【門前編】「世界観をつくる」から日本酒業界を考える!<後編> 前々回からは、前中後編の3回にわたって、「世界観をつくる~『感性×知性』の仕事術~」(山口周・水野学著朝日新聞出版・朝日文庫2025年12月30日発行900円+税)をベースとした内容を取り上げていますが、今回はその「後編」です。
[Ⅲ.未来をつくる] 【ブランドの世界観はどうつくるか?】 山口氏は、世界観のつくり方としてマツダが面白いと語っています。マツダは「役に立つ」の競争で苦境に陥った時期、常務執行役員の前田育男氏が、ブランド化しないと生き残れないと腹をくくったのだそうです。車というモノのみならず、いろいろな分野でビジュアルコミュニケーションをとってトータルでデザインし、さらに裏側には物語があるという、この難題をマツダはうまくやっているのだといいます。前田氏がマツダのデザインディレクターになったとき、最大の問題は長年フォードの子会社だったため、社長もデザインのトップもアメリカから来て5年程で帰ってしまうことだったというのです。どういう顧客に、どんな場面で、どういう使われ方をしてという物語をつくるには、10年単位の視点が必要ですが、彼らは赴任中に業績を上げようとするため齟齬があるのだと。そのため、フォードから後を引き継いだ前田氏は、どういう人にどういう車種だと思われるのが理想か、世界の自動車メーカーの中でどういうポジションにするのか等々、構想を練ったのだといいます。物語をつくるとは、言い換えれば「スケールを捨てる」ということ、つまりターゲットを絞り込むため市場は小さくなるということですから、勇気がいるのだというのです。そして、マツダはレシプロエンジンというニッチな世界で勝負しようと決めたのではと語っています。いずれレシプロエンジンは消えてモーターになるかもしれませんが、「それでも俺はレシプロエンジンが好き」という人にターゲットを絞り、彼らに買われ続けるブランドになろうとしたのではないかというのです。水野氏も、自身の車がパワーウィンドウではなく、息子さんから「窓の開閉が面倒」と言われるそうですが、「でもこの車のカッコよさは分かるだろ?この車に乗りたいなら、窓の不便さは諦めるしかないんだ」と言っているのだといいます。マスだけをターゲットにする勝負から降りたら、「らしさ」が際立ち、ブランドになれるのだと語り、進む道に迷う多くの企業にとって、ヒントが詰まった話だと語るのです。 山口氏は、マスをターゲットならパナソニックの圧勝ですが、商品開発力ならバルミューダの大勝ちだと語り、これからは規模が大きいことがメリットにならないのだといいます。グローバルに成長している企業は世界観があり、シーンの提供がちゃんとできており、これはターゲットがはっきりしているからで、「買ってほしい人」だけでなく、「買ってほしくない人」を決めるということだというのです。このターゲットの絞りこみが、日本企業はものすごく下手だと語り、市場を小さくすることへの恐怖心があるのでしょうと語っています。しかし、買ってもらいたい人がはっきりしていて、その人がおしゃれな人とかカッコいい人だと、その人に憧れる人も買うようになるのだといい、全員におもねらないほうがいいのだというのです。水野氏も、「マスを捨てよ、世界に出よう」ですねと語ります。日本のマスを捨てたら、世界の海は広がっているのだといい、なんだかいい話だなあと語るのです。 【レッドオーシャンこそ自分の居場所が見つかる】 水野氏は、日本でもやれることはまだたくさんある、やっていないことが多い気すらするのだといいます。よく「レッドオーシャンは勝ち目がないから、敵が少ないブルーオーシャンを目指せ」と言われていますが、疑問を持っているのだと。日本はモノもサービスも溢れ、どこの海も真っ赤っかですが、やりようはあるのだというのです。山口氏は、レッドオーシャンに飛び込んで世界観で成功した例は、ベタですがスターバックスだと語ります。自身が大金持ちだとして、同社が起業時に資金提供依頼のプレゼンに来ても断っただろうというのです。スペックだけだと成功する要素はゼロで、コンセプトを聞いても意味が理解できなかったと思うと。それが世界観だけで勝負して世界中に広がったのだといいます。そして水野氏は、スタバの何がすごいかというと、CMや広告ポスターというビジュアルがないところだというのです。インテリア、制服、カップ、マグ、ロゴ……それだけで勝負しているのだと。山口氏は、一番強力な意味伝達媒体が顧客になっている構図なのだといいます。