【門前編】「科学者たちが語る食欲」に学ぶ!<前編> 今回からは前後編の2回にわたって、「科学者たちが語る食欲~食べすぎてしまう人類に贈る食事の話~」(デイヴィッド・ローベンハイマー&スティーヴン・J・シンプソン著櫻井祐子訳サンマーク出版2021年1月20日発行 1,600円+税)を取り上げたいと思います。この書籍は、生物の摂食の仕組みを解き明かした圧巻のノンフィクションであり、正しい食欲を取り戻すための科学者たちの探究の書であると言えます。また、食欲をコントロールし、肥満・病気・短命をブロックする食べ方を科学的に解明した書であるとも言えます。ならば、日本酒に携わる者としては、学ぶべきことが多々あると考えました。特に、ついつい杯が進む辛口の日本酒は、ついつい箸を進ませて食の美味しさを一層引き立てますから、「酒道黒金流」としましては取り上げるべき価値のある書籍であるといえるでしょう。
【科学者が「食欲」について調べた全記録】 本書の原題は、「EatLiketheAnimals」。つまり、健康的に食べる方法を動物が教えてくれるというものです。オーストラリアの著名な生物学者(昆虫学者)ローベンハイマー氏とシンプソン氏は、「動物は何を食べるべきかをどうやって知るのか?」という疑問に答えを出すべく、30年以上にわたり研究を続けているのだといいます。バッタや粘菌、ヒヒ、そして人間にいたるまで、50種を超える動物を対象として、気の遠くなるほど大規模で手のかかる実験をしたかと思えば、アリゾナの砂漠からボルネオの森林、ヒマラヤの高山帯にまで足を運び、野生動物のフィールド研究を行い、世界中の様々な研究者たちと共に、あらゆる動物の食欲に関する共同研究を実施していくのです。そして2人は、驚くべき発見をします。どんな動物も、状況が許す限り、生存と繁栄にとって最適な比率でタンパク質・炭水化物・脂肪を摂っているのだというのです。いったいどうしたらそんな難しいことができるのかというと、そのカギは「食欲システム」にあるのだといいます。動物は一般に考えられているように、食べ物全般に対する単一の食欲を持っているのではなく、重要な栄養素、なかでもタンパク質・炭水化物・脂肪のそれぞれに対し、別々の食欲を持っているのだというのです。その中で、どんなときでも最も優先されるのが、生命の維持にとって特に重要なタンパク質に対する食欲なのだといいます。全ての動物は、この強烈なタンパク質欲に導かれて、食べるものを決めていたのだというのです。そして2人の著者は、オックスフォード大学在籍中の2005年に、「タンパク質レバレッジ仮説」を提唱します。ほかの動物と同様、「人間はタンパク質の摂取をほかの栄養素よりも優先し、タンパク質の必要量を摂取するまで食べ続ける」という考えです。レバレッジとはテコのことで、食事に含まれるタンパク質の比率がほんのわずか変わるだけで、摂取カロリーが大きく変わることを表しているのだといいます。また2人は、動物の最適な栄養摂取量を幾何学的に分析し図示する、「栄養幾何学」の概念も生み出したのだというのです。 【食欲は底なしの欲望か?】 ローベンハイマー氏とシンプソン氏は、まずバッタの実験からスタートし、次のことを明らかにしています。バッタの食物の選択肢が豊富な場合には、食欲システム同士が協力し合い、バッタは食物を組み合わせて正確に適切なバランスの食餌を摂取できる。だがバランスの悪い食餌しか得られない場合には、タンパク質と炭水化物が競争する。そしてバッタの場合、どんなときも最終的に競争に勝つのはタンパク質だったというのです。このような、バッタに見られることが、ヒトを含む全ての動物の食欲にも見られるのではないかという可能性を感じた2人は、ここから様々な研究に挑んでいくことになるのです。 まず2人は、食欲とは何なのか、食欲がどうやって魔法を働かせるのか(ときにはどうやって悪さをするのか)を正確に理解しておくことが役に立つのだといいます。またこれを理解することで、「動物は何を食べるべきかを、なぜ生まれながらに知っているのか」という質問に答えるための手がかりを得ることもできるのだというのです。食欲を理解するうえでまず注目すべきは、私たちの食べる全てのものに、自然がそれぞれ全く異なる味や風味を与えたということだといいます。たとえば人間にとって、焼けた肉の塊は一握りのベリーとはまるで味が違うし、ベリーはみずみずしい濃緑色の葉とも違う味がするのだと。