日本酒の製造工程を
知ればさらにお酒が美味しい!
心惹かれる匠の技とは

Know this about sake!

日本酒のペアリングを気軽に楽しもう!

日本酒は、主原料が「お米・米麹・水」とごくシンプルでありながら、銘柄ごとの特徴は千差万別で、個性豊かな香りや味わいを楽しめるのが魅力です。日本酒がどのように造られているのか、製造に込められた技術やこだわりを知れば、日本酒1滴1滴がさらに美味しく感じられるはず。

この記事では、日本酒の製造方法や品質・味に与える影響、美味しい日本酒を造り出す匠の技についてわかりやすく解説します。製造工程に特徴のある日本酒の種類についても紹介していますので、日本酒選びの参考にしてください。

日本酒ができるまでの製造11工程

日本酒は、日本特有の製造方法で作られています。造り手の技術だけでなく麹菌と酵母という2種類の微生物の働きを活用し、いくつもの工程を経てやっと完成します。日本酒ができるまでの製造11工程について、順を追ってみていきましょう。

精米

まずは、酒造り用に栽培されている酒米の玄米を、精米機で「精米」する作業から始めます。酒造好適米とされるお米は、お酒の雑味となるタンパク質や脂質などの成分が少ないことが大きな特徴のひとつです。とはいえ、玄米の表層部分には、この雑味となる成分が含まれるため「精米」作業で取り除く必要があります。
通常の精米歩合は75%程度、吟醸酒では60%以下、大吟醸酒では50%以下というように、精米歩合を調整することで、香りや味わいが変化します。一般的には、精米歩合の数値が低ければ華やかな香りですっきりとした味わい、精米歩合の数値が高ければ米本来の香りで旨味のある味わいになります。

洗米(せんまい)・浸漬(しんせき)

次に、精米したお米の表面に付着している米糠を水で洗って取り除く「洗米」と、お米を水に浸して適量の水分を吸収させる「浸漬」を行います。米糠も日本酒の雑味となる成分を含むため「洗米」でしっかりと落とします。
「洗米・浸漬」の作業で最も気を付けなければならないのが、お米に吸収させる水分量の調整です。適量の水分でなければ、この後の「蒸し」以降の作業に大きく影響するため、ストップウォッチで時間を計測しながら、秒単位で気を遣う作業となります。お米の品種や精米歩合、その日の気候や温度など、様々な条件を考慮した繊細な調整が必要となるため、長年の経験と勘が頼りとなる作業です。

蒸し

お米が適量の水分を含んだら、次は「蒸し」の工程です。一般的には、お米を「こしき」と呼ばれる大きな桶に入れ、高温で約1時間蒸して「蒸米」を造ります。お米といえば「炊く」イメージがありますが、炊くと水分が多く軟らかいお米になるため、日本酒造りでは「蒸す」ことで程よい硬さと水分のある蒸米に仕上げます。
蒸し具合を確認した後は、「麹」「酒母(しゅぼ)」「もろみ」の用途別に分け、それぞれにあった適温に冷ます「放冷(ほうれい)」を行います。蒸米は、後の複数の工程で使われるため、蒸し具合の確認には、職人の見極めを必要とします。

製麹(せいぎく)

蒸米が適温に冷めたら、蒸米を「米麹」とも言われる「麹」にする作業に入ります。「一麹、二酛、三造り(いちこうじ、にもと、さんつくり)」という言葉があるように、日本酒造りで最も重要な工程です。蒸米を30℃前後の温室「麹室(こうじむろ)」に移し、広げた蒸米に麹菌の胞子を振りかけます。麹菌が付着した蒸米を、積み上げたり広げたり繰り返して、麹菌の繁殖を促し、温度を微調整しながら約2日間かけて麹に仕上げていきます。

麹菌は繁殖するときに、色々な酵素を生成しますが、その中の一つがデンプン分解酵素です。お米のデンプンを分解しブドウ糖に変える働きをします。このブドウ糖を取り入れることで酵母がアルコール発酵するため、麹の良し悪しが発酵速度に影響してきます。ほかにも、麹菌が生成するタンパク質分解酵素によって、旨味成分となるアミノ酸ができるため、日本酒の味わいを作り出すという非常に重要な役割も担っています。

