【門前編】「スローな生産性」から日本酒業界を考える!<後編>

First part of the gate

【門前編】「スローな生産性」から日本酒業界を考える!<後編> 前回と今回は、前後編の2回にわたって、「SLOW仕事の減らし方~『本当に大切なこと』に頭を使うための3つのヒント~」(カル・ニューポート著高橋璃子訳ダイヤモンド社2025年1月28日発行1,700円+税)をベースとした内容を取り上げています。この書籍の原題は、「SlowProductivity」(スローな生産性)という逆説的なタイトルで、2024年に米国で大ベストセラーになったのだそうです。著者のカル・ニューポート氏は、会議やメールの多さ等を成果と錯覚する“疑似生産性”を批判し、「ゆっくりと意味ある成果を積み重ねる働き方」こそ持続可能だと説きます。常に速さを求められる現代の職場とは対照的に、長期的な価値を生むためには“遅さ”が不可欠だと論じるのです。新時代の潮流は「スロー」……日本酒業界にとっても、大きなヒントが得られるのではないかと考えています。 【神田昌典氏の「スローな生産性が生む価値」とは?】 日本におけるダイレクト・マーケティングの第一人者、神田昌典氏が「日経MJ」に連載中の「神田昌典の未来にモテるマーケティング」<2025年9月8日号>のタイトルは、「スローな生産性が生む価値」というものでした。神田氏は、「SlowProductivity」(スローな生産性)を読み始めた直後、船井総合研究所主催の経営戦略セミナーに参加し、豆腐メーカー相模屋食料(前橋市)の鳥越淳司社長の講演を聞いたのだというのです。ホテルの大ホールは満席の1000人を超える経営者が集まり、会場の熱気がテーマへの関心の高さを物語っていたのだといいます。相模屋食料は、年商を2014年の157億円から10年で410億円に伸ばしたが、壇上で語られたのは数字や契約の細部ではなく、「スローな生産性」と響き合う経営の姿だったのだというのです。同社は2012年以降、経営危機に陥った全国の豆腐メーカー12社を「救済型M&A(合併・買収)」で再建してきたのだといいます。一般にM&Aは規模を追求し、生産効率やシェア拡大を目的とするが、しかし相模屋の選択はその逆だったのだというのです。単なる規模拡大ではなく、地域ごとに根付いた「地豆腐文化」を蘇らせ、失われた職人技を取り戻すことに戦略の力点を置いたのだといいます。鳥越社長が再建の場で、まず掲げるのは「地元で親しまれてきた伝統の味を取り戻すこと」だというのです。職人たちがかつて誇りを持って作っていた一品を復活させる。それが社員の笑顔と自信を取り戻す出発点となる。結果として生産効率や品質が高まり、経営が安定へと向かう。意味ある成果はスローでなければ生まれない……この原則を実証する事例といえると、神田氏は語るのです。 そして神田氏は、こうした「意味による差別化」は、日本国内でも広がりを見せているのだといいます。長く「安さ=正義」とされてきた消費社会において、近年は「値上げ容認」の空気が強まっているのだというのです。背景には、むしろ安価すぎるものに対する警戒心があるのだといいます。価格だけを武器にした商品は、「どこかで無理をしているのではないか」「品質や文化が犠牲になっているのではないか」と感じさせるからだというのです。だからこそ、意味や物語を持った商品が支持されるのだといいます。職人技を復活させる、地域独自の味を守り抜く……こうした意志が価格の裏に見えるとき、人々は安心して選択するのだというのです。値上げ容認の本質は、単なるコスト転嫁ではなく、消費者が「価格の安さよりも意味を重視する時代」へと移行していることを示しているのだといいます。生成AI(人工知能)が大量に情報を生み出す時代にあって、逆に意味が失われつつあるのだと。だからこそ人間の役割は「意味を生成すること」にあるのだというのです。意味とは何かというと、それは単にモノを手に入れる効率ではなく、その商品の背景にある物語、人と人とのつながりなのだといいます。職人の技と地方独自の味を未来へと手渡すように、購入者とのつながりに意味を見いだす営みへと、ビジネスの力点は確実にシフトしはじめていると、神田氏は語るのです。 この神田氏が語る「スローな生産性」が生む価値、「意味による差別化」の話と、相模屋食料の事例には、日本酒業界の復活にとって極めて多くのヒントが潜んでいると感じています。