただき、かつての小阪先生のような「専門店難民」を一人でも多く救ってあげてほしいと語り、締め括るのです。