酒母造り(しゅぼづくり)

麹、蒸米、水を混ぜ合わせたものに、雑菌の繁殖を抑える乳酸菌と「酵母」という微生物を加え、日本酒のもととなる「酒母」を作ります。「酒母造り」は、入室制限や低温管理などの雑菌汚染防止を徹底した「酒母室」で行い、約2週間かけて酵母を大量に増殖させます。酵母は、ブドウ糖をアルコールに変える働きがあり、使用する酵母の種類によって日本酒の香りが変化するのが特徴です。また、酒母は乳酸菌の取り入れ方によって2種類に分けられ、醸造用乳酸を添加したものを「速醸(そくじょう)系酒母」、自然の乳酸菌を取り込んだものを「生酛(きもと)系酒母」といいます。

もろみ仕込み

ここから、日本酒の前段階となる「もろみ」を作る工程に入ります。通常は、できあがった酒母をタンクに移し、麹、蒸米、水を3回に分けて加える「三段仕込み」という方法で行います。3段階に分けることで酒母が急激に薄まるのを防ぎ、雑菌の繁殖や酵母の働きが弱まるのを防止します。「もろみ仕込み」の工程を見ていきましょう。

・1日目「初添え(はつぞえ)」

まずは、酒母の入ったタンクに、麹、蒸米、水を全体の7分の1程度入れて仕込みます。

・2日目「踊り」

2日目は仕込みをせず、タンク内の酵母がしっかりと増殖するのを待ちます。

・3日目「仲添え(なかぞえ)」

酵母が増殖し始めたタンクに、麹、蒸米、水を全体の3分の1程度追加して仕込みます。

・4日目「留添え(とめぞえ)」

仕込みの最終日です。残りの麹、蒸米、水を全部入れ、仕込みの終了となります。

もろみ発酵

仕込み終わったタンク内の「もろみ」は、麹による蒸米のデンプンの「糖化」と、酵母が糖をアルコールに変える「発酵」が同時に進行する「並行複発酵」が進みます。この醸造方法は世界でも類を見ない日本酒独特の方法で、約3週間の長い時間をかけてゆっくり発酵させることで、アルコール度数17~18度程度の熟成したもろみとなります。発酵させる温度は、高すぎると美味しいお酒にならず、低すぎると発酵が止まってしまうため、細やかな温度管理が求められます。例えば、吟醸酒の場合、特有の華やかな香りを生み出すためには、もろみの温度を10℃程度の低温で約1ヶ月保つ必要があります。

上槽(じょうそう)

いよいよ日本酒を搾る工程です。発酵が終わった熟成したもろみを搾り、日本酒と酒粕に分ける「上槽」という作業に取り掛かります。もろみから日本酒を搾る方法はいくつかあり、機械を使って搾る方法や、昔ながらの「槽(ふね)」を使ったものが一般的です。最高級の大吟醸や鑑評会に出品するお酒の場合には、伝統的な「袋吊り」という方法で搾られることもあります。ちなみに、「にごり酒」は、もろみを目の粗い布袋で濾して、あえて酒粕の成分が混ざった状態にしたお酒のことをいいます。「搾り」について詳しくは、この後の「製造工程が日本酒に与える影響と匠の技」で解説しています。

おり引き・濾過(ろか)・火入れ(ひいれ)

上槽を終えたばかりの日本酒には、お米や麹などの小さな固形物「おり」が残り、少し白く濁った状態です。そのまましばらく寝かせておりを沈殿させ、澄んだ上澄み部分だけを抜き取る「おり引き」を行います。さらに微細なおりを取り除いてクリアな日本酒に仕上げるため、活性炭やフィルターを使った濾過機で「濾過」します。「無濾過」と呼ばれる日本酒は、まったく濾過をしていないわけではなく、活性炭を使わずフィルターのみで濾過した日本酒のことです。濾過した後は、60~65℃の低温で加熱殺菌する「火入れ」を行い、お酒に残っている酵素を失活させて味が変化するのを防ぎます。