六本木ヒルズなどでスタバに立ち寄って、ラテのグランデをテイクアウトして、片手にコートとブリーフケースを持って速足で出社する人の姿……そういう実際のシーンそのものが、最高のコミュニケーションメディアになっているのだというのです。水野氏は、それに加えてSNSの追い風を受けてスタイルに昇華していったのだといい、「スタバ」という世界観にターゲット自らやってきて、「スタバで一人、ラテを飲む私」という物語を発信する……やはりすごいなと思うと語っています。山口氏も、最終的にブランドとは、そこに集まる人がつくるという象徴だというのです。「スタバがない人生なんて考えられない。ドトールに戻ってくれと言われたら死んじゃう」っていう人が結構いそうです(笑)と語っています。 ここで水野氏は再び、どれほどのレッドオーシャンでも、「意味」をつくれればやりようはある、スタバがこれだけ活躍しているカフェ業界の海であっても、まだやり方はあるのだというのです。山口氏も、小津安二郎風な純喫茶とか、レトロな喫茶店がまた人気になっていますしと語り、コーヒー業界はさておき、いろいろなところでレッドオーシャンに「物語」で参入することは可能だと思うと語っています。非成長の成熟産業で、過当競争の上にスペースあたりの売上が小さいカフェ業界でスタバが成功できたのですから、と語るのです。そして、既存のトラディショナルなもので、みんな「これでもう十分」と思っているものでも、物語やシーンを提供できると、値段も3倍にできるのだといいます。値段が3倍にできるということは、逆にいうとお客さんが半分でも売上は伸びるのだと。日本は人口が減っていくのが明らかですから、国全体がそっちにシフトしないと未来がないのだというのです。 【携帯電話がガラケーになった理由】 山口氏は、あらゆる産業は二つの方向に動くのだといいます。一つはファッションビジネスで、「役に立つ」の時代が終わり、エアコンは涼しくする道具ではなく自分の好きなインテリアに合うエアコンにしたいとか……モノは自己表現の道具になっていくというのです。もう一つはサービス産業化するという流れなのだといいます。そして、これまでの日本は製造業で伸びてきましたが、二つの方向に向かうなら、価値を転換していかなければならないのだと。ならば価値を転換できる人がこの先必要で、今はまだその職業に名前がついていないというのです。今の職業でいうなら、それがクリエイティブディレクターだと語っています。水野氏は、慶應の学生にこんな話をしたのだというのです。「定員300席の映画館があり、全部クリエイティブディレクター用の指定席。まだ3つか4つしか埋まっていない。ガラガラです。」と。あらゆるビジネスの現場にクリエイティブディレクターが必要なのに、全然いないのだといいます。そして水野氏は、自身が考えるクリエイティブディレクターは、ブランドの世界観をつくれて、同時に経営のことも考えられる人で、クリエイティブやデザインの細部を見ながら企業やブランドのビジョンも描ける人だと語るのです。 そして水野氏は、iPhoneが登場したとき、日本の携帯は「ガラケー」と呼ばれ、たちまち外来種にやられたのだといいます。山口氏は、デザイナーズ携帯の時代もあり、デザインとしては素晴らしいものまであったのに、iPhoneが生まれなかったのは、クリエイティブ・ガバナンスの問題だと語るのです。それは、「機能の要件定義はエンジニア」「見た目の差別化はデザイナー」というバラバラなやり方をしていて、分断されていたという問題があったのだと。しかし、機能やインターフェースのあり方そのものがデザインの領域でもあるわけで、そこを完全に分けてしまったら、「キーボードなんていらない!つるっとしていたほうが使いやすいし美しい」という発想が出てこず、タッチパネルは生まれないのだといいます。水野氏も、携帯電話はこの先どんな姿になったら素敵かという大きなビジョンを描く人がいないままの分断された環境下では、iPhoneは生まれないのだというのです。山口氏も、日本の携帯電話産業には、クリエイティブディレクターの役割を果たせるデザイナーがいたのに、舞台がすごく狭く設定されていて、テクノロジーの部分にまで食い込むことができなかったことが、敗北の大きな要因だと語っています。 【デザインの前と後、そして物語と精度】 水野氏は、「デザインには前と後ろがある」のだといいます。「後ろ」は絵を描いたりとか、いわゆるデザイナーの仕事と思われている部分で、「前」はどんな料理をつくるかを考える上流の部分であり、この構想のうまい・下手こそが肝なのだというのです。