【門前編】世阿弥「風姿花伝」に日本酒が学ぶべきこと！＜中編＞ 前回から、前編・中編・後編の3回にわたって、今から600年以上前の室町時代に能を大成した世阿弥の書「風姿花伝」を取り上げていますが、そこから日本酒について考えてみるという内容の、今回は「中編」になります。参考にさせていただいた書籍は3冊。「NHK『100分de名著』ブックス『世阿弥風姿花伝』」（土屋惠一郎著NHK出版2015年2月20日発行1,000円＋税）と、「ビジネスの極意は世阿弥が教えてくれた」（大江英樹著 青春出版社 2023年7月30日発行 1,500円＋税）と、「風姿花伝」（全訳注市村宏講談社学術文庫 2011年9月12日発行 970円＋税）です。
【「初心忘るべからず」の真の意味とは？】 「NHK『100分de名著』ブックス『世阿弥風姿花伝』」の第2章で、著者の土屋氏は「初心忘るべからず」という言葉を紹介しています。「風姿花伝」にも「初心」については出てくるのだそうですが、「初心忘るべからず」は、世阿弥の「花鏡（かきょう）」という伝書に書かれているのだそうです。そして土屋氏は、この言葉は一般的に、「はじめの志を忘れてはならない」という意味に理解されているようで、これはこれで間違いとは言えないのですが、世阿弥の語った「初心忘るべからず」は、もう少し複雑で繊細な意味を持っており、人生にはいくつもの初心があるのだと語っています。「しかれば、当流に、万能一徳の一句あり。初心忘るべからず。この句、三箇条の口伝あり。是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず。」（「花鏡」奥段）……「ビジネスの極意は世阿弥が教えてくれた」著者の大江氏の訳を参考に口語訳すると、次のとおりでしょうか。「ところで、私たちの芸にはあらゆる戒めをひとまとめにした金言ともいうべき一句がある。それは『初心忘るべからず』である。この句には三箇条の口伝がある。是非の初心を忘れてはならない。時々の初心を忘れてはならない。老後の初心を忘れてはならない。」……「是非の初心」の「是非」とは、評価や判断をする基準となる心構えという意味なのだそうで、つまり若い頃（24～25歳頃）の初心ということになるでしょう。「時々の初心」とは、芸の絶頂期の頃（34～35歳頃）の人生におけるその時々の初心ということになるでしょう。そして「老後の初心」とは、年齢を重ねた後（50歳以降）の初心ということになるでしょう。 大江氏は、世阿弥が言う初心は、「壁」と解釈してもいいのではないかと語っています。そして土屋氏も、24～25歳頃に周りから「天才が現れた！」などと褒めそやされたりして、「自分は本当に天才なのかもしれない」と思ったりするわけですが、実はそれが壁なのだと語るのです。むしろこの時期こそ、あらためて自分の未熟さに気づき、周りの先輩や師匠に質問したりして自分を磨き上げていかなければ、「まことの花」にはならないのだと。そこでいろいろと勉強しなおして初めて、その上のステップに行けるのだといいます。しかし、その上のステップに行っても、また初心が来るというのです。いわゆる中年の壁なのだと。 世阿弥は、能楽師は30代半ばが頂点だといい、ここで頂点になれない人には、それ以上はないのだといいます。年齢的にいっても、あとは落ちるだけだからなのだと。ここに、次の初心が来るというのです。そして最後に、老いてのちの初心が来るのだといいます。年を取り、体が動かなくなってきて、声も出なくなってきた……この壁をどうやって超えていくのかという初心なのだというのです。つまり世阿弥は、能を一生かけて完成するものとして考えていたのだと、土屋氏は語っています。肉体が衰えても、その先がまだあると考えたということで、ここが世阿弥のすごいところなのだというのです。世阿弥がこう言ったことで、のちの日本の芸能ははっきりと変わったと言ってよいでしょうと。今でも歌舞伎の舞台などで、年を取った役者が出てきて若い役や娘の役をやっても、我々が違和感なく見ていられるのは、日本人の美意識の中に、「老いてのちの何かがある」という期待があるからなのだといいます。逆に、役者が若くして亡くなったりすると、一番大事なものを見られずに逝ってしまったということになるのだと。日本の芸能では、「年を取ったあとの完成」ということが常に考えられているのだというのです。