特に、相模屋食料の「救済型M&A」を成功に導くための、「地域ごとに根付いた地豆腐文化を蘇らせる」、「失われた職人技を取り戻す」、「地元で親しまれてきた伝統の味を取り戻す」という戦略は、そのまま日本酒業界を復活に導く切り札になるのではないかと感じるのです。「前編」でも指摘したように、本来日本酒はすべからく、その地域で地元の食文化とともに楽しまれてきた「地酒」であったはずです。しかし近年、全国の日本酒が地域の風土や食文化からドンドンかけ離れていっていると感じているのは、私だけではないと思います。吟醸酒の登場とその普及により、日本酒の地域ならではの個性はドンドン薄れていき、さらに極めてフルーティな香りを生成する新酵母の登場により、日本酒は全国的に「グルコース甘口化」していき、さらにさらに、そのようなタイプの日本酒は様々なコンテストで入賞しやすく、若者にもウケがいいということが、全国の日本酒の甘口化傾向に拍車をかけているのです。つまり、地域ごとに根付いていた地酒文化は、地元で親しまれてきた伝統の味は、いまや全国的に絶滅が危惧されているといえるのではないでしょうか。ならば今こそ、そんな地酒文化を、そんな地元ならではの伝統の味を、蘇らせて取り戻すという戦略を、私たちは採用するべきなのではないでしょうか。そこでここからは、本書(「SLOW~仕事の減らし方~」)からは離れますが、相模屋食料の戦略について、学んでみたいと思います。 【「豆腐か白い塊か」…相模屋食料の経営哲学】 まず、豆腐市場は約5000億円から6000億円の規模であるとされており、相模屋食料は400億円を超える年商(2024年)であるため、豆腐市場の約8%を占めていることになります。鳥越淳司社長が入社時の2002年の年商は28億円だったそうですから、22年で14倍以上という驚異的な躍進を遂げたことになるわけです。そんな急成長を遂げた秘訣について、鳥越社長は、前職で経験した苦い体験が原動力のひとつであったと語っています。かつては雪印乳業に勤めていたそうで、当時発生した食中毒事件で謝罪に行った先のお客様からの、「なぜこんなことに?」という質問に対し、製造現場のことを知らずに何も答えられなかったことが、すごく罪深いことだと感じたのだというのです。そのときに、ものづくりの現場を知ることの大切さを痛感したため、相模屋食料入社後は豆腐づくりに没頭したのだといいます。ちなみに、相模屋食料創業家の三女と結婚し、同社に入社した当時は、木綿豆腐と絹豆腐の違いも分からないほど知識がなかったのだそうです。入社時は、毎朝1時から豆腐の手づくりに2年間携わり、その結果職人レベルで豆腐をつくれるようになり、それが大きな強みになっているのだといいます。豆腐づくりを熟知して、初めて手応えを感じられた商品は、44億円の売り上げを記録している大ヒット商品、「焼いておいしい絹厚揚げ」だったのだそうです。「焼いておいしい、もっちりとした食感」をコンセプトに開発したもので、「もともとそのような食感に市場はなかったのですが、私たちが市場を切り開きました。」と、鳥越社長は語っています。 他の豆腐屋との違いについて鳥越社長は、美味しい豆腐を追求する姿勢が私たちの特徴であると語っています。残念ながら、この点を軽視しがちな豆腐屋が多いのだというのです。美味しさへのこだわりを持続するのは簡単なことではなく、最初は「美味しい豆腐をつくろう」と頑張ってやっていたところが多かったのでしょうが、豆腐というものはずっとつくっていると価格競争になるのだといいます。「美味しい」は数値化できないため、数値化できる価格や効率性に徐々にシフトしていって、本来の目的である“美味しさ”を見失ってしまうのだというのです。美味しいものを追求してつくるものと、効率を上げようとしてつくるものとでは、やっぱり出来上がりは同じように見えても全然違いますから、そこは大きな差になるのだといいます。さらに鳥越社長は、数字だけに捉われる経営では、豆腐ではなく「白い塊」をつくってしまうことになるのだというのです。この比喩は、質の高い製品をつくることと、数値目標を達成することとの間に存在する緊張関係を示しているのだそうで、鳥越社長は、原価削減や売上目標よりも、まず「美味しいものをつくる」ことに焦点を当てているのだといいます。 【相模屋食料の救済型M&A】 近年、年間で500軒~1000軒の豆腐店や豆腐メーカーがなくなっている状況の中、1社でも救いたいとの思いで2012年から「救済型M&A」を始めたのだと、鳥越社長は語るのです。