山口氏も、シャネルは強烈なプライドと野心を持っていて、女性がもっと自由になって自分の服は自分で選ぶべきという価値観こそ、シャネルのデザインの「前」なのだといいます。シャネルのエレガントなドレスやバッグは、「女性の新しい生き方」という「前」があるからこそ誕生したのだと。シャネルもどきのコピー商品が氾濫していますが、彼女の価値観や生き様、時代に対するアンチテーゼはコピーできないのだと語るのです。まさに20世紀の女性はこうあるべきという構想で、頭で考えたのではなく、生身の喜怒哀楽も含めて打ち出した……だから革命が起きたのだと。これはスティーブ・ジョブズも同じで、彼がゼロックスの研究所に行ったとき、みんなが最新技術を眺めて「すごいですね」とのんびり言っているなかで、一人だけ「これは革命だ!」と大興奮していたのだといいます。彼には、高校生がマッキントッシュを使ってプログラミングをしてすごいことをやっている絵が見えたのだと。彼は自分の中で生まれた未来の世界観に興奮していたのだと語るのです。 山口氏は、講演などで「1000年後の未来に持って行きたい、素敵だと思うものを挙げてください」と質問すると、だいたい19世紀以前のものが挙げられるのだといいます。デザイナーもいない時代に、100年以上生き残るものがたくさん生み出されていて、一方で今は金も工業力もデザインのリテラシーも上がっているのに、なかなか100年生き残るものが生み出せないのだと語り、これは力量の問題ではないと語るのです。ここで水野氏は、物語と精度だと語ります。大量生産できるものは価値が下がるという理由だけでなく、やはりその当時の技術を集結して圧倒的な想いと精度でつくられたものには、強い意味が生まれるということだと語るのです。さらにもう一つ思うのは、後に残るものとは、「発明」なのだといいます。絵画もそうで、モネは印象派という発明をしたし、ピカソはキュビズムという発明をしたのだといい、逆にいうと発明をしたイノベーターしか残っていないのだと。今、世の中でアーティストと呼ばれていても、発明家の域まで行っていない人は、時の流れに淘汰されるかもしれないのだというのです。また山口氏は、悩ましいのは、iPhoneが出たとき、むちゃくちゃ新しく見えたわけですが、あれって最後はガラス板で、究極のカッコいいものがただのガラス板になるというのは、極論するとデザインはできなくなるということですよねと語っています。水野氏も、今ではギャラクシーでも何でも、外見はほぼ同じだというのです。そして山口氏は、他社とほぼ見分けがつかないのに、Appleの時価総額は高いわけで、そこにやはりデザインを考える一つの鍵があるのだといいます。見た目がほぼ同じなのにiPhoneが圧倒的に人気なのは、デザインがモノとしての形を意味するのではなく、そこに込められた物語であり、世界観であるということではないかと語るのです。 水野氏は、山口氏と語り合う中で、自分はもっと、諦めず徹底して細部にまで携わるべきだと思ったのだといいます。まだまだ余白があって、経営側の判断に委ねていた気がするのだと。「役に立つ」から「意味がある」へと時代が移る中で、ますます必要になっていくのが「精度」、あるいは「完成度」「美意識」と呼ぶものだというのです。ブランディングにおいてとにかく精度が大切で、商品自体はもちろんのこと、発送する箱、梱包の細部、広告、宣伝ツール、店舗の内装、POP、商品の品質表示のタグ、ショッピングバッグ、ショップカード、ウェブ、SNS、お客様相談室の対応、社長の服装やネクタイの色……ブランドにまつわるあらゆるものの積み重ねが、ブランドをつくりあげるのであり、その一つでも手を抜いてはいけないのだと。しかし、特に大手メーカーと仕事をしていると、「そうはいってもこれ以上は無理なので、もうこれでいきます」という場面がよくあるのだといいます。それでも、顧客から「これは意味があるな、価値があるな」と認めてもらうには、彼らの想像と期待を超えるこだわりと、完成度の高さが不可欠なのだと。ディープなマニアにも「こいつらやるじゃん」と認めさせるほどのこだわりをつくる側が持っていなければ、顧客に「意味」を見出してもらうことなんてできないのだというのです。 水野氏は、言葉も精度の高さがますます必要になってきたと語り、かつては広告とせいぜいパンフレットやウェブ上の文言だけ整えておけばよかったけれど、いまはSNSだけでも何種類もあるし、リリース記事自体も拡散されるのだといいます。