世阿弥は、日本の芸能の特徴ともいえる「老いの美学」を、身体芸の世界で初めて確立した人物なのだと、土屋氏は語っています。 では、世阿弥が言う「初心」とは、結局のところ何を意味するのかについて、土屋氏は次のように語るのです。世阿弥が言う初心とは、今まで体験したことのない新しい事態に対応する時の方法、あるいは試練を乗り越えていく時の戦略や心がまえだといえるでしょうと。「初心忘るべからず」とは、そのような試練の時に、自分で工夫してそれを乗り越えよう、あるいはその時の戦略を忘れずにいよう、ということなのだといいます。毎年新しく増える年齢というものはいろいろな面で壁になるけれど、それを超えていくための何かを発見しなさいということなのですと。ですから「初心忘るべからず」とは、現在広く使われているような「若い時の気持ちに戻って」という意味では決してないのだというのです。世阿弥が言っているのは、老いに向かっていく人生の中で、その時々の工夫をし、自分がどう生きていくのかを考えようということなのだと、土屋氏は語っています。 ところで、世阿弥が「風姿花伝」を書いたのは30代後半ですから、自身ではまだ「老後の初心」を経験していないわけですが、世阿弥はここで、父・観阿弥の姿を想い出して書いていたのだというのです。観阿弥は52歳で亡くなる15日前に、静岡の浅間神社で奉納の能を舞ったのですが、動きが少なく控えめなその舞いは、いよいよ花が咲くように見え、見物客も称賛を送ったのだといいます。まさしく「老い木に残る花」だったのです。すべてがなくなったところに一輪の花が残っている。それはむしろ、この花を残すために今までのすべてがあったといえるのではないか……そう感じたほど、世阿弥にとって強烈な印象を残す出来事だったのでしょうと、土屋氏は語っています。 【「却来」、そして「非風の手を是風に少し交ふる」とは？】 世阿弥は、「却来（きゃくらい）」という言葉も語っているのだそうです。却来とは、ある境地に達したあと、また元に戻るという意味なのだそうですが、世阿弥は、美しい歌舞中心の能を極めた役者も、年を取ったら能のルーツに近い鬼能をやるとよいと語っているのだといいます。その意味するところは、無理に美しく舞おうとするのではなく、自らの原点ともいうべきシンプルな動きの中に、自分が蓄積してきたものを出しなさいということだと思われると、土屋氏は語るのです。年を取ったら、シンプルに、そこにある力だけで舞うようなところに重きを置いて、鬼のよさを出す。しかもそれが「幽玄」である。それは、老いた者のみできることなのだと、土屋氏は語っています。 そして、老いてこその芸として、世阿弥はさらに、「若い頃にやってはいけないとされたことをやってもいい」とも語っているのだというのです。伝書「至花道（しかどう）」には、次のように述べられているのだといいます。やってはいけないとされてきたことを、やっていいとされてきたことに少し交ぜる（非風の手を是風に少し交ふる）のだというのです。なぜそんなことをするのかといえば、それは名人だからこそなのだと。正統なことは観客も見慣れたものになってしまっているので、たまに違うことをするとそれは名人にとって珍しいこととなり、観客にとっても面白いものとなるのだといいます。だから、やってはいけないことが、反対にやっていいことになるのだというのです。これも、年を取った役者にのみ許された、いわば自由の境地といえるでしょうと、土屋氏は語っています。世阿弥の人生論は、若年の若さの力から、中年の意志によって選択する世界に入り、老年の自由の境地へと進むのだというのです。ともすると、年を取ることは自由を失うことであると考えられがちですが、しかし、世阿弥が言うように、是風に非風を加えて何かをする自由は得ているのかもしれないのだといいます。つまり、「こうしなければならない」という規範からの自由であり、その自由を得ることが、老いてなお新しいものをつくり出すエネルギーにつながるのだというのです。少年の愛らしさが消え、青年の若さが消え、壮年の体力が消え……何かを喪失しながら、人間は人生の段階をたどっていくのだといいます。しかし同時に、この喪失のプロセスは、喪失と引き換えに何か新しいものを獲得するための試練の時、つまり「初心の時」でもあるのだと。老いたのちに初心がある。そしてそれは、乗り越えるためのものだ。そう考えると、これからの人生に何だか希望が湧いてくるのではないでしょうかと、土屋氏は語るのです。 