これほどの多様性は、偶然ではあり得ないし、また食事中に私たちを飽きさせないために多様な風味が存在するわけでもない(その働きは確かにあるが)のだというのです。こうした特徴的な風味は、食品中の化学成分、すなわち栄養素を指し示しているのだといいます。つまり、味は「栄養の種類」を示すのだというのです。 タンパク質、脂肪、炭水化物が、エネルギーを供給し、そのほかの重要な機能を果たすうえで、それぞれ異なる役割と意味を持っていることを考えれば、それらを判別し、食品に含まれているかどうかを検出する能力を、自然が私たちに授けたことは何ら不思議ではないのだといいます。この能力は当たり前のように考えられているが、これがなければ誰一人として今この世界に存在していないのだと。この能力があるからこそ、私たちはどの栄養素がどの食品に含まれているか、何を食べるべきか、避けるべきかを知ることができるのだというのです。適切な食べ物を探す必要性があるからこそ、糖に心地よい甘みを感じ、タンパク質豊富な食品にあの舌鼓を打つような美味しさを感じ、脂肪にコクのあるバターのような食感と風味を感じるのだと。この能力がなければ、いったいどうやって栄養素を区別できるというのか、と語っています。メスのクロバエやバッタは、糖とアミノ酸の味を足や腹部の先端で感じるのだといい、私たち人間も口の中以外に、腸にも味覚受容体を持ち、食物が消化の過程で分解される間も栄養素を追跡しているのだそうです。また栄養素が腸で吸収されて血流に入ってからも、肝臓や脳を含む様々な器官に分布する味覚受容体が検出を続けるのだといいます。また脳にある神経回路「食欲制御中枢」は、血流と肝臓、腸からの信号を収集して、空腹感と満腹感を引き起こすというのです。さらに、人間は主要栄養素だけでなく、無機塩を含む一部の微量栄養素を検出できる味覚器も、舌をはじめ全身に持っているのだといいます。特定の味と風味は、食物を判別し、それぞれに含まれる栄養素の量に関する情報を提供しますが、これらは摂取の方程式のいわば「外側」に当たる部分だというのです。この情報をもとに、動物は何を食べるかを決定できるのだと。しかし、動物にとってそれと同じくらい重要なもう1つの情報は、味と風味から知ることはできないのだといいます。すなわち、動物がその時々に各栄養素をどれだけ必要としているか、ということであり、方程式のこの「内側」の部分をつかさどるのが、「食欲システム」なのだというのです。 2人は、食欲を、満腹になるまで食べるよう動物を駆り立てる、たった1つの強力な渇望とみなすのは間違いだと指摘します。単一の食欲では、栄養素をバランスよく組み合わせる役には立たないのだと。体が要求する一つひとつの栄養素を追跡するには、別々の食欲が必要なのだというのです。しかし動物はその一方で、生体システムを効率的に機能させるために、その複雑さを一定の範囲にとどめる必要があるのだといいます。この理由から、生存と健康に必要な数十種類の栄養素の一つひとつに特化した食欲を持つわけにはいかないのだというのです。それに代わるものとして、バッタにはタンパク質欲と炭水化物欲の2つがあることを発見したのだと。では人間のように、より複雑な種が生存し健康でいるためには、最低でいくつの食欲があればいいのかと、2人は問いかけます。その答えは、タンパク質、炭水化物、脂肪、ナトリウム(塩)、カルシウムの5つの食欲のようであるというのです。これらは3つの主要栄養素と、2つの特に重要な微量栄養素であり、これらは私たちが食物の中で味を識別できる栄養素にぴったり一致するのだといいます。これらの食欲が、一見不可能な難題を実に鮮やかに解決してくれるのだと。私たちの食欲は、特定の風味に照準を定め、生存に必要なものだけを食べる案内役になるように進化したのだというのです。 そして2人は、これら5つの栄養素(「ビッグ5」と2人は呼ぶ)が進化の過程で選び出されたのには、特別な理由があるのだといいます。第一に、これらの栄養素は、非常に正確な-―多すぎず、少なすぎない――水準で食事に含まれている必要があるから。第二に、これらの栄養素の濃度が食品によって大きく違うから。たとえば米からタンパク質の栄養素を得ようと思ったら、ステーキよりもずっと多くの量を食べる必要があるのだと。第三に、これらの栄養素の一部は、祖先が暮らしていた環境ではめったに見つからなかったので、それを探し出すことに特化した生物学的機構が必要だったから……だというのです。