これまでに12社の「救済型M&A」を手掛けてきたのだといいます。そして、実は昔は輝いていた会社が多いのだといい、しかし価格競争に飲まれて破綻寸前になっているのだというのです。やはり、価格だけで戦うと本来の品質が犠牲になり、さらに困難な状況に追い込まれるという、負のスパイラルに巻き込まれてしまうのだといいます。そして鳥越社長は、私たちの役割は、その会社が持っていた魅力と黄金時代の商品を取り戻すことだと語るのです。そういった各店の地域に根差した主力商品のことを、私たちは“地豆腐”と呼んでいるのだと、鳥越社長は語っています。売り上げに重きを置いてしまった職人さんは、“地豆腐”の魅力を忘れてしまったかもしれませんが、お客様からすれば「これこれ、これが欲しかったんだ!」と喜んでいただけるのだと語り、そんな潜在需要はかなりあると考えているのだというのです。 一方で、業界からは「潰れそうな豆腐屋を再建するなんて絶対できない」と疑問視されていたのだといいます。しかし、全て黒字化させてほぼ債務超過も解消しているのだというのです。もともと彼らが持っていた大切な主力商品を軸にしてやれば、再建可能なことが証明できたと、鳥越社長は語っています。再建は「伝統と革新」という方針で進め、昔ながらの豆腐を守り、再生させることで伝統を大切にし、同時に新しいカテゴリーの商品を生み出して、革新を追求しているのだというのです。もし片方だけであったなら、おそらく今の位置づけにはいなかっただろうといいます。このような製品を生み出せるのは、豆腐づくりの基盤があるからこそで、伝統ある豆腐屋というのは、もの凄い技術を必ず持っていて、それぞれ違う得意分野を持っているのだというのです。ですから、何か新しい豆腐をつくろうとしたときに、鳥越社長がやってきた豆腐づくりと各社が持つ独自の技術を組み合わせることで、新たな可能性が生まれるのだといいます。その結果、革新的な豆腐カテゴリーが形成され、うまく回っているのだと思っていると、鳥越社長は語るのです。 グループ化の背景にはどんな理由があるのかについて、鳥越社長は、「破綻しそうだから助けてくれ」という声があったからだといいます。どこからでも「助けてくれ」と言われれば、必ず飛んで行って話を聞いているのだというのです。救えるなら何としてでも救いたいという気持ちではありますが、ただ「2週間後には潰れる」というような急を要する案件も多く、残念ながら救えなかった企業もあったのだといいます。しかし基本的には、どんな場所でどんな状況であろうと、助けを求められたら取り組むというスタンスなのだというのです。再建に当たってのポイントは、企業が持つ強みを生かすことであり、それ以外は思い切って切り捨てるのだといいます。一点に集中し、「美味しいものをつくろう!」と全員で力を合わせるのだというのです。美味しいものができれば、それが売れ、ずっとつくり続けられるようになるからで、こだわってつくり続けることで、シンプルになり無駄が省かれるのだといいます。美味しく、お客様に喜ばれるものをつくり続けることができれば、無駄がない分黒字化につながるのだと語り、ただ当たり前のことをやっているまでで、実はそれが黒字化への一番の近道なのだと、鳥越社長は語るのです。 赤字に苦しむ豆腐メーカーの多くが共通して陥っている罠は、数字に目を奪われてしまうことだといいます。鳥越社長は、買収する企業に対して、数字の話は一旦置いて、その企業が最も良かった時期や売れ筋商品について振り返ることを促すのだといい、これは原点回帰によって売り上げを持ち直すための重要なステップなのだというのです。そしてその財務戦略は、「N字再建」として知られているのだそうです。これは、既存の設備で黒字化を達成した後、設備投資を行い、再び赤字になる可能性を受け入れるという方法なのだというのです。これにより、長期的な成長軌道に乗せることができるのだといいます。投資による一時的な赤字を受け入れることで、最終的には市場トレンドに乗った設備更新と成長を実現するのだというのです。 【相模屋食料の豆腐づくり:伝統的な豆腐を「極める」!「進化させる」!】 相模屋食料の成長の礎は、「“美味しい”を武器に新市場を創りあげる」ことなのだといいます。そして新市場創出のカギは、「伝統的な豆腐を極める」ことにより、古くて新しい市場を創出し、「伝統的な豆腐を進化させる」ことにより、今までにない新しい市場を創出することなのだというのです。