【世阿弥の「初心忘るべからず」から日本酒を考える】 ここからは、世阿弥の「初心忘るべからず」を、日本酒の世界に当てはめて考えてみましょう。まず、世阿弥の語っている年齢は、「是非の初心」が24～25歳、「時々の初心」が34～35歳、「老後の初心」が50歳以降となっていますが、これは当時の能の世界の話ですから、それを現代の一般的な世界に当てはめるなら、「是非の初心」はこのままでもよさそうですが、「時々の初心」は34～45歳あたりともっと長くなるのではないかと考えられます。そして「老後の初心」は60歳以上と考えたほうがよいのではないかと思われます。よって、日本酒業界の個人における「初心」については、この程度の年齢の時にやってくると考えればよいのではないでしょうか。私は既に還暦を過ぎていますから、少し悲しいですがもはや「老後の初心」を考えなければならないというわけです。 次に、個人ではなく銘柄、ブランドの「初心」について考えてみたいと思います。日本酒に限らず、あらゆるブランドには、「プロダクト・ライフサイクル」というものがあり、「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」という4つの期があり、各期はおよそ同程度の長さになるといわれています。つまり、導入期から成長期への移行期間が短いブランドほど、成長期も短く、ブランド寿命は短くなるとされており、じっくりと時間をかけて成長したブランドは、比較的長い寿命となるとされています。日本酒のブランドは、じっくりと時間をかけてヒット商品になる場合が大半ですから、一般的な商品よりもブランド寿命は長いといえるでしょう。しかし、いくらブランド寿命が長いとしても、「プロダクト・ライフサイクル」は避けられません。たとえば、ヒットするまでの導入期が5年であったとしたら、その後の成長期も約5年、成熟期も約5年、衰退期も約5年ということになるわけです。そして、この導入期の時期にブランドに訪れる壁が「是非の初心」であり、成長期と成熟期に訪れる壁が「時々の初心」であり、衰退期に訪れる壁が「老後の初心」ではないかと、私は考えています。 世阿弥が言う初心とは、今まで体験したことのない新しい事態に対応する時の方法、あるいは試練を乗り越えていく時の戦略や心がまえであり、その時々に訪れる様々な壁を超えていくための何かを発見しなさいということでした。つまり、日本酒ブランドの新商品の導入期なら、教育的・啓蒙的な活動を中心として、そのブランドの認知度を高めていくことが必要になるということでしょう。次に、成長期になれば戦略を変え、ブランドならではの特徴を強調する活動を中心として、ブランド価値を高めていきながらファンを獲得していくことが必要になるということでしょう。続いて、成熟期になれば再び戦略を変え、利用メリットなど競合ブランドとの差別化を行う活動を中心として、シェアを拡大していきながらファンを拡大しいくことが必要になるということでしょう。そして衰退期になればまたも戦略を変え、ファン顧客を育て維持し続ける活動を中心として、支出も抑えていくことも必要になるということでしょう。さらに、成熟期の期間にその商品のブラッシュアップを実施し、ブランドを生まれ変わらせる活動を行い、新たな成長期を迎えさせるという戦略も考えられますし、また新たに他のブランドを生み出して、前のブランドが衰退期に入る頃に、新ブランドが成長期を迎えるようにするという戦略も考えられるのです。世阿弥の言う「是非の初心」（導入期）、「時々の初心」（成長期、成熟期）、「老後の初心」（衰退期）のそれぞれの壁が訪れる前に、その壁を乗り越える手だてを事前に考えておくということが、ブランド戦略には必要であるということになるでしょうか。 【「却来」、「非風の手を是風に少し交ふる」から日本酒を考える】 次に、世阿弥の言う「却来」から、日本酒を考えてみましょう。却来とは、ある境地に達したあと、また元に戻るという意味であり、つまり年を取ったら無理に美しく舞おうとするのではなく、自らの原点ともいうべきシンプルな動きの中に、自分が蓄積してきたものを出しなさいということでした。日本酒ブランドには50年、100年と続くロングセラーブランドも少なくありません。司牡丹酒造も創業からは420年を超えており、「司牡丹」というブランドも既に100年を超えています。