たとえば、ナトリウムとカルシウムは、かつて非常に希少だったため、それぞれに専用の食欲と味覚受容体が割り当てられたのだといいます。人間以外の動物もそうで、ゴリラは十分な塩分を摂取するために樹皮さえ食べるし、ジャイアントパンダにはカルシウムは特に重要で、繁殖に十分な量を得るために長距離を移動するというのです。そのほかの重要な栄養素、ビタミンA、C、D、E、K、B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6、B7(ビオチン)、B9(葉酸)、B12、それにミネラルのカリウム、塩素、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素、クロム、モリブデン、セレン、コバルトなど、なぜ人間はこれらの食欲を発達させなかったのだろうと、2人は問いかけます。1つには、これらの栄養素は普段食べているものに豊富に含まれるため、ビッグ5さえ適量を摂取していれば、自然とこうした栄養素も得ることができるからだというのです。 しかし食欲は、ただ食べ始めるよう体に指示するためだけに存在するのではないのだといいます。同じくらい重要な働きが、「いつ食べるのをやめるべきか」を知らせることだというのです。食物が消化されて栄養素が取り出され、血流に吸収されると、脳に満腹信号が送られるのですが、このプロセスの欠点は、信号が発動するまでに時間がかかることだといいます。脳が「ストップ」のメッセージを受け取るまでに、食べすぎてしまう恐れがあるのだというのです。ドカ食いをして、10分前に満腹になっていたことに気づかず食べ続けた経験は誰にでもあるでしょうと。これを避けるにはどうしたらよいのか?食べるペースを遅らせ、早く胃にたまり、栄養素が血流に吸収され脳にその存在を知らせるまで、時間を稼いでくれる何かが必要なのだといいます。さいわい、自然はその「何か」も用意してくれたのだというのです。満腹感を高め、胃排出の速度を遅くし、胃腸を拡げるもの……それは「食物繊維」なのだといいます。バッタなどの草食動物やヒトなどの雑食動物にとって、食物繊維は植物性食物の嵩(かさ)を増す主な成分なのだというのです。食物繊維は植物の細胞や組織の構造を支え、主にヒトの消化酵素では分解できない複雑な構造の炭水化物でできているのだといいます。しかし一部の食物繊維は、腸内に棲む微生物によって分解される――これら数兆の微生物を総称して、「微生物叢」(マイクロバイオーム)というのだそうです。腸内微生物は食物繊維の餌を得る見返りに、体が必要とする重要な栄養素(短鎖脂肪酸、ビタミン、アミノ酸など)を産生するのだといいます。また免疫系を支え、腸を健康に保ち、心の健康にもよい影響をおよぼすのだというのです。そして、こうした全ての働きに加えて、満腹感を生み出す信号を発するのだといいます。微生物叢は食欲制御システムの重要な部分を占めているのだと、2人の著者は語るのです。 【人間は動物と違う生物か?そして仮説、タンパク質ファーストへ】 栄養バランスの最適化は、あらゆる動物に見られる普遍的な行動なのか?そして、それは人間にも当てはまるのか?この問いに答えるため、2人の著者は他の多くの研究者らと共に、様々な実験に挑んでいきます。そしてゴキブリや、捕食動物であるクモ、ネコやイヌといった意外な動物でさえ、適切な栄養に向かうミサイルのような複数の食欲を利用して、バランスの取れた比率の食餌を得ることができるという結論に達するのです。これまで、採餌理論の一般的な考え方では、餌生物の組織には肉食動物に必要な比率で栄養素が含まれているから、捕食動物は栄養摂取のバランスを図る必要がないとされていたのだといいます。しかし実際には捕食動物は、栄養摂取のバランスを図るために、餌を選択していました。そして2人の著者は、採餌理論のそもそもの前提が誤っていたということに気づくのです。その誤りとは、「動物の身体組成が一定でずっと変わらない」という仮定にあるのだと。実際には、食べ物や季節、健康状態などの多くの要因によって大きく変化するのだといいます。寒い冬の長い冬眠から目覚めたばかりのゴミムシ(捕食動物)を採集し、実験を行ったのだそうです。冬眠の間、昆虫は絶食状態にあり、前もって体内に貯蔵しておいた脂肪を燃やして生きているのだといいます。