さらにもう一つ思うのは、「意思や想いを持っていることの強さ」で、それは「大義」と呼ぶほうが正確かもしれないというのです。水野氏は、経験上、想いを持っている経営者の会社は、その時点でうまくいっていないとしても、改善の可能性が高いのだと。この商品で世の中をこう改善したいというような、強い想いは原動力になるのだというのです。山口氏も、検索エンジン開発競争で、モチベーションを持っている者が大手に勝ったという話をしましたが、これからその傾向はますます強まるでしょうと語ります。ですから、どうやったら他社と似たものを安くつくれるかとかだけ考えていると、絶対に勝てないのだと。既存顧客と競合他社のことだけ見ているような、過去だけを見ている会社に「意味をつくる」ことは難しいのだと語るのです。 【デザインが未来を連れてくる】 山口氏は、Sonyの盛田氏がウォークマンを売り出した際の有名な話を挙げます。最初は流通側がまず全然分からず、どこの販売店も扱ってくれなかったというのです。そのとき盛田氏は、ヘッドセットをつけた外国人モデルを100人雇って、「代々木公演をローラースケートで回らせろ、走らせろ、楽しそうに歩かせろ」と指示したのだといいます。水野氏も、未来のシーンの実演ということですねと表現するのです。山口氏は、もう座って家の中で聴かなくていい、何かしながらどこででも音楽が楽しめる、そんなシーンを街の中に描いたわけで、これがSNSのない時代でも話題になり評判になったのだといいます。そこで、スティーブ・ジョブズがゼロックスの研究所を見に行ったときに「これは革命だ!」と言ったみたいに、興奮しながら「在庫をありったけくれ!」と言ったのが、当時の丸井のバイヤーだったというのです。彼は音楽の革命だと分かったのでしょうと。水野氏は、未来を描ける力がいかに重要かということで、その力がないと「意味」をつくることも「世界観」を描くこともできないし、それだけでなく、新しいものを見たときにその「意味」と「可能性」に気づくこともできないのだといいます。山口氏は、未来を見せた人と、見せられた世界に対して「あ、これは来る!」と気づいた人がいて、結果的に本当に世界が変わったというのですから、すごい話だというのです。山口氏は、スタバのコンセプトを聞いただけだと投資はできないと言いましたが、言葉でいくら説明されても、「流行るとは思えない。よく分からない」というのはありますが、それを描いて人に伝える方法はあるはずだといいます。水野氏は、いまここにない未来を想像し、鮮明に思い描いて実現への道筋を考え、最終的なアウトプットまでをつくりあげる……それがデザインの役割だとあらためて感じると語るのです。矮小な意味での表層デザインではなく、「真の意味でのデザイン」の役割はそれだと思うのだと。デザインは未来を連れてくる……連れてこないとデザインではないのだといいます。山口氏も、スティーブ・ジョブズがMacのある未来のシーンを見ていたのと同じだと語り、物語をつくって、シーンとしてリアルに描いて、それを人にも提示できる人……職業としてデザイナーであろうとなかろうと、それが未来に必要な人材でしょうと語るのです。 【「未来をつくる」から日本酒業界を考える】 ここまでの「Ⅲ.未来をつくる」の内容から、ここからは日本酒業界について考えてみたいと思います。まず、マツダの事例からは、これからの時代は、メーカーも酒類卸も酒販店も飲食店もまず、「世界観」を築いてブランド化しないと生き残れないと腹をくくることが必要だということが学べるでしょう。酒というモノのみならず、いろいろな分野でビジュアルコミュニケーションをとってトータルでデザインし、さらに裏側には物語があるという、この難題に挑戦しなければならないのです。そのためには、どういう人にどういう日本酒(あるいは会社や店)だと思われるのが理想か、世界の酒類メーカー(あるいは酒類卸・酒販店・飲食店)の中でどういうポジションにするのか等々、物語の構想を練らなければなりません。物語をつくるとは、ターゲットを絞り込むため市場は小さくなるということですから、マツダのレシプロエンジンのようにニッチな世界で勝負しようと決めるということです。そして、たとえ捨てた部分を要望されても、「でもこの日本酒(あるいは会社や店)のカッコよさは分かるだろ?この日本酒を飲みたいなら(あるいは「この店で買いたいなら」等)、〇〇の部分は諦めるしかないんだ」と言われるようにならなければならない、それでこそ「らしさ」が際立つブランドになれるということなのです。