そんな日本酒業界が世阿弥の「却来」から学べることは、ロングセラーブランドの場合、無理に流行りの日本酒に近づけようとするのではなく、自社の原点ともいうべきシンプルな酒質の中に、自社が長年蓄積してきた酒造技術の粋（すい）を出すべきであるということになるでしょう。 続いて、世阿弥の言う「非風の手を是風に少し交ふる」から、日本酒を考えてみましょう。「非風の手を是風に少し交ふる」とは、是風（やっていいとされてきたこと）に非風（やってはいけないとされてきたこと）を加えて何かをする自由が、老齢の名人にのみ許されているということでした。では、日本酒業界にとって非風とは何でしょうか？これはいろいろ考えられるかと思いますが、私は真っ先にオブフレーバーのことを思い出しました。これは、たとえば「老ね香」「生老ね香」「つわり香」「火落ち」等の、本来あってはならない異臭や異味のことです。これが近年は、価値観の多様化などにより、従来オフフレーバーとされてきた香味を個性としてとらえる傾向が生まれてきているようなのです。また、原因となるオフフレーバーが含まれていれば必ずオフフレーバーが感じられるというわけでもなく、人間が感じられる程度の量や強度があるかということがポイントであり、かすかに存在するだけであれば、深みや厚みにつながることもあるともいわれています。……と、いうことは、これらの「老ね香」「生老ね香」「つわり香」「火落ち」等の日本酒をあえて醸造し、それを従来の日本酒に少し混ぜることにより、ブランドの香味に独特の個性や深みや厚みを加えるという技術も考えられるのではないでしょうか。そんな中から将来大ヒットするような新ブランドが誕生する可能性もあり得るのです。ただし、醸造や貯蔵管理の失敗から出たようなオフフレーバーではダメであり、「あえて醸造し、少し混ぜる」という点がミソです。そこは、名人級の老舗蔵元のみに許された、「非風の手を是風に少し交ふる」であるといえるでしょう。 【「序破急」、「一調二機三声」、そして「時節感当」とは？】 さて、世阿弥は「序破急」という言葉も語っているのだそうです。「序破急」とは、世阿弥がオリジナルでつくったものではなく、もともとは雅楽にあった音楽や舞などの形式上の三区分を表す言葉だったのだといいます。大江氏は、この「序破急」について、「序」で静かに入り、「破」で高めていき、「急」でクライマックスを迎えるという、構成上の三つの要素を表すのだというのです。そして土屋氏は、世阿弥はすべてのことには「序破急」があり、能でも舞に限らず、物語のプロットや、一日の公演プログラムも「序破急」に則って構成するとよいと語っているのだといいます。また「花鏡」では、世阿弥が考え出したオリジナルとして、「一調二機三声」というものがあると説いているのだそうです。一調とは、笛の音によって心の中で音程を整えることで、次の二機では機会を探りながら目を閉じ、三声で発声する、という流れなのだといいます。つまり、あわてて発声するのではなく、心の中にタメをつくって、ゆっくりと進めていくということで、発声に限らず、足の運びや振る舞いなどのすべてに、この「一調二機三声」があるのだというのです。この中で重要なのは「機」であり、「機」とは機会やタイミングという意味ですが、世阿弥は自分の「機」だけでなく、観客の「機」を捉えて声を出すべきと語っているのだと、大江氏はいいます。 そして、この観客の「機」を捉えて声を出すということを、「花鏡」にある「時節感当」という言葉で詳しく説明しているのだそうです。能役者が舞台に出て謡い始めるときには、微妙な間や呼吸があって、単に舞台に出て声を出し始めるのではダメなのだといいます。楽屋から橋掛かり（揚げ幕から本舞台へつながる廊下）へ出た段階で、その日の観客の様子を感じ取り、観客たちが「さあ、謡い始めるぞ」と構える瞬間を外さずに謡い始めなければならないのだというのです。これは、早くても遅くてもダメなのだといいます。観客の心がこちらを向いた瞬間を見計らって声を出す、これを「時節感当」というのだといいます。このタイミングが少しでもずれると、観客の集中している気持ちが散漫になってしまい、そうなってから謡い出しても、もはや観客の気持ちに合わせることはなかなかできないのだというのです、観客の「気（機）」を感じ取る一瞬こそが、その日で最も大事なのだと、大江氏は語っています。さらに世阿弥は、次のようにも語っているのだというのです。