そのため採集されたときにはとても痩せていて、脂肪を早急に必要としているはずだと分かっていたのだと。この状態が果たしてゴミムシの餌の選択に影響を与えるかどうかを調べたのだというのです。結果、ゴミムシは最初、脂肪が豊富な餌を選び、その後貯蔵脂肪が増えるにつれて、脂肪の摂取量を次第に減らし、タンパク質の摂取量を増やしていったのだといいます。そのゴミムシは繁殖の準備期に入っており、昆虫にとって繁殖はタンパク質を多量に使うプロセスなのだというのです。そして、この昆虫にはバランスの取れた「単一の食餌」というものは存在しないのだということが、これではっきりしたのだといいます。栄養ニーズはライフサイクルを通じて変化するし、また栄養選択は、活動レベルによっても変わるのだというのです。時間を変えてバッタを飛行させる実験では、飛行時間が最も長いバッタが、タンパク質よりも炭水化物の比率の高い食餌を選択したのだといいます。炭水化物は、飛行に必要な燃料源なのだということなのです。 こうして2人の著者は、栄養バランシングは実際に種を超えて広く見られ、例外は1つとしてないという答えを得ます。しかし現実世界には、動物が全ての栄養素を適量摂ることができない状況がままあるのだといいます。そうしたアンバランスはごく頻繁に生じるため、動物はいわゆる「プランB」を持っているに違いない、つまり食欲システムには、必要な栄養素が得られない状況に対処するための方法があるはずだと、2人は推測するのです。あるものの過剰摂取と別のものの過少摂取の折り合いをつけ、バランスさせるための対処法が必要になるはずだと。まさにこれが、バッタ実験が答えようとしていた問いであり、ではバッタにとってのプランBとは何かというと、その答えは、「バッタは最終的に、ほかの栄養素よりタンパク質を優先させ、タンパク質の摂取ターゲットを達成するために必要とあれば、発達を遅らせ、肥満になることも厭わない」だったのだといいます。 では人間にとってのプランBとは何なのか?2人の著者は、いよいよこの研究に挑んでいくのです。スイスアルプスの山奥の山小屋に10人の大学生を連れていき、1週間の実験を実施したのだといいます。被験者は、自由に食事が選択できた最初の2日間の第1段階では、予想摂取量に近いカロリーを摂り、タンパク質のカロリー比率は約18%だったのだというのです。これまでの研究で、世界中の人々の標準値として15%から20%という比率が示されており、この比率は予想どおりだったのだといいます。そして、被験者が「高タンパク質食」のグループと、「高炭水化物・高脂肪食」のグループに分けられた第2段階では、被験者全員が自由選択段階と同じタンパク質の摂取比率を維持したのだというのです。つまりタンパク質の摂取ターゲットを達成するために、高炭水化物・高脂肪食だけを与えられたグループは、自由選択段階に比べて総摂取カロリーを35%増やさなくてはならず、他方高タンパク質食だけを与えられた被験者は、摂取カロリーを38%減らしたのだといいます。被験者の大学生の反応は、明らかにバッタと同じだったのだと。タンパク質に対する食欲が、食品の総摂取量を決定していたように思われたのだというのです。とはいえ、この実験が示したのは、複雑で数が多く多種多様な人間のうちのほんの小さな大学生の集団が、コントロールされた状況下で、ある特定の方法で摂食したということにすぎず、これは答えではなく単なる示唆にすぎないのだといいます。しかしこの実験は、非常に興味深い結果を示しており、バッタとヒトの行動の類似性を確認したことで、自信を持って次の仮説を立てることができたのだというのです。すなわち、「タンパク質が不足しているがエネルギーが豊富な食環境では、ヒトはタンパク質の摂取ターゲットを達成しようとして、炭水化物と脂肪を過剰摂取する。だが高タンパク質食しか得られない場合は、炭水化物と脂肪を過少摂取する。」という仮説だと。このことが持つ意味は、計り知れないほど大きいのだといいます。身体活動で消費されるカロリーが不変と仮定すれば、高炭水化物・高脂肪食はやがて体重増加を招き、高タンパク質食は体重減少につながるのだと。いずれにせよ、どんな場合にも最優先されたのは、一定量の――多すぎず、少なすぎない量の――タンパク質の摂取であるように思われたのだというのです。これが、私たちが食べるほかの全てのものに影響をおよぼすタンパク質の力、すなわち「タンパク質レバレッジ」であるといいます。