前者の「伝統的な豆腐を極める」は、もっと美味しい「ホットパック製法」、「リバイバルエンジニアリング」、破綻する豆腐メーカーの「救済再建」の3本柱から成るのだといいます。まず「ホットパック製法」とは、従来のような、できあがった豆腐を一旦水にさらす工程を最小限にし、熱々のままパック詰めを行うことで、できたての美味しさを閉じ込めることを可能にしたもので、豆腐の温度変化が少ない分、品質が安定して美味しさが長持ちし、日持ちも長くなったのだというのです。さらに、従来の水中でパックに合わせて豆腐を動かすやり方では、水の抵抗があるため、パック詰めのスピードに限界がありましたが、豆腐を主役に考えた“逆転の発想”で、豆腐に合わせてロボットがパックをかぶせることを考案し、驚異的なスピードでパック詰めを行うことで、これまで以上に安定した品質で豆腐を生産し続けることが可能になったのだといいます。次に「リバイバルエンジニアリング」とは、伝統の豆腐づくりの“技”を復活させるというものです。相模屋食料は、「おいしいおとうふで日本の豆腐文化を守り抜き、そしてその未来をつくりだす。おいしいおとうふは一つではない。地方地方に根づいたおとうふの文化がある。実は今、そのおとうふ文化が存亡の危機に立たされている。その文化を、地方のおいしいおとうふを盛り上げることで守っていく。そして、新しくも明るいおとうふの未来をつくっていきたい。」……そんな思いで取り組んでいるのだといいます。続いての破綻する豆腐メーカーの「救済再建」については、前項の「相模屋食料の救済型M&A」にてご紹介したとおりです。 後者の「伝統的な豆腐を進化させる」という豆腐づくりとは、豆腐の“常識”をアップデートすることにより、新しい市場を創出することなのだといいます。この分野での相模屋食料の最初の挑戦は、伝説のアニメ「機動戦士ガンダム」に登場する敵軍の主力量産型モビルスーツ「ザク」の頭部をモチーフにした、「ザクとうふ」を2012年に発売したことだったのだそうです。この商品は、SNS等で話題となり、爆発的なヒットを記録したのだといいます。同社にとって、この商品の発売は大きな転機だったのだといい、これは鳥越社長の攻めの姿勢を示し、その後の多くの革新的な商品開発につながっていったのだそうです。「ザクとうふ」は同社にとって、豆腐の世界を広げる“切り込み隊長”という位置づけとなったのだといいます。そして「ザクとうふ」は、単なるヒット商品ではなく、豆腐の世界を広げる“3つの初”を実現したのだというのです。其の1が、初めて30~40代男性が豆腐売場に殺到したことであり、其の2が、初めて何もつけずにそのまま豆腐を味わうという体験を実現した(※ザクは緑色であることから、「ザクとうふ」は枝豆を使用した枝豆豆腐であるため、そのまま食べても美味しいのだそう。)ことであり、其の3は、1機(1丁)を1人で丸ごと食べるという体験も実現したことなのだといいます。「ザクとうふ」は、豆腐への関心がもともと薄かった方々にも、あらためて関心を持っていただける大きなきっかけとなったのだというのです。 この「ザクとうふ」の爆発的ヒットから始まった、相模屋食料の「伝統的な豆腐を進化させる」豆腐づくりは、その後凄まじい勢いで進化を遂げ、ヒット商品を連発していくことになります。2013年に発売された、レンジ調理の豆腐惣菜という新ジャンル「ひとり鍋」シリーズ(「ゆず香るおだしの湯豆腐」「あさりの旨み!海鮮スンドゥブ」「山椒がピリッときいた麻婆豆腐」等)は、累計出荷数が2億5千万パックを超え、シリーズ累計で41億円を超えているのだというのです。また、「おだしがしみたきざみあげ」は、6年で600万パック越えの大ヒット商品となっているのだといいます。さらに、豆腐を超えた豆腐「BEYONDTOFU」シリーズは、市場に新風を吹き込み、注目を集めているのだというのです。このシリーズには、Barタイプの「BEYONDTOFUBAR」、プレーンタイプの「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」や「うにのようなビヨンドとうふ」、キューブタイプの「植物性100%VeganCheese」、シュレッドタイプの「豆乳でつくった植物性100%ピザ・シュレッド」等があるのだといいます。さらに最近では、「厚揚げ」が好調なのだというのです。これは、「厚揚げ」を製造する会社が減ってきていることに起因するのだといいます。「厚揚げ」は油を使うため、設備に負担がかかり更新が必要になりますが、ランニングコストがかかるため、再投資をするか判断するタイミングで断念する会社が多いのだというのです。