貯蔵・熟成

火入れした後、日本酒をタンクに「貯蔵」して数ヶ月ほど「熟成」させます。熟成することで新酒特有の荒々しさが取れ、まろやかな味わいに変化して飲みやすくなります。ただ寝かせておくのではなく、熟成しすぎたり味が損なわれたりしないよう、ベストな熟成期間や温度管理を徹底することが重要です。通常は15~20℃程度の温度で貯蔵して熟成させますが、吟醸酒などのフレッシュな香りを残す場合や季節商品、特殊な商品などは、火入れ後すぐに瓶詰めを行い、マイナス5℃程度の冷蔵庫で「瓶貯蔵」することもあります。

瓶詰め

ついに最終工程となる「瓶詰め」です。一見簡単な作業と思われるかもしれませんが、味の変化や劣化を防ぐ絶妙な調合と温度管理、異物混入を防止する厳しい検品など、最後まで気の抜けない作業が続きます。貯蔵され熟成した日本酒の「原酒」は、アルコール度数が18度程度と高くなっているため、瓶に詰める前に水を加える「割水」をしてアルコール度数の調整を行います。また、通常は瓶詰めのタイミングで2度目の火入れを行い、雑菌汚染防止のために加熱殺菌処理します。そして、瓶詰めされた日本酒にラベルを貼れば完成です。

製造工程が日本酒に与える影響と匠の技

日本酒の製造工程は、細部にわたって気の抜けない作業が多く、1つひとつが日本酒の味わいや品質に影響します。ここからは、日本酒造りのポイントとなる「蒸米」「麹造り」「搾り」の工程に注目し、作業1つひとつへの「匠のこだわり」が、仕上がりにどのように影響するのかを解説します。

日本酒の質に大きく影響する「蒸米」

「蒸米」は、「麹」「酒母(しゅぼ)」「もろみ」造りという日本酒製造で重要となる複数の工程で使用されます。そのため、蒸米の良し悪しが日本酒の質に大きく影響します。日本酒造りに最も適した蒸米は、外側はべたつかずに適度に硬く、内側が軟らかい「外硬内軟(がいこうないなん)」のものです。麹造りでは、麹菌が蒸米の硬い外側から柔らかい内側へとしっかり入り込むことで質の良い麹となります。また、蒸米の出来は糖化や発酵にかかる日数にも影響してきます。

理想の蒸米に仕上げるためには、お米の状態やその日の気温と湿度を考慮しながら、蒸し加減を調整できる経験と技術が必要です。蒸しあがりの確認では、匠が蒸米をもち状にして「ひねり餅」を作り、硬さや弾力、手触りや香りなどを五感によって見極めていきます。

日本酒の味を左右する最も重要な「製麹」

「製麹」は、日本酒の製造工程のなかで最も重要な工程です。麹が生み出す酵素はアルコールの生成に必要なだけでなく、日本酒特有の旨味成分にも関わってくるため、麹の質が日本酒の味わいを左右します。

「麹菌」は温かいと繁殖しやすい反面、繁殖する際に熱を発して高温になると繁殖をやめてしまいます。生きた微生物が相手の麹造りは、非常に神経を使う作業です。サウナ状態の「麹室」での作業は汗だくとなり大変なものですが、匠の経験や観察眼を活かし、蒸米1粒1粒の変化を見逃さないよう混ぜたり、盛ったり、広げたりして、温度をコントロールしながら麹菌の繁殖を促します。そうして出来た麹は、麹菌の菌糸が成長し内側までしっかりと入り込み、乾燥してさばけが良く、美味しい日本酒の素となります。

日本酒製造の仕上げ「搾り」

「搾り」は、熟成したもろみから日本酒を搾る工程です。「搾る」とひとことにいっても、搾り方によって味わいが変化するため、日本酒製造の仕上げとなる大事な工程です。造るお酒に求める味わいや質を考えて適切な搾り方を選び、より良い日本酒になるように仕上げていきます。搾り方は次のように大きく3つに分かれます。

・連続式圧搾機

現在、多くの蔵で行われている機械を使って搾る方法です。短時間でより多くの日本酒を安定して搾ることができます。

・槽(ふね)

浴槽のような入れ物に布袋に詰めたもろみを並べ、時間をかけて徐々に圧力を加えて搾る、昔ながらの方法です。

・袋吊り搾り

布袋に詰めたもろみを吊るし、圧力を加えることなく自然の重力だけで搾る方法です。主に大吟醸や鑑評会へ出品するお酒に使われる手法で、タンク内に隙間なく吊るすことで空気に触れる面積を最小限に抑え、時間をかけて1滴1滴雫を集めます。クリアな味わいの大変希少なお酒が搾れます。