高タンパク質食が減量を促すのは、このためだということです。そして、「肥満:タンパク質レバレッジ仮説」の論文を発表し、人間栄養学の分野に衝撃を与えたのだといいます。さらにこの仮説を証明するために、2人は新たな実験を繰り返していき、解明されなくてはならない新たな疑問に行き当たります。それは、なぜカロリー不足のリスクを負ってまで、タンパク質の過剰摂取を避けようとするのだろうという疑問だったのだというのです。 【「個体の長寿」か「次世代の繁殖」かの分かれ目】 タンパク質の過剰摂取に何らかの代償が伴うかどうかを明らかにするために、2人の著者はショウジョウバエを使った実験を行い、主要栄養素の摂取比率の違いがハエの生涯(誕生から死まで最長でも約2ヶ月)におよぼす影響を調べたのだといいます。そして、最長寿命と最多産卵数には、それぞれ別の食餌が必要だったのだというのです。「低タンパク質/高炭水化物食」で飼育されたハエが最も長生きし、「高タンパク質/低炭水化物」は早死を招いたのだといいます。また、タンパク質比率が高めで炭水化物比率が低めの――だがタンパク質比率が高すぎない――餌で飼育されたハエが、最も多くの卵を産んだのだと。では、より複雑な動物、たとえば哺乳類についてはどうなのだろうということで、続いてはマウスを使った大規模研究に着手するのです。この研究では、タンパク質、炭水化物、脂肪、食物繊維の比率の異なる餌で、マウスの生涯にわたる飼育実験を、5年間にわたって実施したのだといいます。そして、マウスもハエと同様、「低タンパク質/高炭水化物食」が最も寿命が長く、最も中高年期の健康状態が良かったが、最も繁殖能力が高かったのは、「高タンパク質/低炭水化物食」だったのだというのです。低タンパク質食は、成長と繁殖につきものの損傷からDNAと細胞、組織を守る、長寿経路を作動させることによって寿命を延ばしたのだといいます。長寿経路は、イースト細胞から人間までのあらゆる生物に普遍的な仕組みなのだそうです。 さらにこの研究から、「肥満は健康に悪い」とは断言できないという結果も得られたのだといいます。「低タンパク質/高炭水化物食」のマウスは太っていたのだそうですが、その理由は、高タンパク質食のマウスよりも多くのカロリーを摂取したからなのだそうです。そこで、「低タンパク質/高炭水化物食」を与えられ、長寿で健康だが太っていたマウスと、「低タンパク質/高脂肪食」の同じくらい太っていたマウスを比較したところ、重要な違いがあったのだといいます。後者の集団は寿命が短いうえにかなり不健康だったのだといいます。つまり、ただ脂肪に対する炭水化物の比率を変えるだけで、比較的良性の肥満か、不健康な肥満を設計できるということになるのだというのです。どちらのケースでも、マウスはより多くのタンパク質を得ようとして食べすぎたが、脂肪の摂取を増やす方が、炭水化物の摂取を増やすより不健康になったのだといいます。では、良性の肥満と不健康な肥満の違いはどこから来るのかというと、「低タンパク質/高炭水化物食」のマウスは、「低タンパク質/高脂肪食」に比べ、腸内により健康的な微生物叢を持っていたことに加え、肝臓から放出される「FGF21」(繊維芽細胞成長因子21)と呼ばれるホルモンの濃度が、「低タンパク質/高炭水化物食」のマウスは驚くほど高かったのだというのです。このように、肥満は予想以上に複雑であり、単にやせているからといって、健康で長生きできるわけではないのだといいます。それどころか、「高タンパク質/低炭水化物食」のやせたマウスは、全てのマウスの中で最も寿命が短かったのだと。なぜなら、高いタンパク質対炭水化物比は、急速な老化に関連する経路を激しく活性化させ、細胞とDNAの修復・維持メカニズムを弱め、老化やガン、そのほか慢性病を促進する比率でもあるからだというのです。 こうして、タンパク質、脂肪、炭水化物、そして食物繊維のダイヤルをひねることで、インスリン抵抗性を伴う/伴わない肥満を予防することも起こすことも、寿命を延ばすことも縮めることも、繁殖を促進することも阻害することも、筋肉量を増やすことも減らすことも、腸内微生物叢や免疫系を変化させることも、それ以外の多くのこともできるという結論に達したのだといいます。2人の著者は、多くの目的を実現するために食事を調整する新しい方法を発見したのだというのです。