「かるがると機を持ちて、破・急へと早く移るやうに能をすべし」……これは、「重苦しい序の部分は最初から飛ばして、いきなり盛り上がる破や急の部分から入ってもいい」という意味になります。「序破急」が大事であることは大前提として、場合によってはそんなものをすっ飛ばしてかまわないと、世阿弥は語っているのだというのです。当時の能はちゃんとした舞台の上だけでなく、神社の境内や貴族の酒席で演じることも多かったため、その場合お酒が入っている観客も多くいます。そんなところで「序」から始めようとすると、最初から重苦しくなりシラケるだけなのだと。ですから、最初はすっ飛ばして「破」または「急」から入りなさいと言っているのだというのです。「かるがると機を持ちて」とは、自分の気持ちを軽々と盛り上げて演じるということなのだといいます。ただし、位の高い人が遅れて来た場合などは、その貴人が席に着いた段階で再び「序」から入ったほうがいいとも語っているのだそうで、要するに状況に合わせて、融通無碍に演じるということですと、大江氏は語るのです。 【「序破急」、「一調二機三声」、「時節感当」から日本酒を考える】 この世阿弥の、「序破急」「一調二機三声」「時節感当」から日本酒を考えるなら、日本酒を楽しむ会や様々な日本酒イベントなどにおけるメニューの順番や心がまえとして、大変役立つといえるでしょう。たとえば、令和７年５月に開催された、司牡丹の隔月刊の会報紙「土佐発オトナノご馳走」団員の集いである「東京・オトゴチ団員の集い＜第19回＞」のメニューは、次のとおりです。まず「司牡丹Delight」（スパークリング純米吟醸酒）で乾杯して一旦お客様にインパクトを与えはしますが、その後は「司牡丹AMAOTO」（純米酒）と「先付」、「司牡丹・二割の麹が八割の味を決める」（純米酒）と「前菜」、という組み合わせで静かにスタート（序）します。続いては「船中八策・零下生酒」（超辛口・純米生酒）と土佐直送の「一本釣り初鰹のワラ焼き塩タタキ」という最強タッグの組み合わせが登場して盛り上がり、さらに立て続けに特別出品の「司牡丹大吟醸斗瓶囲い」（金賞受賞・大吟醸原酒）が1斗瓶のまま登場して一層盛り上がり（破）ます。お次は「船中八策・槽搾り黒」（超辛口・槽搾り純米酒）と「四万十ポーク生姜焼き」が登場し、さらに「全国燗酒コンテスト2024」にて「最高金賞」を受賞した「豊麗司牡丹」（純米酒）のベストなぬる燗と「四万十ノリとシラスの茶そば」が登場してクライマックスを迎え（急）ます。ラストは「マキノジン」（クラフトジン）のソーダ割とデザート（チョコあんこ大福・土佐小夏入り）で締めるという流れになっており、しっかりと「序破急」の構成になっているといえるでしょう。 また、日本酒を楽しむ会や日本酒イベント等で、私は進行役を務めたり、蔵元として語ったりする機会が大変多いのですが、そんな際に経験的に、「一調二機三声」「時節感当」「かるがると機を持ちて」を実践していたことに気づきました。まず話し始める前に心の中で話す内容を整え（一調）、次に周りのお客様全体の雰囲気を掴みタイミングを見計らい（二機）ながら、マイクの加減を考えてお客様全員に届くように声を発する（三声）のです。まさに「一調二機三声」となっています。中でも一番大事なのは、その場にいるお客様全体の雰囲気を掴んで、タイミングを見計らって声を発する（時節感当）ことだと考えています。日本酒イベント等では、蔵元がマイクを持つ順番が早い場合もあれば、遅い場合もあります。早い場合ならば、お客様もまだあまり酔っていませんから、語る内容は「序破急」の順番でも大丈夫ですが、遅い場合は既にお客様は結構酔っぱらっておりワイワイと盛り上がっていますから、語る内容が「序」から入ったなら誰も聞いてくれません。そこでこういう場合には、現状のお客様のテンションに一致させて（かるがると機を持ちて）、いきなり盛り上がる内容（「破」or「急」）から入ることにしているのです。ちなみにお客様のテンションと自分のテンションを一致させる私の方法は、お客様と一緒に酌み交わすこと。体感として会場全体の雰囲気を感じ取りながら、お客様の平均的な酔い具合に合わせてお酒を飲むのです。お酒に弱い蔵元さんにはお薦めできませんが、これを何度も実践していると、確実にその場の平均的なテンションを掴み取ることができるようになり、「かるがると機を持ちて」が実践できるようになるのです。
HOME 