製造工程の違いで変化する日本酒の味わいと呼び方

日本酒は、製造工程で行われる「火入れ」のタイミングや、「貯蔵・熟成」する方法や期間の違いなどで、味わいや呼び方が変わります。製造工程を知ったうえで飲み比べれば、違いの感じ方もこれまでとは違ってくるかもしれません。

火入れの有無やタイミングが異なる「生酒」「生詰酒」「生貯蔵酒」

日本酒は、殺菌や酵素の働きを止めて味が変わるのを防ぐために「火入れ」を行います。通常は「おり引き・濾過」の後と「瓶詰め」時の2回行われますが、「生」と言葉がつく日本酒は、火入れを全くしない、または、火入れのタイミングが違います。「生酒」「生詰酒」「生貯蔵酒」の火入れの有無とお酒の特徴についてみてみましょう。

呼び方 火入れ 特徴
生酒 全くしない 搾りたてのフレッシュな香味が楽しめます。味の変化が速いため、要冷蔵で早めに飲み切るのがおすすめです。
生詰酒 「おり引き・濾過」後に1度だけ行う 「生」の風合いを残しながら、鮮度感のある味わいが楽しめます。雑菌の繁殖を防ぐため、貯蔵する場合は要冷蔵です。
生貯蔵酒 「瓶詰め」時に1度だけ行う 「生酒」に近いフレッシュ感を楽しめます。常温保存可能ですが、キリリと冷やしてがおすすめです。

貯蔵・熟成する期間が特徴の「ひやおろし」「古酒・長期熟成酒」

出来上がったばかりの新酒は、弾けるような若々しさや荒々しさが魅力ですが、「貯蔵・熟成」することで味わい深く変化します。「生詰酒」を代表する「ひやおろし」は、冬場から春先にかけて仕込み夏を越え、秋口まで貯蔵・熟成させるのが特徴です。再度火入れはせず、日本酒の常温を意味する「冷や」の状態で「卸す」ことからそう呼ばれ、旨みの乗った熟成感のある味わいが楽しめます。
また、味わいだけでなく、色や香りの変化も楽しめる「古酒・長期熟成酒」は、長い年月をかけて貯蔵・熟成させるのが特徴です。酒造や銘柄によって熟成期間や熟成方法に違いがあり、2年のものや10年以上のものまであります。一般に、黄色みがかった「琥珀色」となり、果実が熟したような「熟成香」とトロリとした口当たりが楽しめます。

滅多にお目にかかれない究極の大吟醸「斗瓶囲い(とびんがこい)」

日本酒のなかでも、滅多に市場に出回らないのが「斗瓶囲い」です。斗瓶囲いは、その年の最上の酒米を磨き上げ、仕込んだ大吟醸のもろみを「袋吊り」などで搾り、1滴1滴の雫を最良の部分だけ1斗瓶(一升瓶10本分のずん胴瓶)に集めて低温貯蔵した究極の日本酒です。
ちなみに、日本酒は搾りの部分でも味わいが変わります。搾り初めに出てくるお酒を「荒走り」といい、やや濁りや荒々しさがあります。続いて流れ出てくる澄んだお酒を「中汲み」といい、味わいや香りのバランスが良い最良の部分で、この部分を鑑評会や斗瓶囲いに使います。最後に圧力をかけて出てくるお酒を「責め」といい、中汲みに比べると味わいが濃く感じられます。

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まとめ

日本酒の製造工程は、複雑で繊細な作業が続くだけでなく、季節を越えて丁寧に行われます。それぞれの工程は1つとして無駄がなく、温度やタイミングなどのわずかな違いが仕上がりに大きく影響する重要なものばかりです。日本酒は、世界でも類を見ない日本特有の方法で造られ、微生物の持つ生命力と造り手の技を最大限に活用することで、やっと出来上がるお酒です。1滴1滴に込められた造り手の想いを感じながら、日本酒をじっくり味わってみてはいかがでしょうか。

日本酒の製造工程を知ればさらにお酒が美味しい!心惹かれる匠の技とは