そのため、相模屋食料に注文が殺到することになったのだと、鳥越社長は語っています。 【相模屋食料の今後の展望】 さらに相模屋食料は、全国各地の豆腐屋を救済し、地方の豆腐文化を守っていくことを実現させるためには、地産の国産大豆が必須であると考え、豆腐業界における国産大豆の利用拡大にも邁進していくのです。群馬県の大豆卸売業者である株式会社群糧も子会社化するなど、高品質な原材料の安定確保を実現しています。また、国産大豆ブランドのPRポイントの再構築(お客様ニーズの創出)が必要であると考え、国産大豆使用豆腐のリブランディングも推進していくのです。これまでの既存の価値観では、「国産大豆使用だから安心でいいもの」という大豆の価値訴求一辺倒であったものを、まず「美味しい」という豆腐の価値訴求からスタートし、そのワケは国産大豆を使用しているからという、あるべき価値観に変えていくのだといいます。 そして、相模屋グループ全体の今後の展望について、2024年の「東京ウォーカー」の取材に対して、鳥越社長は次のように語っているのです。「相模屋グループは、圧倒的に業界トップの位置に立ちました。ですから、今は、豆腐業界の再建や豆腐のマーケット、豆腐文化を守り、未来を築いていくことが私たちの使命だと考えています。今後も破綻しそうな豆腐メーカーをできる限り救い、“地豆腐”を活性化させていきたいですね。これらは事業拡大が目的ではなく、豆腐文化そのものに焦点を当て、それをどう育てていくかに注力したいと思っています。」……さらに「豆腐文化を守るという考えにいたったきっかけは何だったのですか?」というインタビュアーの質問に対しては、以下のように語っています。「再建するため各社を訪れると、それぞれが持っている豆腐づくりの技の素晴らしさに気づいたんですよ。見た目は古びた機械かと思いきや、職人が操作すると『こんな豆腐づくりあるの!』と驚くほどの技術を見せてくれるんです。それがとても興味深く、さらに豆腐づくりの奥深さに魅了されました。同じ木綿豆腐でも、地域によって全く異なるんですよ。工程を紙に書くと同じでも、実際の製造過程や出来上がりは大きく異なります。この豆腐の多様性、地域ごとの独自の文化を支える豆腐づくりがあることを知り、それを大切にしていきたいと強く感じたんです。」……そして次のとおり締め括るのです。「豆腐文化には未知の可能性がたくさんあるんです。ですから、これをもっと世に広めていきたい。そう思っています。実はアメリカでも豆腐は大人気で、木綿豆腐の需要が供給を上回るほど。アメリカの豆腐メーカーも大繁盛しているんですよ。今が、豆腐を世界に広げる大きなチャンスなんですよね。そのベースを私たちが築けたら素晴らしいと考えています。」 【豆腐業界にできて日本酒業界にできないことなどない!】 ここまでの、相模屋食料の「経営哲学」、「救済型M&A」、「伝統的な豆腐を『極める』&『進化させる』豆腐づくり」、「今後の展望」に書かれている内容を、「豆腐」の部分を「日本酒」に置き換えて、是非今一度読み直してみていただきたいと思います。全てそのまま、日本酒業界にも当てはまり、且つ日本酒復活へのヒントが山盛り描き出されているのではないでしょうか。さらに、日本酒メーカーにとってのみならず、酒類卸にとっても、酒販店にとっても、飲食店にとっても……たくさんのヒントが散りばめられていると感じています。その事例として一点だけ、最近「厚揚げ」が好調だという理由について、「厚揚げ」はランニングコストがかかるため断念する会社が多く、「厚揚げ」を製造する会社が減ってきているため、相模屋食料に注文が殺到することになったという部分を取り上げてみましょう。これは、昔ながらの酒販店にとっての、「御用聞き」や「配達」も、同様に考えることができるのではないでしょうか。いまや地域の酒屋さんの「御用聞き」や「配達」は、ネット通販やコンビニに取って代わられていますが、高齢社会における宅配ニーズや、地域に密着した信頼関係の醸成などにおいて、その価値が見直されている側面もあるのです。この「御用聞き」を新時代のビジネスとしてブラッシュアップできれば、その地域における「御用聞き酒屋」として、独り勝ちできる可能性があるということでしょう。このように、相模屋食料の事例には本当に数多くのヒントが潜んでいます。豆腐業界にできて日本酒業界にできないことなど、ひとつとしてないのですから。