日本のマスを捨てることで、世界に向かってグローバル化することができるのですから。 続いてスターバックスの事例は、酒販店と飲食店の皆さんにとって特に参考になるはずです。いかにして自店の顧客を意味伝達媒体に変えていくかと考えることが、自店ならではの「世界観」をつくりあげるためのヒントになるのではないでしょうか。それは、「〇〇店で、日本酒を買って(あるいは飲んで)、ホッと和んでいる私」をシーンとして愛している人たちを、いかに育てあげていくかということであり、「〇〇店がない人生なんて考えられない。△△店に戻ってくれと言われたら死んじゃう」とまで言ってくれるような熱狂的ファンを、どれだけつくれるかということなのです。そして、非成長の成熟産業で、過当競争の上にスペースあたりの売上が小さいカフェ業界でスタバが成功できているという事実は、酒販店にとっても飲食店にとっても、大いなる福音だといえるでしょう。どれほどのレッドオーシャンであっても、「意味」や「物語」をつくれればまだまだいくらでもやりようはあるという証明なのですから。そして、既存のトラディショナルな酒販店や飲食店でも、物語やシーンを提供できると、値段も3倍にできるのだという点にも未来の希望があるといえます。今後は間違いなく日本の人口は減っていくわけで、将来的にそちらの方向にシフトしていかなければならないことは明白なのですから。 次に、あらゆる産業は二つの方向に動き、一つはファッションビジネスで、もう一つはサービス産業化するという流れなのだとすれば、自身のビジネスをこの二つの方向で考えてみることが、「世界観」の構築のヒントになるのでないでしょうか。たとえば、日本酒がファッション化するということは、日本酒が自己表現の道具になるということで、スタバの事例にあった「〇〇店で、日本酒を買って(あるいは飲んで)、ホッと和んでいる私」をシーンとして愛している人たちは、まさに日本酒を自己表現の道具にしているのだといえるのです。また日本酒をサービス産業化するということは、たとえば日本酒というモノ自体に酒販店が独自に楽しみ方を付加した日本酒として販売するという手法など、いろいろ考えられるのではないでしょうか。続いて、なかなか100年生き残るものが生み出せない時代が現代だという話は、既に100年以上続いている酒蔵・酒類卸・酒販店・飲食店などが存在している我々の業界に、大きな希望を与えてくれるのではないでしょうか。その当時の技術を集結して圧倒的な想いと精度でつくられたものには強い意味が生まれるということは、100年を経過している場合、既に強い意味が潜んでいるということであり、ならばその「強い意味」を引き出して物語として表現すれば、立派な「世界観」になるということなのです。 次に、スマホとガラケーの話題からは、日本酒はこの先の未来にどんな姿になったら素敵かという大きなビジョンを描くことがいかに大切か、理解されるでしょう。その際に自社内(メーカーなら醸造担当部署と商品企画部署など)が分断されることなく、クリエイティブディレクター的な役割を持った者によりしっかり統合されていることが重要です。そして、ブランディングにおいては、とにかく精度が大切ですから、商品自体はもちろんのこと、発送する箱、梱包の細部、広告、宣伝ツール、店舗の内装、POP、商品の品質表示のタグ、ショッピングバッグ、ショップカード、ウェブ、SNS、お客様相談室の対応、社長の服装やネクタイの色……ブランドにまつわるあらゆるものに手を抜かないということも、肝に銘じておくべきでしょう。さらにそこに、意思や想いを持っていることの強さ、大義とモチベーションが芯を貫いて存在しているならば、ディープなマニアにも「こいつらやるじゃん」と認めさせることができるのだといえるでしょう。
そして最後に、シャネルとスティーブ・ジョブズと盛田昭雄の革命を、日本酒業界に当てはめて考えてみましょう。まず、未来の日本酒ファンが新時代の斬新な楽しみ方をしている姿を、リアルに想い描いてみることでしょう。そしてそこに、価値観や生き様、時代に対するアンチテーゼ、次世代の飲み手はこうあるべきという構想……等々を包含させ、頭で考えるのではなく生身の喜怒哀楽も含めて打ち出すのです。さらにその際には、ウォークマン売り出しの例のように、実際にその未来のシーンを楽しそうに実演して見せるのです。もし仮にこれが真に実現できたとするならば、その時こそ日本酒業界に革命が起きることになり、世界は一変することでしょう。